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その6 クエスト成功と櫻子さん


「警戒!」


 ミーシアの声にパーティに緊張が走る。


「なになに? モンスターってやつ? 出ちゃったの? 初回一発目で遭遇とかビギナーズラック来ちゃった!」


 約一名が緊張をぶち壊してくれました。櫻子さんのこの元気はどこからやってくるのだろう。


 出現したのは、でっかい熊くらいある子豚型モンスター〝やんばるトントン〟

 この森の毎度お馴染のモンスターだ。今回は先頭を歩くミーシアの前に出たので、ボクが鼻息でいきなり飛ばされる事はなかった。


「あーこいつはオスかな」


 タンポポがドヤ顔で言っているが、その眼力を使うのは今じゃなかったでしょ。


 前回のやんばるトントン戦でボクは思い知ったんだ、このモンスターは舐めてかかるとかなり危険だと、舐めないで食べると美味しいんだけど。


 いつもならやんばるトントンを見たら『ぐう』とお腹が鳴ってたんだけど、さすがにこの前の経験が効いて……


『ぐう』


 ボクのお腹の虫が鳴いたのを聞いたミーシアが、こちらに振り向いてやれやれといった顔をしたので、ボクは隣のタンポポを見る。


「え? 私? 今の私かな? 百パーセント否定できないのが悔しいんだもん」


 再びモンスターに向いたミーシアを見てちょっと安心するのは事実だ。

 ミーシアがいてくれれば大丈夫、むしろさっきまでせっかくミーシアが居るのに、やんばるトントンが出て来ないのを残念に思ってたくらいなのだ。


 モンスターが出た時は待ってました! と叫びそ……


 ボクはそこで思考を停止、何故なら櫻子さんがモンスターに突撃したからである。


 あっという間だった、カレン並みの速度でモンスターに近づくと、レイピアを突き出し串刺しにしてしまったのだ。


 その様子を口をあんぐりと開けて見守っている他の三人に向かって、櫻子さんがドヤ顔である。


「いやー、学生時代フェンシングやってた甲斐あったわ!」

「何で過去形かな」


 ポカーンとしたタンポポが呟く。


「中学生時代フェンシングやってた甲斐あったわ!」


 言い直しながらモンスターに足をかけてキラッのポーズを取る櫻子さんを見て思う、この人俺TUEEEE系転生者なんじゃないだろうかと。


「えと……これどうしよう」


 横倒しになったモンスターを見ながら出番を取られたミーシアがぽつり。その姿はちょっと寂しそうだ、撃ちたかったんですね魔法。


「私お肉に解体してみるよ、この前解体のやり方と部位を覚えたからね。ロースにヒレにフカヒレだよ」

「じゃこれを使って」


 ウサギのリュックから袋を取り出すミーシアに、それを受け取り短剣片手に張り切っているタンポポ。


 変な所でパーティの連携が生まれたもんだと感心しつつ、カレンの部位講座が役に立った事にも驚いた。ただフカヒレだけはお肉の部位図形に載ってませんからね。


 二人がお肉の解体を始めたのを興味深げに見ていた櫻子さんの腰から、冊子が落ちたので拾い上げる。


 櫻子さんにも初期装備の、この手抜き取り説が配布されていたのだ。

 どれどれ、この人のはどんな手抜き解説が載っているんだろうか、つい開いて読んでみた。


 ――時は創世記、出来上がったばかりの混沌とした大地に一人の勇者と女神が降り立った。勇者の名はドラゴンスレイヤーソードファイヤーライトニング。女神の名はジャスティスアンドジャスティス。二人は手を取り合い、人々を苦しめていた魔王を『復活の山』に追い詰めそこに封印すると、人間の世が到来しいくつかの国が生まれたのだ! やがて勇者と女神は結ばれ、生まれたのが後の勇者王ニパパペペポププルなんとかかんとか……更に勇者神ピペペプペペ……

