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その1 ボクとタンポポのテンションメーター


 あま――あひゃぁ――い。


 ソフトクリーム型生クリームがボクの身体に染み渡っていく。


 ここは冒険者の町の商店街にあるチーズ屋さんの前、そこでボクとタンポポはお菓子を食べている。

 あれから更に一回、ボクたち二人はこのチーズ屋さんでのっぱらモーモーお乳の仕入れのバイトをした。


 今日が三回目だが、前回、前々回同様、この生クリームのお菓子を食べてからの出撃となったのだ。

 この生クリームのお菓子を食べると、二人のテンションは一気にマックスになるのだ。


 このテンションを引き上げるという行為が、この後でとてもとても大切になってくるのだ。


「女子高生としては朝昼晩これでもいい気がするかも、あと三時のオヤツも」

「外のオジサンとしてはそれはどうかと思いますけど、成人病が危険ですよ」


「それじゃあお二人とも、今日もよろしくお願いしますね」


 お菓子を出してくれたこのチーズ屋さんの奥さんが、にこにことボクたちを眺めた。


「本当に可愛い姉妹。お姉ちゃんと歳の離れた妹さんと――」


 ストップです! 奥さんそれ以上はいけません!


 奥さんは『いってらっしゃい』と言いながらお店に帰って行った。


 お菓子を食べ終わると急激に心が暗くなる。二人のテンションが急速に沈み込む。


「さてそろそろ行きますか……タンポポさんや」

「そうだね……みのりんはん。はーどっこらしょいのよっこいへ」


「「ネギ屋へ……」」


 せっかく上昇させたテンションメーターがだだ下がりである。

 生クリームのお菓子を予め食べておかなかったら、地面にめり込んでた事だろう。


 二人の腰は非常に重い。三度目にして早くもゲッソリなのである。

 ネギ屋さんに行くと、やりたくもないガチャを引かされるのだ。


 前回はタンポポがネギの受け取りをやった。伝統ガチャは、脇に挟むというものだったが、脇がくすぐったくて笑ってどうしようも無いみたいだった。


 脇にネギを挟んで爆笑するオバケというのも風情があるのだが、笑いすぎて頭痛が酷くなったオバケは暫らく無言で歩いていたのが痛々しい。


 その日ボクが聞いたタンポポの言葉は『頭痛が痛い』これだけだ。


 今日はボクの順番か……

 こうなったら奥の手の切り札カードを出しますか。


 そのカードとは、この前ネギ屋さんで出会った栗色のショートの女の子の事である。

 彼女は『ネギ買う時は声かけてくれ』と言ってくれていたのだ。


 確かあの子は商店街でお魚屋さんをやってると言っていたっけ。

 あのお魚屋さんの子に無表情のネギ屋を討伐してもらって、普通に代金を支払う事だけでネギを入手する壮大な計画である。


 商店街の中でそのお魚屋さんを探して歩き回ると、ようやくそれらしいお店を発見。

 どこの商店街でも見かけるような、いたって普通のお魚屋さんである。


「お魚って牛は食べるのかな。でもこのお刺身美味しそうだよ、日本人ならわさび醤油で食べたいところだね。こっちの干物は大根おろしでいきたいかも」


「牛のエサでもありませんし、あなたのご飯でもありませんから。それとボクはわさび抜きでお願いします」


 目をキラキラさせて魚を見つめるタンポポを、目をキラキラさせて魚を見つめるボクがたしなめた。


「いらっしゃい、お嬢ちゃん達、何の魚が欲しいのかな」


 店主らしいオジサンが声を掛けてきたのであの子を呼んでもらおうとするが、よく考えたら名前を聞いていない。


「あの、そうじゃなくてこの店の――」

「あ、これキスかな、良く似てるよみのりん、キスって天ぷらにすると美味しいんだよ」


 ボクが店主に説明しようとすると、タンポポの声が割り込んできて邪魔をする、うるさいですよタンポポ。


「キスかい? 新鮮なの入ってるよ」

「いえ、キスじゃなくて」


 ってその魚の名前やっぱりキスなのか、偶然すぎて驚くわ。


「なんだ、魚のキスじゃないのかい。じゃあもしかしてアレかい、オジサンとのチューかな? こんな若い子とのチューなんてオジサン照れちゃうなあ」

「全く違います。別のキスにチェンジしてください」


 赤くなって無理矢理な勘違いをしないで下さい、お店の奥にいる奥さんの目がギラリと光りましたよ。ホウキを握り締めてますけど、どうなっても知りませんよ。


「ああ何だ、うちのキスかい、ちょっと待ってな」


 なんかよくわからないけど話が通じた。

 ポカーンとしていると、店主が奥に向かって声を掛けている。


「おーいキス! お友達が遊びに来てるぞ!」


 どうやらあの子の名前はキスらしい、とにかく名簿にインプットと。


 キスの登場を待つが、次の店主の言葉でガッカリだ。


「いやーゴメンな、キスのやつ魚釣りに出かけてるみたいだわ。お詫びにこれ持ってってくれ、お嬢ちゃん達、これからもうちの子と仲良くしてやってくれよ」


 ボクとタンポポ用にくれた二枚の干物を仕舞いながら、お魚屋さんを後にする。

 お魚屋の娘さんとは友達でもなんでもないのでちょっと後ろめたいが、思わぬ食料確保にタンポポと小躍りしてしまった。


 遊びに来た十代の娘の友達に、お父さんがうっかり魚の干物を押し付けて、後で娘に嫌われる。というのは日本でもよく起こる悲劇だ。


 だが見て欲しい、その干物で娘っ子二人はジャンプして喜んのだ、さすが異世界といったところか。日本の常識は通用しないのである。


「ようしみのりん、次は大根を買いに行くかも、干物には大根おろしが合うんだよ」

「次に買いに行くのはネギですよタンポポ」


 ネギ……


「「ふー」」


 せっかく干物で上昇した二人のテンションがまた下がった。


 次回 「タンポポ司令官殿に敬礼!」


 みのりん、ネギを買って落ち込む



 この作品と同じ世界、同じ町、同じキャラで展開する物語

「モンスターはお肉なのです! お肉屋の娘さんが最強スキルでお肉を取りに行くのんびり生活」

 の連載をスタートさせました。


 以前登場したお肉屋さんの娘、アルクルミが主人公です

 もし良かったら読んでみてください

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