その4 討伐中に起きた大事件
ボクたちパーティが遭遇した事件とは。
幼馴染の手腕に改めて関心していたアルクルミのスカートの中に、一匹のカナブンが突入したのだ。
普通ならたかが虫如きで……だろうが、虫が引き起こす事件を舐めて貰っては困る。ボクはこの世とさよならしかけたのだ。
「わっ! きゃっ! 何! 虫? わわわやめてやめて、変な所に止まらないで」
カナブンはアルクルミのスカートの中で暴れているようで、同じく彼女も暴れだした。
「ああ、スカートの中に虫ね、私に任せるんだよ。私もよく経験あるかな、カブトムシやらクワガタやら」
元田舎の女子高生だったタンポポが、アルクルミのスカートを持ってバッサバッサやりだした。
おしい! いつものタンポポならよかったのだ、しかし今のタンポポときたら――
オジサンが少女のスカートをめくるの図である。完全にアウトである。
その瞬間、アルクルミがタンポポ(オジサン)の身体を抱え高々と持ち上げると、地面に叩きつけた。
瞬時にバーン! である。
「ごめんなさい、ごめんなさい。私セクハラ行為を受けると、即座にスキルが発動して相手に反撃してしまうんです!」
どうやらアルクルミのスキルは、対セクハラ自動反撃スキルというもので、彼女の意思とは無関係に即座に相手を仕留めるというものらしいのだ。
なんという迷惑、いえ羨ましいスキルですか、ボクもそれめちゃくちゃ欲しいですよ。
ボクの場合、セクハラ行為を受けても気が付かないので、スキルでの自動反撃なんてめちゃくちゃいいじゃないですか。
でも謝っても相手は聞いていませんよ。地面にバーンされた時の衝撃で、中身が飛び出て道脇に飛んでいきましたから。
幸いタンポポの中身のタンポポが飛び出る所をアルクルミは見ていないようで、カレンもお肉解体に夢中で見ていない。
飛んでったタンポポの所に行くと、森の中でセーラー服の少女が太モモも露わにお尻を押さえて悶えていた。
なんだかちょっとエッチなシーンにドキっとしてしまうが。
「おけつ、おけつが割れた、二つに割れた」
小学生みたいな事を言っているので一瞬でそんな気分はふっ飛んでいった、さすがタンポポである。
「何あの子、突然攻撃してきたよ、助けてあげようとしただけなんだもん」
タンポポがお尻を押さえながらアルクルミから見えないように木の陰に隠れた。
「タイミングとその姿が悪すぎましたね」
「やっぱり、オッサンになってからろくな目にあわない。いい事なんて何一つ無かった」
確かに今の女子高生の姿なら、キャっと言われるくらいで済んでたかも知れないですね。
それにしても困った……
なんとかしてタンポポを母機に帰還させないといけない。
「どうやったらオジサンと合体できるんですか」
「気持ちの悪い言い方しないでもらえるかな。普通に入ろうとしても入れないんだもん、強制的に起こせばその瞬間に入れるんだけど」
叩いて起こせばいいって事だろうか。
「今アルクルミが起こそうとして、本体のオジサンの顔をパンパン叩いてますがあれでいけます?」
「無理かも、私も叩いたり蹴ったりエルボー食らわせたりしたけど、身体に対する打撃方法じゃ全然だめだったもん、顔パンパンくらいじゃ無理」
自分の身体に何してんですかあなた。
「打撃以外の刺激があれば……例えば何か気付けに臭いものでも顔に乗せればいいんだけど」
「その辺にうんこが落ちてないか探してきます」
「何を乗せようとしてるかな、さすがにそれは私も怒るというものだよ」
打撃以外の刺激だの臭いものだの言われても、こんな清々しい森の中でどうしようもないんですけど。何かないかと辺りを見回す。
「みのりんの足を気絶してる私の顔に乗せてくれないかな。あ、靴は脱いで欲しいかも。オッサンの顔だけど一応乙女の顔なんだし」
「ボクの足が臭いみたいに誤解を受けるような方法を、思いつかないで貰おうか」
「仕方無いんだもん、ここじゃゴザ無いんだし放置できないんだもん」
ゴザ以前に食われますね。うーん……
倒れているオジサンタンポポに近づく。
アルクルミが傍らでオロオロしていた。
「口を開けて回復薬をと思ったんだけど、歯を食いしばっていて開けられそうにないのよ、どうしよう」
ボクは靴を脱ぎ、涙目でタンポポ本体の顔の上に足を乗せた。
アルクルミがポカーンとしている、そりゃそうですよね、少女がオジサンの顔を踏みつける図なんてボクが見てもドン引きですよ。
なんだかオジサンの顔が心なしか幸せになったような気がした。
「起きないじゃないですか」
ボクは再び戻ると、草と木の陰に待機しているタンポポに詰め寄った。
「夢の世界に行った、みたいかな」
「ボクに恥をかかせただけですか、どうしてくれるんですか。初対面の人に変な子だと思われたじゃないですか」
「変な子だと思われた程度ならいいんじゃないかな、今のシーンは私もドン引きしたから」
「あなたがやらせたんでしょうが!」
「どうしようもないんだよ、こうなったらみのりん、顔の上に座ってみて」
絶対に嫌です!
