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その3 ネギ屋で死にかけるボク


 タンポポにスプーンで口にクリームを突っ込まれて速攻で機嫌が直ったボクは、次に女子高生に連れられてネギ屋さんにやって来た。


 お店の横に荷車を置いて、店内に入っていく。

 この冒険者の町の特産品だというネギ、そのお店に入ったのは初めてである。


「ネギなんかどうするんです?」

「のっぱらモーモーのエサにするに決まっているかも」


 それ以外何があるの、というタンポポの顔にやっぱりかと脱力する。

 相手はモンスターですか。お乳搾りで薄々気がついてはいましたとも、ええ……


「らっしゃい」


 出迎えた店主は男の人で、何というか無表情だった。


 女の人じゃなかったのは良かったのだが、無表情で見つめるのは何か怖い。

 店の中はあれだ、ネギ屋さんと言うだけあってネギしか置いていない。


 先ほどのチーズ屋さんは、チーズ以外にも牛乳や生クリームを使ったお菓子なんかの乳製品に、ミルク成分を使ったメイク用クリームなんかも売っていて華やかだった。

 でもここはネギ、ネギだけ。圧倒的なネギ、ネギの世界。


「ネギ二本で一ゴールドは高すぎるかな、せめて三本一ゴールドにして欲しいかも」


 さっさとネギ地獄から脱出したいのにタンポポが余計な交渉を始めた。


「私の国には三本のネギということわざがあるんだもん。三本まとめたネギは折れにくいんだよ、だから古来からネギは三本と決められてるんだもん」


 なんか無茶苦茶な事を言い出しました。冗談なんだろうが、本気で言ってる可能性があるからこの人は怖い。

 店主は無表情でボクとタンポポの足を眺めながら聞いていたが。


「しょうがないな、古来からのしきたりというのはこの店もとても大切に守ってきているからな、お姉ちゃん達の太モモに免じて三本一ゴールドにしてあげるよ」


 何に免じているのかサッパリだけど、無表情で太モモとか言うのやめて欲しい。


「ではまずはこれ」


 と言って店主が突き出してきた一本のネギを、タンポポが受け取ろうとするとすぐに引っ込めた。

 そもそも何故一本ずつなんだろうか。


「違う違う、お姉ちゃん。この店のしきたりに沿った授受方法でやってくれなくちゃ困るよ」


「それはどんなのかな。最近来たのでよくわからないんだよ」

「なるほど他の町から来た人かい、そういや別の国の話してたっけな格好も変だし、よしじゃ教えてあげるよ」


 タンポポの問いに、店主は無表情で彼女の太モモを見つめながら説明をしだした。


 もしかしてこの人ってボクと同じタイプの人だろうか。女の人の顔が恥ずかしくて胸を見るボクみたいに、それすら恥ずかしくて太モモを見る、みたいな。

 無表情なのは動揺を隠す高度なテクニックなのかも知れない。


「この町のネギ屋には古来からしきたりがあってな、うちの店ではネギを受け取る際に客は太モモで挟んで受け取るのだよ」


 なるほど、ボクの考えは違っていたようだ。


「そんな愉快なしきたりが……」


 タンポポもちょっと引き気味だ。


「大昔からの伝統でな、文化は大切に保存しようとネギ協会で定められている」

「そうか、私の田舎でもいろんな風習があったからわかるんだよ。それなら仕方無い、しきたりに沿って受け取るよ」


 なんだかよくわからないが、タンポポが納得したのならそれでいいか。


「ではみのりん、よろしくかな」


 こっちに振ってきた!


「何でボクですか、タンポポがやればいいじゃないですか」

「私の田舎には女子高生は太モモにネギを挟んではいけない、鬼が来るという言い伝えがあって」


 過疎で無くなってしまうといいそんな田舎。


 そんなわけが無いとは思うのだが、鬼が来るという部分が怖いのでボクはやる事にした。

 この世界では何が起こるかわからないからだ、決して、そ、そういうのを信じているわけじゃないぞ。


「まあ、妹さんでもいいか。いくつ離れてるんだ、五歳? いや七歳くらいか」


 ボクはまた不機嫌になりますよ、ぷん。


「どうした、ほれ」


 店主が無表情で突き出したネギを太モモで挟む、冷たくて『ひゃっ』という声がでた。


 二本目はやたら低い。


「あの、もう少し上に上げて頂けませんか」


 店主は無表情だ。


「仕方無いのだこれはしきたりだから、鬼が来るから」


 何で店主も鬼の話に乗っかってるんですか! ボクが鬼を怖がって何でもやると思ってるんですか、残念でしたねそんなの来たって木の棒で退治しますから。


 でもまあ、とりあえずしゃがんでネギを挟んで受け取っておこうか。む、昔からの風習は守ったほうがいいですからね。


 三本目は高い位置。お、鬼なんか怖くないけど、とりあえず爪先立ちでなんとかネギを挟んで受け取った。


 全部受け取った頃には謎のネギ攻撃によりボクのヒットポイントは1に低下、床に横たわり息も絶え絶えの死にかけである。恥ずかしかったけど頑張りました。


「よく頑張ったよみのりん、私感動しちゃったかも。ネギの受け取りで感動って生まれるもんなんだね。私が監督なら映画化だよ」

「ソレハヨカッタ……ヒュウ」


 言葉と一緒に魂みたいなものが出てきて慌てて吸い込む。


「それじゃお代」

「みのりん、お代だって」


 ボクが払うんですか!


「ゴメンね、私スッカラカンなんだもん、報酬出たらちゃんと返すんだよ」


「買わないのなら、返却してもらうよ。しきたりに沿って青い髪のお嬢ちゃんの太モモで……」

「わかりましたボクが払います。これ以上おかしなしきたりに沿ったら、鬼以前にボクがあの世です」


 お財布から一ゴールドを取り出す。まさか、これを店主が太モモで挟んで受け取るんじゃないだろうな……

 と思っていたら店主は普通に手を出してきた。なんだか負けた気分だ。


「まいどー」


 店主は終始無表情である。何この人、誰か成敗してくれないかな。


 とその時、店に新しい客が入ってきた。

 その客は栗色のショートの髪でショートパンツ姿の男の子だ、まさか男の子も今のをやるのだろうか……


 だが少年を見つめるボクの目は何故か泳いでいる、違う……このセンサー反応は女の子だ。

 ボクのキョドりセンサーはその客が女の子だと告げていた。


「いらっしゃい、魚屋の子か、ネギ買いに来たのか」

「おう、ネギ二本くれ」

「じゃ、その太モモに」


 そう言った瞬間、店主の顔に女の子の拳がめり込んだのである。

 無表情だがちょっと嬉しそうな店主にお金を渡すとネギを買い、彼女はボクたちの方に向いた。


「私はこの近くで魚屋やってんだ、ネギ買う時は声かけてくれ。この町のオヤジ共はこの拳で粉砕すっから」


 ネギをブンブン振り回しながら去って行く少女を見送りながら感じる、何だかカレンみたいな子だなと。

 またどこかで会えるかな。


 なんだかどっと疲れが出て、一仕事やりきった感じだけど、本番はこれからなのだ。


「それじゃあ、行こうかみのりん」

「ふう、はい」


 無事に帰って来れますように。


 次回 「ボクとタンポポ VS 特殊部隊」


 みのりん、幻想的なファンタジーイラストを再現しようとする

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