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その4 えーとこの人誰だっけ?


「さて、みんなに集まってもらったので、改めて今日の計画を言うね!」


 ギルドの門の前で皆を前にして、カレンは張り切っている。

 マントを付けてブーンと走って遊んでいたボクも皆に加わった。


「これから草原に行って、群れの中で一番端っこにいる〝のっぱらモーモー〟を一体仕留めて、お肉を丸々一体分持って帰ろうと思うんだ」

「うん」とミーシア。


「のっぱらモーモーのお肉は高く売れるからね、それにステーキになるし!」


『高く売れる』にタンポポ、『ステーキ』にボクがそれぞれ食いついた。


「のっぱらモーモーを知らない人の為にどんなモンちゃんなのか説明するとね、それはとても美味しいんだよ!」


 完璧ですカレン。他にないくらい完璧なモンスターの説明です、感動すら覚えました。



 ところで、皆の気合が上がる中でカレンに聞いてみたい事がある。


「カレン……それ」


 さっきからチラチラ気になってたんだよ、カレンの横に置かれたそれが。ドーンと置かれた荷車が。


「商店街から借りてきたんだ。お肉丸々これで持って帰るんだよ、今日は森じゃなくて草原だから荷車で移動できるしね。重いけどみんなで頑張って持って帰ろう」


 やる気まんまんですねカレン。あのステーキを食べたらもう止まれない、わかります。目的に向かって突き進むだけです。


 ただ、草原とはいえ起伏もあって道ではない場所を、女の子(のように見える)四人組で荷車を動かすのはちょっと大変そうではある。

 どこかにいい筋肉でも落ちてたらいいんですけどね。


「それじゃあみのりんパーティ出発!」

「「「おー」」」


 全員で一斉に拳を上げて叫んだ。


 ボクたちを見ていた通行人のお爺さんがパチパチと拍手をしてくれて、何故か周りの人たちも拍手してくれたのをカレンが手を振って応えている。


 さすがにボクとミーシアは恥ずかしくて小さく手を振ったが、タンポポはカレンと同じように手をブンブン振っていた。気が合うんじゃないの? この二人。


「あーゴホンゴホン、あーゴホン、あーキミたちゴホン」


 拍手が終わって暇人の通行人たちが散った後で、わざとらしい咳きが聞こえてくる。

 でもせっかく入った気合を削がれたくないので、そのまま行こうとすると。


「あーゴホンゴホン。ゴホンゴホンったらゴホンゴホン……ゴホゴホゴホ!」


 咳きのし過ぎで本当に咳き込み始めたぞ、ゴホンの人。


 皆でめんどくさそうにその咳きがした方に注目すると、修行僧の胴着を着たというか羽織った筋肉丸出しの人物の姿があった。

 カッコつけのつもりなのかおかしなポーズで現れた、モンクのトン吉久々の登場である。


「待たせたな!」


 誰も待ってません。それよりもそのポーズはやめた方がいいですよ、ほら、幼児に指差されてますよ。

『ママーあれ』『見ちゃダメ!』ってはっきり言われてる人なんて初めて見ました。


「どちら様でしたっけ? 勧誘ならお断りいたしますが」


 久々過ぎてカレンには忘れられていたようだ、カレンに敬語を使われてしまっているのがこれまた悲しい。


 ミーシアは……自分の服のシワとか伸ばしてて全く興味無さそう。


 ポン吉の事を果たして覚えているかどうかも怪しいところだ。

 オヤジギャグの石ころ扱いでしたからね。


 タンポポはそもそもカン吉を知らない、しかもカレンの背後に忍び寄ろうとしてて全然気が付いていないようす。とりあえず止めたほうがいいかな。


 ボクはさすがに覚えていたぞ、ボクが忘れたってこの天敵の事を背骨が覚えているのだ。

 この男の名はモン吉……でよかったんだよね……トンマだっけ、まあ些細な事はどうでもいいか。


「オ、オラッちの事をすぐに思い出させてやるぜ、このカックいいトン吉! じゃなかったマンク様の事をな!」


 ちょっと涙目のこの筋肉モンク自身も、久々過ぎて自分の一人称を忘れているらしかった。

 少し不安そうな顔をした彼は、すすーっとボクの所に近づいてくると。


「なあみのりんちゃん、オラッちの名前はマンクでよかったんだよな?」

「そうでしたっけ、まあ細かい事はどうでもいいじゃないですか。文字数とか、なんとなーくそんな感じ、でいいんじゃないですかね」


「じゃ、みのりん、ミーシア、タンポポちゃん、そろそろ行こっか」


 カレンはマンクを思い出したようで、早速放置プレイを決め込みだした。


「待ってくだせえ、オラッちも連れてってくだせえ、みのりんちゃんパーティにオラッちも入りたいんでさあ」


 必死にボクの足にすがり付くマンク。


「あーもう鬱陶しいです、足にしがみ付くなんて普通の人はしませんよ! でもちょっと待って下さい、足にすがり付いて来るのに何で仰向けなんですか」


「人にモノを頼む時は、相手の目を見るものだろう、それが誠意というものなんでさあ」

「ボクの目なんか見てないじゃないですか! どこを見てるんですか! 鬱陶しいから離してくだひゃい!」


 嫌な感じがして慌ててスカートを押さえると、カレンが荷車でマンクを轢いた。


「あら、何か踏んだかな。気のせいだよね、でも、もう一回踏んだら何かわかるかな」


 冷ややかなカレンの目にマンクがサッっと立った。

 寝たままビヨーンと立ち上がるとは、強靭な肉体の成せる業か。


 でも今回もマンクに船を出そうと思う、荷車を見ながらカレンを説得する、ただし今回は助け舟じゃなくて泥船だけど。


「カレン……マンク誘お……荷車重い」

「うーんなるほど、でもどうしようか。荷車かあ、そうだよねえ」


「はいはい! オラッちがいれば荷車なんて軽い軽い! お役に立てますんでさあ!」

「まあ、しょうがないか。ちゃんと手伝ってよマンキ、あれポンキだっけ」


「がってん承知の助なんでさあ!」


 キラキラした目で準備運動を始めてますけど、マンクは早く自分の喋り方を思い出してください、今のそれ、鬱陶しくて置いて行きたくなります。


 さっきまで華やかだったのだが、筋肉参入で帳消しになったパーティの出撃である。


 次回 「荷車の上はハーレム会場だった」


 いざ進め! 目指すは新モンスター

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