 ――


 三十数ページにもわたってぎっしりと書き込まれた小冊子を静かに閉じて、櫻子さんに渡した。


 ボクとタンポポと、このチート姉御との差があまりにも違いすぎる。

 いつか転生徒会長に立候補したら、強く平等を訴えてあげましょう。



 お肉の解体を適当な所で切り上げ、四人でてくてく森の中を進む。


「キミたちもやっぱりトラックにバーン?」


 櫻子さんがボクたちに話題を振ってきた。これは重要な単語が聞けたぞ。


 キミたちも? という事はこのお姉さんもトラック派? 仲間登場だ! やっぱり王道だよね、この人もカッコイイ死に方だったら泣いちゃうところだった。


「私は熊にバーン、そっちはトラックだったの? トラックって軽トラの事だよね。学校に遅刻しそうな時に、よく源三爺さんに荷台に乗せて送ってもらったよ」


 タンポポの認識はやっぱりトラック=軽トラか。何故軽トラはのどかな風景に、あんなにガッチリと溶け込めるのか。


 ボクの脳裏に、軽トラに乗ってのんびり運ばれていくタンポポという牧歌的な風景が広がった、BGMはドナ的な歌だ。ところで誰ですか源三爺さん。


「竜巻の源って言ってね、軽トラで暴走させたら右に出る者はいなかったよ。警察を三回くらいぶっちぎったかな」


 ボクの牧歌的な田舎のイメージを壊さないで下さい。頭の中がモヒカン爺さんとモヒカン女子高生が、ヒャッハーする光景に占領されたじゃないですか。


「警察って言っても駐在さんの自転車だけどね」


 ああよかった、ボクの中の牧歌的な田舎が帰ってきました、お帰りなさい源三爺さん。


「私の住んでた所も軽トラ多かったけどね。私がバーンされたのは四トントラックだったかなあ、自販機の前でお釣りを拾おうと漫才みたいな事やってる子がいてね。可愛い顔だったから女の子かなあ、赤いジャージ着てたよ」


 え……

 な……なんだかこのお姉さん、とんでもない事を言い出しそうで怖い……


「その子、肩がつったみたいで『キミ大丈夫?』って声かけたんだけど気絶しちゃってさ、可哀想に痛かったんだろうねえ。で、トラックのまん前に倒れるもんだから助けようと飛び出したんだけど、私もその子と一緒に轢かれちゃった」


 ボクは頭の中が真っ白になって話を聞いていた。


「その子は即死だったんじゃないかな、私は病院に担ぎ込まれて意識不明で頑張ってたんだけど、ついさっき死んじゃった。でここに転生、というわけ。あの子を助けてあげられなかったのが、私の心残りかな」


 ひ……ひっく……

 最初に異変に気が付いたのはミーシア。


「どうしたのみのりん。どこか痛いの? 具合悪いの?」


 ミーシアは泣き出したボクにオロオロする。


「ごめ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 泣きじゃくるボクを見て櫻子さんは悟ったようだ。

 ボクの頭を優しく撫でてこう言ってくれた。


「痛かったでしょう。大丈夫だよ……大丈夫。人と人との出会いは不思議なものだから、きっとこうなる事になっていたんだよ」


 そこで『ハ!』っと何かに気が付き。


「ちちち違うわよ、私は女子高生だから! あなたの時の美人で優しいお姉さんとは、これっぽっちも関係無い全くの別人よ!」


 でも町に帰るまで泣きじゃくるボクの頭を優しく撫でてくれた。


 途中、お約束の二体目のやんばるトントンが現れたんだけど、空気を呼んだのかそのまま退場して行った。



****



「ではこちらにお名前をお願いします」


 冒険者ギルド内で、受付のお姉さんが櫻子さんに受け付け用紙を差し出す。


 ――おなまえ 

       城南櫻子

 ――あいしょう 

       サクサク


 ドヤ顔で書く櫻子さんだったが。


「では、登録証で櫻子さんのステータスを見てみましょう」

「はうあっ」


 受付のお姉さんとの漫才みたいなやり取りを聞きながら、ちょっと笑ってしまったボク。

 ボクはこれから櫻子さんの事をサクサクと呼ぼう。



「どうしました、目が真っ赤ですけど」


 受付のお姉さんが心配しながら渡してくれた十ゴールドの報酬を持って、ミーシアとタンポポが待ってる外に出た。


 お姉さんは冒険者のオジサンに意地悪をされたのなら、後でその人をやんわり叱っておくと言ってくれたけど、そんな超絶危機に陥るオジサンはいないので良かった。


「一人三ゴールドずつ、一ゴールド余っちゃうけどどうします?」


 ボクの声にタンポポは、三ゴールドもの大金を持って固まっていて聞いていない様子。立ったまま気絶するなんて器用なオバケである。

 でもわかります、突然途方も無い金額を手渡されたら誰だってこうなりますもの。


「じゃあこうしよう」


 ミーシアがその一ゴールド持って、ギルドの近くで営業していた屋台からお饅頭を買ってきてくれる。


「今日のクエスト成功記念に皆で分けて食べよう」


 袋に入った小さなお饅頭を一人一個ずつ分け合って食べた。


 袋に一つ余っている、どうやら四個入りだったみたいだ。

 気が付いたボクに袋を渡しながら微笑むミーシア。


「皆で分けてって言ったじゃない」


 ボクはそれを持ってギルドに戻る。


「サクサクー……」


 第8話 「転生者の後輩ができました」を読んで頂いてありがとうございました。

 次回から第9話になります。今まで何回か名前だけ出てきたモンスターの登場です。


 次回 「新しいモンスター討伐大作戦」

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[良い点]  御作に巡りあった奇跡に感謝を!可愛い微笑ましい! ギルド内のみのりんハウスが、公共施設で保護され市民権を得た犬猫のほのぼのニュースを見ているようで癒されます。  串肉屋の親父の脚褒め発言…
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