その4 新人転生者は……オロオロするボク
「私は転生者お迎えクエストを受けた事無いからよく知らないけど、地図だとこの先のはずね」
ミーシアを先頭にタンポポ、ボクの三人パーティは転生者を迎えに行く為に森の中を進んでいる。
以前、ボクもタンポポもカレンにお迎えされて歩いた道だけど、さすがに二人とも道なんて覚えていないのでミーシアが頼りだ。
ミーシアをパーティに引き込めたのは幸いだった、ボクとタンポポだけで無事にクエストを成功させられるか不安だったのだ。
パーティに誘った時ミーシアは『ちょっと待ってて』と言ってその場を離れ、三十分くらいして戻ってきた時は小さな可愛いリュックを背負っていた。
多分燃えてしまった時用に替えの服が入っているんだろう、これで戦闘準備は完璧だ。先頭を歩くミーシアの揺れるリュックがとても心強い、これこそ最強のリュックだ。耳が可愛く揺れるウサギのリュックだけど。
ミーシアがいればモンスターがいくら出てきたって問題ない、問題があるとしたら間違えて新人転生者を巻き添えで燃やしかねない事だ。
新入りを素早く回収する事が、今回のミッション成功の秘訣とみた。
「ここかしら?」
ミーシアが見つけた場所、それは森の中にある開けた場所で、不自然に丸い劇場のような草原。間違いない、あの転生劇場だ。
「そうそう、ここ、ここ。懐かしいねタンポポ」
あの日の事が昨日の出来事のように蘇る、ここに初めて転生して、モンスターに襲われてカレンに出会った。ああ、なんて懐かしいんだろう。と言ってもつい最近なんだけどね。
「私はこんな所知らないかも。どこかの木に引っかかってぶら下がってたんだもん。一時間くらいぶら下がってて、鳥にフンをひっかけられた。あの鳥、今度焼き鳥にして食べてやろうかと思ってるんだもん」
ソウデスカ……
カレンの言ってた、〝たまにとんでもない所に出てきて探すの大変な人〟がこんな所にいましたよ。
タンポポらしいと言えばそうなんだけど。降ろすの大変だっただろう、カレンに後でねぎらいの言葉でもかけてあげたい。
ところで辺りをみまわすが、劇場には誰もいない。
という事は新しい転生者も、タンポポのようにどこか別の場所に転生したのだろうか?
ボクも木にぶら下がったオジサンを降ろすハメになったのか、頑張らないといけないな。
落ちてきたオジサンの下敷きになって『グエ』と鳴く役は、名残惜しいけどタンポポに譲るとしようか。
「変な配役を押し付けようとしている目だねそれは。とにかく私はどこかその辺探してくるよ、山だの森だの歩くの慣れてるから」
タンポポがボクたちから離れて右の森に入っていく。
「気をつけて下さいね、一応ここはモンスターが出るんですからね、タヌキが出る田舎の山と一緒くたはダメですよ」
「はーい」
まあ、タヌキ以外に熊が出る田舎の山も、似たようなもんかも知れないけど。
実は一番気をつけないといけないのは、モンスターを惹きつけるボクなんだけどね。今出てくるとしたら間違いなくボクの所だ、でも今はミーシアが居てくれるから大安心。
大船に乗ったようなものなのだ。
さあ、いつでも来いモンスター! 逃げも隠れもしません! ボクはここですよ!
「じゃ、私はそっちを見てくるから、こっちはよろしくね、みのりん」
「あうー」
左の森に入って行こうとするミーシアの足にしがみ付いて止めた。半泣きだったのは言うまでもない。
大船に置いて行かれては、海の底に沈んでしまうじゃないか。
「ちょっとみのりん! 足にしがみつくのやめてよ、く、くすぐったい!」
「ボクの人生をかけてでも、この足から手を離すわけには行きません。溺れる者はミーシアの足を掴むのです」
その時である。転生劇場の中心に丸い光る玉が現われたのだ。
驚いたミーシアとボクが見つめている中、小さかった光玉はみるみる大きくなり、やがて人一人が入れるくらいの大きさになったかと思うといきなり消滅した。
そして現れたのだ。今まで居なかったその場所にその人は居た。
これが転生者の登場シーンなのか――
ボクもこの前、このようにしてここに転生してきたのだろうか。
「へー! 天使の玉ね、珍しいものを見たわ。ところで、そろそろ離してよみのりん、下から見上げるのはやめてね」
そんな名前なんだこれ。まだミーシアの足にしがみ付いたままだったのに気が付いて立ち上がった。
「ここ劇場みたいになってるでしょ、昔はこの現象を見る為に皆で集まって宴会やって待ってたんだって。でもある時、転生者が恥ずかしがって泣きながら逃げてっちゃったんだって。その人は結局行方不明で、その時を反省して今はこうやってこっそり迎えてるみたい」
可哀想に、ボクなら間違いなく全力で逃げてるな。その転生者はどうなったんだろうか。もし会えたら慰めてあげたいけど、昔の話じゃ無理かな。
この新しい人もなるべく見ないようしてあげて……とそこでギクッである。
目の前に現われた後輩は……なんと。
女の人でした――!
オロオロするボク、見ないようにしてあげる必要なんか無いのである、最初からまともに見れない存在だったのだ。
迂闊だった、報酬十ゴールドに気を取ら……先輩の責務に気を取られて、その事に考えが及ばなかったなんて!
さっきまで何故かオジサンを迎えに来た気になっていたんだよ。
草原にうな垂れて座ったままの、まだ意識が無いように見える女の人は、茶色がかった黒髪を胸までの二つ結びにしているが女の子という感じではない。
落ち着いたロングスカート姿でレイピアを一本下げているその人は、いわゆる〝大人の女性〟という危険物なのだ。
どうしようか、この人が気絶している間に運んでしまおうか、でも触れない。そんな事したら森を出る頃には、逆にボクを運んでもらわなければならない事態になっているだろう。
彼女はやがてピクンと動き目を覚ますと、自分の手足をパンパン確認しだしたようである。ああ、やったやった、ボクもそれやりました、叩いて確認しちゃうんですよね。
そしてこう叫んだのである。
「いやったー! これもしかして若そう? この手足は若いよね? 私若返りに成功したのよね! 転生ヒャッホー! いやー転生のパネルを見た時はどうなるのかヒヤヒヤしたのよ! 若いってサイコー!」
ミーシアとボク、二人揃ってこうなった。
ポカーン。
次回 「十七歳 VS 十七歳」
みのりん、第一村人として発見される




