その2 遭遇、カレンとタンポポオジサン
シゲさんが帰り食事も済んだので、第二ラウンドを開始しようかとタンポポを見る。
シロに対して、羨ましく思いそうだった気持ちを払拭するためにも、ここはタンポポに犠牲になってもらうしかないのだ。
「ボクの人としての尊厳を守る為です、これは仕方の無い事なのです」
危険を察知したタンポポはダンボールハウスの端まで後ずさる。だがもう逃げ場は無いぞ、クックック。
怯えるオジサンをいたいけな少女が追い詰めていく。
「な、何を言っているのかな、私から物を奪わないで欲しいかな」
涙目で訴えたタンポポのこの言葉に、ボクは雷に打たれたような気がした。
「ごめんなさい、そうでしたボクが悪かったです。危うく死に掛けた犬から骨を奪うような鬼畜な行為をする所でした」
深く深く反省した。
ボクの人としての尊厳を守る前に、ド鬼畜になるところでした。
「あんまり失礼な事を言わないでもらえるかな、私だって傷つくんだもん。そんなに欲しいのなら、みのりんも買えばいいんじゃないかな、二十ゴールド持ってるんだし」
「そんなもの、のっぱらモーモーステーキに使ってしまったに決まっているじゃないですか」
「なにそれずるい」
とにかく買った店を教えて欲しいと、何故ステーキの事を教えてくれなかったのかと抗議するタンポポを町に連れ出した。
例の女性の足に凄いこだわりを持つ服屋さんには、スカートしか売っていないのだ。
頭の中は完全にレディースパンツで一杯で、カレンに遭遇するまで今日の討伐の事を完全に忘れていた。
「あ、みのりん早かったね。私も今来たとこだよ」
そこはカレンと待ち合わせの約束をした時計台広場だ、近くにはよく使うオープンカフェもある。
これは不味い事になった……と、焦りまくる。
タンポポオジサンとカレンという因縁のある二人が、ボクの不手際により出くわしてしまったのだ。
カレンとタンポポオジサンは互いに見詰め合っていた。
ファーストコンタクトは最悪だったこの二人。何事にも最初の接触時が大事で、いきなり戦争にまで発展する事はままある。
タンポポを見ると完全に目が泳いでガタガタ震えていた。
可哀想に、かつてカレンにボコボコにされたトラウマが発動しているのだろう。
少女の前でガタガタ震えるオジサンを、町の通行人が不思議そうに見ている。
まるでボクたちがいじめているようじゃないか、震えるのやめて欲しい。
しかしカレンは何も覚えていなかった、無理も無いのだ、あまりにも特徴の無い普通のオジサン過ぎて覚えられないのだ。
ボクですらダンボールハウスの外にいるタンポポに、度々『こんにちはオジサン、タンポポに何か御用ですか?』と聞いてしまっている程だ。
「こちらはみのりんの……お父さん?」
違います。
タンポポ本体と町に出て『お嬢ちゃん、パパとお出かけかい?』と聞かれるのは覚悟していたさ、でもカレンに言われるとは思ってなかった。
「はじめまして私はカレンといいます。娘さんとはいつも仲良くさせて頂いています」
「カレ……違う……お友達……」
「なんだ、お友達かー。勘違いしちゃったよ、私はカレン! よろしくね!」
友達の友達は友達なのだ、オジサンとか無関係なのはカレンらしい。
「こ、こんにちは、私はタンポ……」
不穏な所で切らないでください。
思わず焦って名前を言いかけたタンポポだったが、寸前で止める事ができたようだ。
「タンポ?」
「タンポ男です」
「あれ……あなた……どこかで」
「はっはっはっは 我が愛しき姫君ではないか」
かつてカレンのお尻を触ったタンポポの手を握って、カレンが何かを思い出しそうに首を傾げた所でサムライが現われた。
とても良いタイミングですサムライ、でも姫と呼ぶのは禁止です。
「こんにちはサムライ」
「お、おう、我が嫁のご友人殿もおったか」
残念ですが、嫁と言い直すのも禁止です。
「そちらの御仁もお仲間かな?」
いきなりカレンに挨拶されてちょっと目が泳いだサムライは、泳いだ先でタンポポに気が付き、そのオジサンの肩に手を置いた。
「よし語り愛だ。ワシはサムライ、この町でサムライをやっておる」
「タ、タンポ男です、この町でオッサンをやってるかも」
オジサンと筋肉の何とか愛はやめてください、今のタンポポにとってはある意味カレンより恐ろしい存在かもしれない。
「誰この人? 異世界にまるでそぐわない格好をしてるから変なんだもん」
タンポポがかなり引き気味だ、筋肉ムキだしのお侍さんが現われれば女子高生としては困惑もするだろう。
だがサムライも、普段セーラー服姿のタンポポにだけは言われなくないと思います。
異世界にまるでそぐわない格好同士、仲良くなれるかもしれませんよ。
というか前回会っているのだが、カレンを狙う事に執心していたタンポポは、このサムライの事には全く気が付いていなかったみたいだ。
「そうかよろしくな! タンポ男殿!」
サムライはそう言うと、タンポポの背中を『バーン!』とぶっ叩いた。
筋肉の山に普通のオジサンがしばかれたのだ、タンポポオジサンが一瞬気絶しかけて、セーラー服のタンポポが飛び出るのをボクが慌てて押し戻す。
「ねえ、今一瞬タンポポちゃんが見えたような気がするんだけど」
残像です。
「そうか、残像かー、今何故だかタンポポちゃんの事を思い出してたからかな、残像なんてそうそう見えないのにね」
「そこの生足が美しいお嬢ちゃん達、どうだい買わ……目が! 目がああ!」
カレンがもの凄い速度で横にスライドして、串焼き屋さんのセクハラ店主に目潰しを決めた。
残像でカレンが何人にも見えた程である。
「ではワシはこれにて」
「用事でもあるの? せっかくだしサムライも討伐に誘おうかと思ったんだけど、お肉一杯運べるし」
カレンがサムライを討伐に誘う。
確かにサムライが居れば百人力だ、モンスター一体分のお肉を丸々持ち帰る事だって夢ではない。
「はっはっは、ワシはこれから筋肉宿屋にちと用があってな、すまぬ」
残念そうなカレンに謝ると、サムライはボクをお姫様抱っこした。
「では参ろうか」
もの凄い速度でボクの電光石火剣『木の棒』が、サムライの顔面に突き刺さった。
残像が見えたと後にカレンは語っている。
次回 「お肉の仕入れに出発します」
みのりん、お肉屋さんと出会う




