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その6 モンスターのミルクを奪え!


 目の前にはもの凄い数の牛、じゃなかったモンスターがいた。


 モンスターじゃなかったら、牛が牧草を食べてるだけののんびりした風景なんだけど。


「ありゃーちょっと多すぎだね、二百体はいそう、普通は十体くらいの群れなんだけどなあ。さすがにこの数は見つかったら危なすぎるから、こっそりお乳を貰うくらいで撤収しようか」


 カレンがちょっと残念そう。カレンがお肉を諦めるとは、天地がひっくり返ったりしないだろうな。


「オラッちも女の子のぬくもりが味わえたし今日は満足でい」


 マンクは黙ってようか、本当に心の底から満足そうな顔してますね、あっちで荷車のぬくもりを味わっててください。

 あ、ミーシアがまた石ころを見るような目になってますよ。


「あの牛と石ころの人を、私がフレイムオーバーキルで吹っ飛ばそうか」


 近寄ったミーシアが魔法スキルで一網打尽にする事を提案するが、カレンはそれには賛同しかねているようだ。


「さすがに一体仕留める為に二百体を吹き飛ばすのはね、私も気がひけるよ。ん、石ころ?」


 そうだよね、あいつらって牛にしか見えないしね。


「すぐにまた発生するとはいえ、黒焦げにしちゃったらお肉がもったいない! ねえ、石ころって何?」


 キッパリ言い切ったカレンさんのお肉への執念ここに見た気がする。


「それじゃあ私は一体何の為に呼ばれたのよ……」

「お肉運ぶの手伝ってもらおうと思って」


 ガックリきたらしいミーシアはその場で膝を抱えて座り込んだ。


 張り切ってわざわざ着替えて、ミーシア本人にとっては晒したくない服で町の中を歩いてきた上での出番無しとは切ない。


「ご、ごめん、もちろんイザという時の為に必要なんだよミーシアは。この前パーティが全滅しそうになった時に心の底から思ったんだよ、ここにミーシアがいてくれたら――って。だから今回の〝のっぱらモーモー〟討伐にはミーシアは絶対に外せなかった」


「ホントに? まあ私の出番はいつでもあるし、私を頼ってくれるのはとても嬉しいわ。で、お乳を貰うってどうするの?」


 必要と言われて速攻で機嫌が直ったミーシアが作戦を聞く。この子もしかしてチョロいのだろうか。


 ネギを投げて食べている間にバケツを持って近寄り乳を搾る作戦に、今度はミーシアが難色を示した、いくらなんでも気が付かれるでしょと。


「そっか、やっぱり無理か。皆がいるのに危険は冒せないし、じゃ今日は何もなしで撤収だね」


 あっさりカレンは引いたが、引かない人がいたのである。


「お乳売れば儲かるんでしょ、私がやるよ。こういうのは私に任せとけばいいんだもん」


 タンポポである。こっそりとカレンの真後ろに忍び寄っていたので、会話が聞こえていたのだ。


 彼女はネギとバケツを持つと、皆の制止を聞かずモンスターに近づいて行ってしまった。


 こういうのは大抵引っ掻き回す役の人が、事態を大事(おおごと)にするものなのだ。


 ハラハラ見ていると、タンポポの手腕は鮮やかなものだった。

 ネギを投げるとモンスターがそれに気を取られている間にササーと近づき、慣れた手つきでミルクを搾り始めたのだ。


 のっぱらモーモーはそれはそれは気持ち良さそうにトロンとしている、タンポポはミルクがバケツ一杯になった所で戻ってきた。


「牛の乳搾りなんて慣れたもんなんだもん」


 牛じゃなくてこれモンスターなんですけど。

 帰ってきた彼女は得意満面の様子でカレンとミーシアに迎えられていた。


 凄いな田舎の女子高生は……この人別の意味でチート能力を持ってるよ、田舎チートで異世界田舎暮らしという作品で行けるんじゃないだろうか。

 トラブルメーカーなんて思ってごめんなさい。


 しかし、甘かったようだ。荷車にバケツをよいしょと置いた音で、結局モンスターに気が付かれてしまったのだ。


(何やってんですか!)

(だって重かったんだもん!)


 ヒソヒソ声で話すが後の祭りだ。


 モンスターはじーっとボクを見ていた、うーんこれってタンポポがどうこうより、ボクがいる事で気が付かれた可能性の方が大きいのかもしれない。


『ぶもーーーーっ』


 モンスターがボクに向かって突入してきて咆えたのを、マンクががっしりと取り押さえる。


 で、ボクはというと、さっきの『ぶもーーーーっ』の鼻息で飛ばされて空中散歩を楽しんでいる、マントを付けているので飛距離が出ているようだ。


「おっと! 大丈夫か嫁!」


 誰が嫁ですか!


 がっしりとした、たくましい筋肉に受け止められ、このやり取りにふと懐かしさを覚える。

 腕の中から見上げると、額にキズのある大男がいた、山のような筋肉、久々のサムライ登場だ。


「はっはっはっは! 自ら胸に飛び込んでくるとは、ようやく拙者の嫁になる気になったでござるか、みのりん殿」


 ここにも久しぶりで自分の喋り方を忘れてる人がいました。


 その姿で〝拙者〟とか〝ござる〟とかやられると、異世界というより時代劇感が出すぎるんですけど。


 さて、ここで改めて自分の状態を見ると、またしてもお姫様だっこなのである。悪夢再来である。


『かああ!』と顔が赤くなるボク、さっさと降ろして貰わないとまた乙女チックな気分に侵食されてしまうではないか。


「お陰で助かりました、ボクを降ろしてください」

「うむ」


 やはりこの筋肉には〝降ろしてください〟は通じないのか。

 サムライはボクをお姫様抱っこしたまま皆の所に連れて行く、この体勢はスカートの中が見えてしまうからホントに困るんだけど。


 タンポポがボクに向かって手をパンと叩き、指を二本立て、指で円を作って何かを見る仕草をした。

 パン・ツー・マル・ミエ。小学生みたいな事やらなくてもわかってますよ!


 タンポポの信号でちょっと思いついたのでやってみる。


「・-・・・ ・-・- --・-・ ・-・-- ・・・- -・ ・・ -・-・- ・-」(意味:おろしてください)


 やっとサムライが降ろしてくれた、変な宿に攫われなくて良かった。


 モールス信号がでサムライが降ろしてくれた事について、つっこみを入れたいけど今はそれどころではない。


 すぐ近くにいたモンスター二体が突っ込んでくるのが見えたからだ。


 つっこむのはボクのアイデンティティーだ。


 さすがに呑気につっこみ中につっこまれるわけにはいかないのだ。


 次回 「激突! のっぱらモーモー戦!」


 みのりん、とんでもない大群にドドドドってされる

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