「ふー、やるしか無いかな、この方法だけは使いたくなかったけど。みのりん、私の靴下を脱がせて。違うよ女子高生の靴下じゃなくて、それだとオッサンは更に幸せの国に行っちゃうかもしれないから。そうじゃなくてオッサンの靴下をオッサンの顔に乗せてみて」
まったく、方法があるんなら最初からそれを提示してくれないと困ります。でも今度はオジサンを脱がす少女の図が展開されるのか……
もういっその事、女子高生タンポポが偶然通りかかった事にして、四人でオジサンを運んだ方がいいかも知れない。
でも重そうだしな、カレンがお肉を運べなくなるのはさすがに申し訳なさ過ぎる。
渋々倒れているタンポポ本体の所に戻った。
頑張るしかないか、とオジサンの靴を脱がせてボクは固まった。一瞬気絶しかけたのを踏みとどまるのに必死である。
「ちょっと! 何をどうしたらああなるんですか! 尋常じゃないですよ! あれは少女が嗅いでいいレベルではありませんよ! 犯罪です!」
ボクは半泣きになって女子高生を問い詰めていた。
「私に言われたって困るんだもん、すぐああなるんだもん、オッサンには逃れられない運命なんだもん」
振り返るとアルミルクがいよいよ泣き始めたのを見て、もう決意するしかなかった。
自分の責任だと思いつめて、これ以上女の子を泣かせるわけにはいかないのだ。
「戦ってきます」
ボクは自身の武器である『木の棒』を構えると、颯爽と地獄の戦場へと舞い戻っていった。
ボクは今日天に召されるのかも知れない。
木の棒でタンポポ本体の靴下を脱がす、こんなに便利な初期装備だったのかと思い知るが、こいつは後で消毒しないといけない。
靴下を顔に乗せた瞬間タンポポオジサンは起き上がった。本体がクサっと思った瞬間にタンポポが身体に滑り込んだのだ。
カレンはお肉を見てたし、アルクルミは後悔から泣いて目を擦っていたので目撃はされていない、セーフだ。
そして今ボクはヒットポイント1になって横たわっている、弾みで飛んできた靴下がボクの顔の上に乗ったのだ。もうすぐ皆とお別れだろうか……
ミーシアなら、全てを焼き払ってくれただろうか……
今日は平和な一日だったはずなのに……こんな形でカレンたちとお別れになろうとは……人生わからないものである。
靴下と靴を履き直したタンポポに謝るアルクルミ、タンポポも心なしか落ち込んでいるようだ、なんというか可哀想な子だと思う。
「どうしたの?」
解体したお肉を四つの袋に分け終わったカレンが不思議そうに聞いていた。
この人、お肉に夢中でこの大騒動に全く気が付いていなかった模様である。
袋を一人一つずつ担いで町に帰る一行は、オジサンの運命にションボリしたタンポポ、オジサンを攻撃してしまったアルクルミ、靴下が顔に乗って死に掛けたボクと、三者三様の落ち込み理由でトボトボと歩いていく。
先頭を歩くカレンだけが上機嫌だった。
因みに今日持って帰ったお肉は一人六ゴールドになった。
第10話 「お肉屋さんとお肉の仕入れ」を読んで頂いてありがとうございます。
新しく登場した肉屋の娘アルクルミから見た今回のお話は
リンクしている作品「モンスターはお肉なのです!」の
第5話 「カレンと転生者の女の子」
で、アルクルミの勘違い目線で読む事ができます
よろしかったらそちらも読んでみてください
そして次回から第11話になります。
次回 「田舎の女子高生の異世界田舎暮らし」




