その4 ボクとタンポポ VS 特殊部隊
ネギも積み込み草原を二人で荷車を引きながら、タンポポがこのアルバイトをする事になった経緯を説明してくれた。
「昨日オッサンを着て散歩中にあの店の前を通りかかったんだよ、そしたらお店の前であの女の人とお爺さんが困った顔で相談しててね。『乳搾り』という単語が聞こえたから素通りできなくなって話に顔をつっこんだかな」
なるほどなるほど、田舎の女子高生にはよくある事です。
「で、乳搾りなら私にまかせろって話になって」
「そこはわかります、田舎の女子高生なら当然です」
「でしょ?」
「問題はどうしてボクなんですか、荷車運びならオジサン本体で行くか、サムライにでも頼んだほうがいいでしょう」
「みのりんの男の娘スキルって、モンスターを惹きつけるんでしょ」
やっぱりそれか。まあこんなスキルでも使わないともったいないからいいんだけど。
「アホみたいな数のモンスターに遭遇しても知りませんよ、のっぱらモーモーは群れでいるって話ですし。この前だって二千匹に襲われそうになったんですよ、タンポポは二つに折れていて知らないでしょうけど」
「そこは大丈夫なんだよ、穴場があるんだもん」
そういえば、この前のカレンたちとの討伐とは違うルートで、今回は町からそのまま西に向かっていたのだ。
「ここだよ。ちゃんと話に聞いたとおりだった」
そこは三十分ほどで到着した。なるほど近い、穴場だというだけはある。
見ると十体くらいののっぱらモーモーの群れが見えた。
カレンが知らない穴場なのだろうか、これならやりやすそうではある。
というかあっさりモンスター発見で、ボクのスキル必要でしたかこれ。
「あそこにいるのは普通ののっぱらモーモーじゃなくて、少数精鋭の特殊部隊モーモーなんだよ。熟練冒険者も危なすぎて近寄らないみたい」
「さ、帰りましょうか」
カレンがここに連れて来ないわけだ、この二人で何をどうしろと言うのか。
「大丈夫だって、私に任せるんだもん、まずは」
ネギを短剣で適当な長さにカットしたタンポポは、それをボクに渡し。
「みのりんはここに座っていてね」
と言って近くに伏せた。
一匹の特殊部隊がボクに気付いたようだ。
もう帰りたい……
グリーンベレーだかネイビーシールズだかの模様が入ったのっぱらモーモーが、ボクだかネギだかに惹かれて近寄ってくる。
以前本で挿絵を見た事あるわ、こんなシーン。
草原にいる女の子座りの少女に、一角獣のユニコーンが近寄ってくる幻想的なシーンの絵だ。
ちょっと違うのは、ボクは正座で相手は頭にドリルが付いた牛という所か。
モンスターがネギに気を取られムシャムシャし始めると同時に、タンポポが牛の横にスっと入り見事な手つきでバケツに乳を搾り始めた。
のっぱらモーモーがとても気持ち良さそうにトロンとしている、少数精鋭の特殊部隊も形無しである。
相変わらずの手腕だ、いよいよ田舎の女子高生、異世界のんびり田舎暮らしという作品がスタートしたみたいだ。
なるほど、この身体の方が慣れてて使い勝手がいいと言っていた、タンポポの言葉がよくわかったわ。
オジサンではこうも上手くいったかはちょっと不明なのだ。
あっという間にバケツ一杯の乳を搾ると、牛がトロンとしている間に移動。
また別の場所で特殊部隊を待ち伏せする。
ネギを食べ始めたらタンポポが搾って陣地を移動。
こんな方法を繰り返して十体ちょっとののっぱらモーモーのお乳を搾り、大きなミルク缶三本が満タンになってしまった。
最後のバケツの乳を荷車の上のミルク缶に入れ終えると、さて撤収となったわけだが。
しかしここで重大な問題が発生したのである。
荷車が重すぎて動かないのだ! 少女二人だもの当たり前だ。
「これは計算ミスだったかも」
「ボクは薄々気がついてましたけどね、どうするんですかこれ。ボクたち二人では動きませんよ」
ふーこれはもうお手上げといった感じのボクとタンポポ。
「しまったな、引っ張ってくれる牛でもいてくれたら良かったんだもん……」
「え? タンポポ今なんて言いました?」
おおーこの映画みたいなセリフのやり取りを一回やってみたかったんですよ。
「今? しまったなって言ったかな」
「そこじゃなくてその後ですよ」
「その後? みのりんは役立たずだなあって」
「今セリフのラストの『……』にそんな事言ってたんですか!」
思わずタンポポに飛びかかったが、特殊部隊がこちらを向いたので慌てて二人で草むらに伏せる。
「そうじゃなくて、牛ですよ。牛ならそこに沢山いるじゃないですか」
ハっとした顔のタンポポ。
「当然、最初からそのつもりでこの姿で来たんだもん」
ハっとした後で、よくドヤ顔でそんな事が言い出せるもんだなこの人は。
余っていたネギを持ちボクが草原に座る、今回は正座じゃなくて女の子みたいに座ってみる。
幻想的なあのファンタジーイラストを再現するのだ。
近寄ってきた特殊部隊の牛は、ネギを食べずに崩したボクの足をじっと見ている。
慌てて正座をするとネギを食べ始めた。
行儀が悪いと言う事か、なんて作法にうるさい牛だ。
ボクがプイっとふくれていると、タンポポが即座に牛の中に入った。
キョトンとする牛、掌握完了である、タンポポももう慣れたものだ。
タンポポ牛に荷車を装着して町へと出発、牛の力は凄いものですぐに町に到着した、楽なもんである。
門に到着するとタンポポ牛から荷車を外し、牛は元の群れに返すためにタンポポが操って引き返して行く。
牛を返したタンポポが戻るまでの間に、店の人に連絡して荷車を運ぶ人手を呼んで貰った。
門では町の住民達がざわついていた。
少女が危険なモンスターに荷車を引かせて登場したのだから無理も無い。
ちょっとした女騎士凱旋の気分で気持ちがいい、エッヘンである。
冒険者みのりん! ここに参上! なのだ。
因みに、このお乳搾りのミッションクリア報酬は十二ゴールド、一人六ゴールドになった。
次回 「午後はカレンと楽しい討伐」
後日談、というか午後談




