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その2 美味しいステーキモンスター!


 ボクとカレンは〝のっぱらモーモーステーキ〟にかぶりついた。


「ホントに油断も隙もないんだから、みのりんも気をつけないとダメだよ、ホントにこの町の……モーモーステーキ美味しいね! のっぱらモーモーはとても美味しいんだよね。やんばるトントンも美味しいけど」


 いつの間にかお肉の話になってますよ、でもカレンの言う通りだ、のっぱらモーモーは本当に美味しいのだ。


「特にステーキが最高。この食べ方が一番だと思う」


 こくこく。

 カレンの言葉に相槌をうつしかない、のっぱらモーモーステーキを美味しいと言われて否定する頭のオカシイ人なんて、この世に存在するのだろうか。


「そうか……のっぱらモーモーか……なるほど……」


 カレンの呟きをボクはモグモグしながら聞いていた。


「何……カレン?」

「あれ? 私は何を考えていたんだっけ」


 ボクも自分がカレンに何故声をかけたのかがわからない。


 のっぱらモーモーステーキみたいな美味しい食べ物は危険物でもあるのだ、美味しさで脳がやられた二人はひたすらお肉を黙々と食べた。


 二人の頭の中には、目の前のお肉をお腹の中に放り込むという命令で一杯なのだ。肉汁のあまりの美味しさに身体に震えがくるのがわかる。



「今日の討伐はのっぱらモーモーにします」


 カレンが宣言したのは昼食を終えて十分くらい放心した後である。ウェイトレスさんが目の前のお皿を片付けて、ようやく現実に戻ってきた。


 おおーっ! カレンの言葉に目を輝かせるボク。

 新しいモンスター討伐だ! ついでに美味しいお肉だ! どのくらいついでかと言うと、新型2/お肉8くらいの割合。


 今日の討伐はとても楽しいものになりそうな予感、と言ってもいつもの討伐だって、カレンと一緒でとても楽しいんだけどね。


 ところでボクには彼女に頼み事があったのだ。それを取り出そうと机の下に潜ったら目の前にカレンの足があり、驚いたボクはテーブルに頭をゴンとぶつけてしまった。


 危なかった、横だったからまだ良かったけど、真正面だったら命にかかわるところだった。

 よくこんな危険なところにさっきのオジサンは潜っていられたな、さすが冒険者である。


「大丈夫? みのりん」

「う、うん……カレン……これ」


 彼女に差し出したのはさっき仕舞ったウサギの人形だ。


「目が取れかけてるね、うーん、これ私が直したら取り返しが付かない事になりそうだから、とりあえず預かって誰かに直してもらうよ。これみのりんの人形? 凄く可愛いね!」


 こくこく。

 顔を真っ赤にしながらカレンに頷く、自分のお人形が可愛いと言われて嬉しかった。



「それじゃ、のっぱらモーモーのお肉強盗に出かけよう!」


 カレンの言葉でお肉強盗団は意気揚々とギルドの外に出たのである。


「ただ、問題があるんだよね」


 ギルドの入り口の前で、カレンがちょっと困り顔だ。


「のっぱらモーモーって集団でいる事が多いから、私達だけじゃ手に余るので人を集めないとね。ミーシア誘えるかなあ……。そうだタンポポちゃんも誘えるといいんだけど」


 カレンはミーシアを、ボクはタンポポを誘いに行く事になり、早速カレンとここで待ち合わせをする事にして別れた。


 タンポポを誘いに行く前にボクは一旦ギルドに戻る。ギルド内にはさっきサクサクがいたのが見えたから、誘ってみようと思ったのだ。


 サクサク(城南櫻子さん)はボクがこの世界に巻き込んでしまったお姉さんで、その事に凄く負い目もあったけど、ボクは彼女と冒険がしてみたかった。

 せめてこの世界をサクサクが楽しんでくれたら嬉しいのだ。


「サクサ……」

「んひゃ~みのりんらぁ。なんかよーう?」


 酔っ払ってたよこのお姉さん……


 他の冒険者のオジサン連中と飲み比べ勝負なんかやっているサクサクは、完全にこの世界を謳歌しているように見える。満開で楽しんでるみたい。


 その点は良かった。だがしかし、昼間からお酒を飲むのはどうだろうか、自分では十七歳だと宣言してるくせに堂々と飲んでいるのはどういう事か、タンポポにバレても知らないよ?


 聞けばサクサクは初期装備で一万ゴールド硬貨を持っていたらしい。これが貧乏学生と社会人チートとの差か!

 ボク達がチマチマと集めているような食玩を、箱ごと買って行くようなチートがここにいるのだ。


「みーのーりーん」


 うわーサクサクが抱きついてきた! お酒くさっ。


「クンクン。あれー? みのりんからなんだかいい匂いがする~。これは美少女とお肉の匂い? ぺろぺろしていい? チュー! あーみのりん可愛い抱き締めちゃうよお姉さん!」


 ひいい、殺される!


「おいおいサクサク、女の子をいじめちゃだめだろ。ヘビに睨まれたヒキガエルみたいになってるぞその子。それにまだ勝負の途中だぜ、それともギブアップか? じゃ酒代はサクサク持ちな」


 その例えですが、もう少し可愛く、猫に睨まれたひな鳥くらいになりませんかね。


「あーん? まだまだ行けるよ! 私がギブアップ? このサクサクさんの辞書にはステップアップの文字しか載ってないっての。今日もオジサン達に奢らせてあげるから、どんどんお酒持ってきてー! みのりんをクンクンしながら何杯でもいけちゃうんだから!」


 だめだこれは。

 散々クンクンされた後で死に掛けながら解放されたボクは、サクサクは諦めて受付のお姉さんの所に行く。


 別に受付のお姉さんを討伐に誘うわけじゃない、お目当ては彼女の持っている鉄の棒である。


 この前、短い鉄の棒を文鎮にして書類を書いているお姉さんを見たのを思い出し、それを借して下さいとお願いするつもりだ、木の棒では心もとなかったのだ。


「すみませ……てつ」

「文鎮ですね、はいこれ。明日返して頂ければいいですよ」


 よく伝わったものである。


 借りた鉄の棒を握り締め感触を確かめる……

 軽い木の棒なんかと違ってずっしりとした重さ、ボクでもこの一撃は強力そうだ。


 いける! これならやれる!


「みのりーん、お酒の(さかな)にもう二、三嗅ぎクンクンさせて~」


 ボクはおつまみですか。


 次回 「ボクとカレンとミーシアとタンポポ」


 それは、見た目だけは華やかな集団であった

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