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その7 激突! のっぱらモーモー戦!


「戦闘態勢!」

 カレンが叫ぶ。


 突っ込んでくる二体の〝のっぱらモーモー〟

 すぐさまカレンが左側のモンスターに突撃!


「スパイクトルネード!」


 カレンのスキルが発動!


 いくつもの風の精霊を纏った剣がカマイタチのように空を切り裂き、モンスターに襲いかかる。モンスターは回避しようとするが遅い!

 一瞬にしてのっぱらモーモーを縦に真っ二つにしてしまった。


 いつもは『スパーン!』で終ってるけどカレンのスキルはガチなのだ、いつ見ても凄い。


 そして、こんな状況でも部位を取りやすい斬り方にするとか、やっぱりカレンは凄い。

 速攻でお肉に解体を始める所もこれまた凄い。


 カレンは凄くて凄いのだ!


 右から来たもう一体は、サムライが身体で受け止め突撃を抑えた。

 サムライVS牛モンスター! なんという凄まじい戦いだ、ボクは息を呑む!


 この前は狭い洞窟での戦闘なので出番はなかったが、いよいよその大太刀――


 サムライはのっぱらモーモーを二つに折った。


 ――大太刀のとてつもない威力を見せてくれるのではないか! ――という前振りも言い終わらない内に、である。


 折れるんだ、のっぱらモーモーって折れるんだ。


「この戦果は姫に捧げるでござる」


 サムライがボクに向かって言っているようだが、姫って誰だ。


「おうおうサムライの、さっきから聞いてればよお、嫁だの姫だの、みのりんちゃんはオラッちの『嫁姫』だっての」


 最初に押さえていたモンスターを倒したモンクがサムライに絡みだした。おかしな単語を作り出さないでください。


「おう、僧殿、息災でござるか。残念ながらあの娘は拙者の『姫嫁』なのでな」


 どっちの姫でも嫁でもありません、困ります。サムライも変な対抗心出さないでください。


「ここは筋肉で話をつけようじゃねえか、サムライの」

「よいぞ僧殿、筋肉での語り愛、ぶつかり愛でござるな」


 その漢字やめて下さい、マンクも望む所だ! って言っちゃダメ。


 脳筋二人ががっぷり組み、ぶつかり愛をしだした頃には、モンスターの群れ全てが気付いた様子でこちらに向かって来ていた。

 二百体による総突撃は圧巻である。


 もうだめだ、ボクたちはあれに蹂躙されて全滅するのだ。


 モンスターの大集団が全力で襲い掛かってくる……生きていられるのはあと何秒か……


 また女子会やりたかったな……楽しかったな……

 ああ、また皆で遊びたかったな……



 

 大地より火炎来たれり――

 天より火炎来たれり――





 ミーシアが呪文を唱えだした。


 草原に響き渡る呪文を聞いた時、思わず涙が出そうになった。ああ! 今回はミーシアがいてくれてるんだ! ミーシアがいて本当によかった――!


 こうなってはもうミーシアの火炎爆発魔法に頼るしかないのだ、完全にお手上げである。


 ミーシアの高く天に向かって上げられた右手と、地に向けられた左手に炎が灯る。


「火は全ての力の源たり、全ての生命に宿る熱き炎を携えて――」


 群れが目前まで迫っている!

 間に合え――! 間に合え――! 間に合って――!


「我が身と我が前に立ち塞がる者共を――」


 ミーシアが筋肉同士の取っ組み愛に巻き込まれた。


 固まったボク。

 転がったミーシアは、目がぐるぐるになってノビてしまっている。


 な! 何をしてくれてるんですか! おいこら! そこの筋肉たち!


 カレンが慌てて回復薬を取り出してミーシアの方に駆け出そうとするが、一番近くの一体はすぐそこにまで迫ってきている!


「私にまかせるかも!」


 タンポポがその一体に突入してモンスターの中に消えた。


 その様子を見ている者は誰も居なかったのでホっとしていると、モンスターは立ち止まりキョトンとしている。

 よし! 掌握完了! 偉いですタンポポ!


