その5 十七歳 VS 十七歳
ボクたちの目の前には、若返りサイコーと叫んだ新人転生者の女の人がいる。
目が点になって立ち尽くしているボクとミーシアに気が付いた彼女。
「おおっ! 第一村人発見! キミたちここの子?」
「「何この人は……」」
呟きが二重だったのでミーシアとハモったようだ。
「ねえねえキミたち、私何歳に見える? お姉さんやっぱりピチピチに見えちゃう? やっぱりそうだよねーピチピチだもんね、困った困った。キミたちと同じくらいだよね? だよね?」
年齢を当てろと言われて、この女の人の胸を見る。この胸の感じは……
「二十七歳かな……」
お姉さんの口がサンカクになったような気がする。
「それじゃあ何も変わらないじゃない……」
小さい声でボソっと何かを言ったようだ。
「というのは冗談で、どうみても二十二くらいね。こんにちは私はミーシア、この子はみのりん。転生者のあなたを迎えに来たのよ」
すかさずミーシアのフォローが入り助かった、気配りのできる子でホント助かります。こういうのは直球で真実をぶち当てちゃいけないんだね、一つ勉強になった。
「そっかそっか、地元の子達がお迎えに来てくれたのね、私は城南櫻子! 十七歳です! てへ」
サ――っとボクとミーシアの色が、何となく白に近づいて薄くなったのを感じる。
「私は城南櫻子! 十七歳です! てへ!」
お姉さんは念を押してきた。
「は、はいよろしくお願いします、私もみのりんも十五歳です」
「うっ」
と言ってお姉さんは固まった。十七歳で押し通したのに目の前の二人は更にピチピチの若い子だった、もう二歳下に言っておけば良かったって顔だぞこれは。
「十七歳って私と同じかな」
いつの間にかボクたちの後ろにタンポポが帰って来ていたみたいだ。新人のお姉さんはタンポポのその服装(タンポポはセーラー服なのである)を見て驚いた顔をし。
「あれ? 女子高生? ここは異世界じゃなく、日本のどこかの田舎なの? あわわどうしようあわわ」
さっきまで自分は異世界だと勘違いしてはしゃいでいたのかと、顔を赤らめていたが。
「私は城南櫻子! 十七歳! 女子高生です!」
押し切ることにしたようだ。
「そっかー、私とタメじゃん。ここは日本の田舎じゃなくて本当に異世界だよ、同い年の子が転生して来てくれるなんてちょっと嬉しいかも」
「ああ、良かった、間違えたと思って後三十秒で走って逃げちゃう所だったわ、私も同い年の子がいてくれて嬉しい」
おいおい櫻子さん。危うく新しい逃亡伝説を作るところでしたか。
しかしタンポポは浮かない顔をして櫻子さんを見つめている。
そりゃそうですよね、いくらなんでもバレるでしょう。そのセーラー服女子高生は、ミーシアの正体をあっさり見破った眼力の持ち主ですよ櫻子さん。
「新しい人は日本の人だったんだね。みのりんと同郷で女子高生で、しかも一番重要な十七歳キャラが被ったんだもん、私のキャラ立ち部分が無くなったかも」
いや、あなたのキャラはそこじゃないと思います。たぶん違います。
しかも十七歳を信じてるとか、さっきのミーシアを見破った眼力はどこに行ったんですか。スキルを発動させてちゃんと見てください。
「はいはい、後はとにかく町まで戻ってからよ、帰るわよ」
アホらしくなったのか、ぶん投げ出したミーシアの言葉で撤収となった。
町へと帰る途中、簡単にこの世界や自分たちの事を話した。ボクはカレンに色々教えてもらったし、こういう形で恩返しも悪くない。
「そっかそっか、あなたたちも転生者かあ」
「私は転生者じゃないわ。冒険者の町出身じゃないけど、まあ、あなたたちから見たら地元民になるわね」
とミーシア。
「転生者は私たち、みのりんと、私はタンポポだよ」
「そっかそっか、みのりんにタンポポかー可愛いあだ名だね、じゃあ私は櫻子だからサクサクにしよう。これからサクサクって呼んでね! てへ」
なんかめんどくさそうなお姉さんである。
「タンポポは本名なんだけど」
「そ、そっか……でもセーラー服かあ、懐かしいなあ、私もほんのちょっと前まで着てたんだよ。青いスカーフが可愛くてねえ」
ほんのちょっと前って言いましたか今。
「あれ? 現役の女子高生じゃないのかな、学校辞めちゃったの?」
「じ、女子高生よ! 着てたのは、ほ、ほら中学の時だから一年前? 今はブレザーだよ」
「二年前じゃないかな」
「そ、そーでしたあ」
なんかもうボロ出すの早そうな気がしてきた。
「転生して錯乱してるんだね、私もそれで酷い目にあったんだもん。今となってはいい思い出に、全然なってないからいつかキッチリ仕返ししたい」
ウ……タンポポの経験は、思い出すと今でも身震いがする。
身震いがするけど仕返しは許しませんよ、カレンに何かしたら、美味しいソーセージを三本くらい目の前で食べてやりますからね。
「それにしても、私もついてる! 転生早々こんな可愛い女の子三人にお迎えされるなんて、あ、私も女の子なんだけどね、少女四人組だね!」
えーと櫻子さん、可愛い女の子三人の中に本格的な〝人間の女の子〟は一人もいませんよ、男の娘の女の子と男の子とオッサンの中身です。当然ですが少女四人組も幻想です。
残念ですが、儚い夢だと諦めてください。
「櫻子ちゃんの学校では何が流行ってたのかな、友達の間で何流行ってた?」
タンポポもそんな厳しい質問をしないであげて下さい、無意識なんでしょうけど。
ほら櫻子さんの目が泳ぎ始めましたよ、女子高生の流行はどんどん変わりますからね、十年も経過したら浦島太郎なのです、迂闊な回答はできないんですよ。
「ゲームウ○ッチ、じゃなくて、ポ……ポケベル……」
一体何十年前の女子高生の話をしてんだ! 錯乱しすぎでしょ。
「ふーんそうなんだ、都会の女子高生はやっぱり一味違うよね、凄いんだもん。私の学校で流行ったのは、タヌキのオスメスを見分ける賭けくらいだったかな」
この女子高生勝負、引き分けです。
こんな残念なJKトークは聞きたくなかったわ。
「みんな警戒して! モンスターがいる!」
その時ミーシアの声が森の中に響いた。
このポンコツ集団の中に、ミーシアがいてくれて本当に良かったと思った瞬間だ。
次回 「クエスト成功と櫻子さん」
みのりん、泣く




