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その3 ボクとカレンとミーシアとタンポポ


 ギルドの裏にまわってタンポポのダンボールハウスに向かう、まさかタンポポまで酔っ払ってるという事はあるまい。


 同じ十七歳でも自称のサクサク(櫻子さん二十七歳)と違ってこっちは本物、お酒を飲む事なんか無いだろう。

 身体がオジサンだから飲めるのではないのか、という心配は全く無いと断言できる。


 これだけは胸を張って言える、タンポポにはお酒を買うお金が無いのだから。

 あるとしたらハラヘリすぎて倒れているくらいだろう。


「タンポポいる?」


『タンポポちゃーんあーそーぼー!』と言いたくなるのを辛うじて押さえ込んだボクの問いかけに答えて、ダンボールハウスからオジサンが出てきた。


 えっとこのオジサン誰だっけ、タンポポのお父さんかな。


「あ、みのりん、どしたのかな」

「どうしてボクの名前を知っているのですか」


「何を言っているのかな。転んで脳味噌をグワンとやっちゃったのかな? 私も屋根から落ちて一回あるから気をつけた方がいいんだもん。あの時はタヌキとお父さんの区別がつかなくなって困ったんだもん」


 あ、そうだこれタンポポだ、タヌキというキーワードが飛び出してきて辛うじて何者か判明した。

 このオジサンは特徴無いから、すぐに記憶から逃げ去ってしまうので困る。


 ボクを中に招き入れるタンポポ、その後頭部めがけて用意した鉄の棒で一撃!

 グワン! である。


「タンポポごめん!」


 ビターンと床に倒れるオジサン、密室殺人事件である。

 鉄の棒を貸してくれた受付のお姉さんありがとうございます、お陰さまで無事ミッションクリアーです。


「もう! 何をするかな! 痛かったんだもん!」


 むっくり起き上がったタンポポはセーラー服を着ている、そう、オジサンから中身を取り出したのだ。


「ごめんなさい、でも今日は中の人に用があります」


 そんな事知るかといった様子でタンポポは怒っている。


「そんな簡単に気絶させないでもらえるかな、戻るの大変だって言ったよね! ちょっと怒ってるんだもん。そう簡単には許さないから」


「儲け話があるのです」

「聞かせてもらいます」


 タンポポとボクはダンボールハウスで正座をして向き合った。


「なるほど、モンスターの討伐なんだね。一口乗るよ、でもオッサンの私じゃダメだったのかな」

「カレンが一緒なのです」

「ガルル」


 カレンの名前を聞いて一瞬で咆えたタンポポを見て、やっぱり連れて行かない方がいいんだろうかと不安になる。


「オジサンの姿のままカレンに会えますか? カレンはもう何とも思ってないとは思いますけど、オジサンの姿で行きます?」

「それはちょっと……遠慮しておくかな……」


 泳いでいるタンポポの目には明らかな恐怖の影が宿っている。やはりトラウマなのだろう。


 倒れている本体のオジサンにゴザを掛けているタンポポ、気絶している時の必須アイテムなんですかねそれ。


「櫻子ちゃんも誘おうよ、私と同い年の子との冒険も楽しそうだし」

「い、忙しそうだったのでサクサクは誘いませんでした」


 その自称同い年の子は、現在お酒を飲んで酔いつぶれて未成年の教育上とてもよくない状態です。

 近寄るのは危険でしょう。



 カレンとの待ち合わせ場所であるギルド正面に行くと、既にカレンとミーシアが待っていた。


 ミーシアは黒ずくめのマントを羽織り、手でマントを正面にまわして必死に前を隠している。

 恐らく服が燃えてしまう対策なんだろうけど、怪し過ぎて通行人にめちゃくちゃジロジロ見られているじゃないか。


「ミーシア誘ったら、この子一旦帰って戻って来た時はこうなってた」


 とカレン。

 ボクは挙動不審で怪しさ全開のミーシアに近づくと、ヒソヒソと話し始める。


「どうしたんですミーシアその格好、まさか中は全裸ですか? この前のマイクロミニスカートと紐キャミソールで目覚めちゃいましたか? 通報しましょうか?」

「違うわよ!」


 それじゃあと、この前の服屋で買ったというか、買わされたサテンのスカートを思い出す。

 アレを穿いてきたのかな、確かにアレはそよ風にも舞ってしまうスカートだったから、こうやって隠さないと穿くのは無理そう。


「それも違うわよ、あのスカートは私の敗北の戒めに取って置く事にしたわ。今回は別の燃えてもいい服を着てきたんだけど、ダサすぎてアウトなのよ。こんなの見られたら試合終了よ」


「こんなのとはどんなのですか?」

「どんなのって、こんなのよ」


 ミーシアはこっそりマントの前を開けてボクに見せてくれた。後ろから見ると変質者が少女を襲っているように見えただろう。


 それは熊の顔とお花の柄のワンピースだった。

 ボクにはよくわからない、普通じゃないかな熊可愛いし。


「どうしてこれ買ったのか一年前の私を説教してやりたいわ。ホントはもっとダサいワンピースがあるからまだマシなんだけどね……そっちはママが買ってきてくれたヤツだから……」


 なるほど、プレゼントは燃やせない、ミーシアらしいです。

 さすがにお母さんが買ってきてくれた物は燃やせませんよね、それはお母さんが自分の娘に似合うようにって……ん?


「ちょっと待って下さい、何でミーシアのお母さんは息子にワンピースを買ってるんですか」


「パパなんかドレスを買ってくるのよ? 背中がお尻までガバーっと開いたヤツ。もうアレ燃やしてもいいんじゃないかと思ってる」


 多分ミーシアの家族は、娘が息子だった事をすっかり失念しているのだろう。

 とんだうっかり家族もいたものである。


 どうでもいいけど、その黒いてるてる坊主みたいな格好は恥ずかしくないのだろうか……めちゃくちゃ注目を浴びてるんだけど。


「どうしたの? 二人とも」


 カレンが近づいてきた、タンポポはカレンの背後から忍び寄っているようだ、おいおい。


 通行人も含めてボクたちの視線がミーシア坊主に突き刺さる。


「あーもうだめ、呪文を唱えそうになるから、こっちの方がもう耐えられない!」


 視線に耐えられなくなったミーシアは、ついにマントを外す事にしたようだ。


 それがいいですよミーシア、熊と花柄ワンピースのせいで滅ぼされたら、この町も浮かばれません。何の伝説を生み出すつもりですか。


 まず歓声を上げたのがカレン。


「わあ、可愛い! ミーシアはやっぱり可愛いね!」


 結局ミーシアは美少女なので何を着ても似合ってしまうのだ、黒いてるてる坊主でなければ。


「なかなかオシャレだと思うんだよ」


 続いてタンポポもカレンに賛同する、さっきまで彼女を襲おうとしてたくせに。


「でしょ、ボクも可愛いと思ってたんですよ、なんと言っても特にこの熊さんが凄くオシャレですよね」

「熊はちょっとないかな」


 タンポポはボクには賛同してくれなかった、涙が出る。

 カレンも目を伏せるのやめて欲しい。な、泣いたりなんかしないんだからね。


 ミーシアが外したマントはボクが着けてみた。

 これはこれで強いキャラ感が出てていいのではないだろうか、よーし今日はこれを付けて討伐だ。


 今日のボクは一味違う、みのりんマントマンなのだ。


 次回 「えーとこの人誰だっけ?」


 なんかもう一人出てきました

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