 しかしタンポポモンスターはカレンの方を確認すると、あろう事か彼女目がけて突撃を開始したのだ。


 おいこらそこのオバケ! さっき褒めたの返して下さい!

 どいつもこいつも今日帰ったら反省会ですからね! 帰れたらの話ですが。


 カレンはモンスターに気が付くとロングソードを構えるが、その剣はモンスターに届く事はなかった。


 勝負している場合ではないと、取っ組み愛を中止したサムライが寸前でそのモンスターをせき止め二つに折ったのだ。


 あ……タンポポ折られちゃった。


 そのままサムライは突撃してくる群れに向かって咆哮。


「男同士の語り愛を邪魔立てするとは無粋! 物の怪ごときが許さんぞおおおおお!」


 凄まじい咆哮にビクっと止まる二百体の群れ、野獣の出現に恐れをなしたその群れは一斉に反対方向に駆け出したのだ。


 あれのどこが語り合いだったのかはひとまず置いといて。

 か、勝った……



「うそ……凄……」


 カレンが少し顔を赤くしてサムライを見ている。

 その人はやめた方がいいですよカレンさん、オススメしません。不良物件です。


「お肉が四体分……! 凄い! 奇跡かな、信じられない!」


 赤らめた顔を押さえて『キャー』っと喜んでいるボクの相棒。きっと相棒にボクの心が通じたんでしょう、ありがとうございます。


『ドドドドドドド』


 地響きがしたのはその時である。


「なんだなんだ、オラッち揺れてっぞ? 誰だ揺らすのは」


 地震!? このタイミングで大地の怒りイベントですか?


「オラッちの心を揺さぶるのはみのりんちゃんだけのはずなのに、さてはみのりんちゃんを抱き締めるイベントが発生したのか」


 マンクはうるさいですよ、ボクの怒りイベントが発生しますよ。


「おいアレ見ろよ、やべえぞこりゃ」


 マンクが指差した方角、先ほど二百体が撤退した方向から恐ろしい数ののっぱらモーモーが押し寄せてくる。


「ありゃ二千体はいるぞ、どうする、オラッち戦えそうにないぞ」


 モンスターがさっきの十倍の数で逆襲してきた! 数の暴力ですよ。物量作戦は戦術も個々の武勇も全て飲み込むのだ。


「うむ、さすがの拙者でも、これはちと無理というものでござる、はっはっは」


 サムライは笑いながらノビたミーシアを抱えると、荷車に放り込んだ。


 カレンはそれを見てミーシアはサムライに任せると、解体済みのお肉の塊を抱えて荷車に乗せ、ボクは半分に折れたタンポポ(牛ではない方)を回収して荷車に運んだ。それをサムライがひょいと荷車の上に放り込む。


 パーティ+飛び込み一名の見事な連携で積み込みが終わると。


「撤収!」


 六人は逃げに逃げた。



 途中で群れは諦めたのか、飽きたのか、追跡をやめ引き返していった。今はのんびりと森に近い草原を歩いている所だ。


 荷車の上では出番が無かったミーシアが体育座りをして落ち込んでいる……期待されたイザという時にも出番が無かったんだからそりゃあね。


 ボクはそっとミーシアにマントを返した。


 カレンが回収したお肉+お乳+花束は実に百二十ゴールドにもなり、一人二十ゴールドの分け前となる。

 今、目をまわしてノビているタンポポが、二十ゴールドでまた目をまわすのも全て町に帰ってからのお話。


 さあ町に帰ろう、と森から離れて町の方角に向かう時、チラッと森を見たんだけど。


 出番の無かったやんばるトントンが寂しそうにこちらを見ていた。


 第9話 「新しいモンスター討伐大作戦」 読んで頂いてありがとうございました。



 次回から第10話になります。


 あるお店の人と出かけます、はたして何のお店なんでしょうか。



 次回 第10話 「お肉屋さんとお肉の仕入れ」

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