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その2 タンポポの頼み事とは


「うわ、何か食べてる。何勝手に一人で相談もなしに注文してるかな」


 ボクが満面の笑みでサンドイッチを頬張っていると、やってきたのはタンポポだ。

 何でタンポポここにいるの? とサンドイッチで脳の殆どを持っていかれたボクはガチでそんな事を考えていた。


「私が来たのをどうして不思議そうにしてるのかな、迎えに行くって言ったよね。それなのにサンドイッチを食べててずるいんだもん」


 そういえばそんな約束だった、コロっと忘れていた、サンドイッチの魔力は実に恐ろしいものだ。


「タンポポも注文すればいいじゃないですか」


 タンポポがスカートのポケットから小さなお財布を出す、中を開けて無表情の光の無い目で見つめると閉め、お財布を仕舞った。

 また何に使ったんだこの人は……


 テーブルの対面に座ってタンポポがじーっとサンドイッチを見ている、両腕の人差し指を咥える人なんか初めて見た。


 お皿の上には最後の一つ、中指も咥えだした。

 このままだと全部の指を食べそうなので、タンポポの前にお皿を指で押し出してやる。


 タンポポがお皿を自分の所に寄せようとするがボクの指は離れない、またお約束のお皿うーうーをやった後でタンポポに聞いた。


「どうして中身が出て来ちゃってるんですか。また蓋を閉め忘れたんですか」

「オッサンにはお眠りしてもらった」


 幸せそうにサンドイッチを頬張るタンポポはセーラー服姿である。


「今日はこの身体の方が勝手がいいからね、やっぱり慣れてる方が都合がいいんだもん」

「何をするんですか? 女子高生の方が慣れてるとか、オシャレ関係なんですか」


 そういえば頼み事と言ってたのを思い出す。

 サンドイッチを食べ終えたタンポポは言った。


「みのりんには、私と一緒にアルバイトをして欲しいかな」



****



 ギルドから出てタンポポの言うアルバイト先に向かう。

 そのお店はこの町の商業地区にある商店街の中にあった。


「あれ、このお店、見た事ありますよ」


 それはこの前カレンが、のっぱらモーモーのお乳を売りに行ったチーズ屋さんである。


 ここで店員のバイトでも始めたのだろうか。

 タンポポと一緒にお店の中に入ると、店内は女の子たちが好みそうなオシャレな内装で明るくて華やかだった。


「ちょっとタンポポ、こういうお店はオシャレでいいんですけど、ボクはこんな女の人が来そうな場所で店員なんかできませんよ」


 確かにこういうお店の店員はいかにも女子高生の方が慣れてて、勝手もいいかもしれない。


 ボクも年齢的には変わらないんだけど、いかんせん女子高生として暮らした経験はゼロなのだ。これは無理すぎる。


「こんにちは、お乳搾りのバイトに来たかも」


 女子高生だ、オシャレだなんだは、全く関係の無い空の彼方に飛んでった。


 どういう事ですかタンポポ。お乳搾り? お店の雰囲気と到底似合いそうに無いバイト内容に力が抜ける。

 カウンターから出てきたのはこのお店の若奥さんといった感じの女の人である、ボクは当然の事ながら早速キョドりはじめる。


「あらあら、お嬢さんたちありがとうね。えーとタンポ男さんの紹介ですね」

「はい」

「はぃ、え?」


 何だかよくわからない事になってる、最初に事情を問い詰めとけばよかった。


「もしかして、タンポ男さんの娘さんかしら? 本当にお父さんにそっくりね」


 そう言われたのはボクではない、隣でショックを受けているセーラー服娘だ。


「……似てるのかな。そんなつもりは全然なかったんだけど」

「ええ、雰囲気というか、よく似ています。お父さんの顔がイメージで浮かんできますね」


 その人似てるとか以前に本人なんですけど、飼い犬は飼い主に似るみたいな? それよりもあの特徴の無いオジサンの顔をイメージできる事に驚いた、これが商売人の底力なのか。



「この荷車を使って下さいね、ミルク缶は三缶で良かったんですよね、あとこのバケツと……本当に助かったわ、おじいちゃんが腰やっちゃって」


 三人で店の裏にまわって奥さんの指示を受けている所だが、燃え尽きた感じで何本も斜線が入っているタンポポをまずはなんとかしないといけない。


 ポンと肩に手を置くと虚ろな目で見つめ返してきた。

 自分が自分に似ていると言われてショックを受けるという、ワケのわからない精神状態にどう慰めてよいものやら……


「そうだわ」


 奥さんが両手をパンっと叩いた。ボクは女の人のいきなりの『パンっ』でビクンとなる、攻撃されたようなものだ。

 一旦お店に戻り、程なくして出てきた奥さんの両手には、コーンカップに生クリームがたっぷり乗ったお菓子がある。


 攻撃した後にお菓子とは、さては飴と鞭作戦か。そう考えながらボクの目はお菓子に釘付けだ。


 最初アイスクリームかと思ってしまったそれは、口にすると冷たくないだけでめちゃくちゃ美味しい、この店自慢のお菓子らしい。


 あま――あひゃぁ――い。


 げんきんなもので、タンポポの機嫌はイッパツで直った。

 おそらくスプーン一口で十分だっただろう。


「とても美味しいんだもん、ありがとうございます。じゃあ帰ろうかみのりん」

「ちょっと待って、甘いもので何しにここに来たか忘れていますねタンポポ」


「ああ、良かった。お父さんに似てると言われてショックを受けていたみたいだから。私も経験ありますからね、あれは辛いですよね。私の人生が終わったと思いましたから」


 すげー、何でもお見通しだ、商売人怖い。でもお父さん可哀想。

 感心して奥さん(の胸を)を見ていると、彼女はボク向かって。


「妹さんもお姉ちゃんを慰めてあげてね。本当に似ている可愛い姉妹ね、いくつ離れてるのかな五歳くらい? ううん七歳くらいかな?」


 今度はボクが不機嫌になったんだもん……


 次回 「ネギ屋で死にかけるボク」


 みのりん、ネギの売買で酷い目に遭う

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