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その3 タンポポの意外なスキル


 町の外に出る門まで向かうには大通りを抜けるのが一番早い、しかしそこは商業地区、ボクたち二人にとっては目移りしてしまうものが多いのだ。


 クエスト依頼書には転生者到着はお昼過ぎとあるのでまだ時間は大丈夫、ついでに町の見学をする事にした。


「ふっふーん、ゴールド持ちのこの私は、この地区も余裕で歩けるんだよ。これは〝一切れのパン〟のお陰かな」


 タンポポが浮かれているが、その気持ちが痛いほどよくわかる。


 彼女はこの前まで文無しだったのだから仕方が無い、ゴールドを持っているか持っていないかは精神的に全く違うのだ。


 ゴールド無しでこの商業地区を歩くという無謀な挑戦をすると、精神がズタボロに疲弊してしまう為〝一切れのパン〟である〝一枚の硬貨〟の存在は非常に重要なのである。


 この〝一切れのパン〟さえ持っていれば、いくらでも戦えるのだ。

 これはボク達の希望であり、生命線なのだ。


「あ、これおいしそう、これ下さい」

「あいよ、お嬢ちゃん一ゴールドだよ」


 タンポポのやつ、いきなり希望の〝一切れのパン〟を消費しやがった……


「あっさり初っ端で使ってしまいましたね、一番最初のお店ですよ。それにオジサンコーディネートの為にファッションを見るんじゃなかったんですか」


 近くのベンチに座り満面の笑みで、棒に刺さったソーセージを頬張るタンポポに、早速つっこむボクも当然ソーセージを握っている。


 タンポポ一人だけ幸福の絶頂に行かれて、置いてけぼりも困る。

 四ゴールドが三ゴールドに減り、富豪からの転落だ。人生とはこうやって転落していくものなのだろう。


「明日は明日の風が吹くんだもん。それにクエストが成功すればまたゴールド持ちだしね」


「前から思ってたんですけど、今の状態のタンポポが食べていいんですか? 本体はハラペコで倒れてるのに、というかオバケのくせに物が食べられるのが凄いけど」


「私が食べたご飯はそのままオッサンに転送されるんだもん。お腹一杯食べて帰ると、オッサンのお腹もパンパンだよ」


 どういう仕組みなんですかそれ。


 アホな事に呆れながらソーセージを頬張ると、もうなんでもよくなった。美味しい以外は考えられない。


 ふわふわとソーセージの世界を漂っているボクに、現実世界から呼びかける声がする。

 なんとか意識を取り戻し、顔を上げるとミーシアが立っていた。


「おはようみのりん。なんだか意識飛ばして遠い世界に旅に出てたみたいだけど、大丈夫? そっちの子は新しいお友達?」


 タンポポに気付いたミーシアが質問してくる、それにしてもミーシアは今日も完璧な女の子っぷりだ。

 めちゃくちゃ可愛い。


「ミーシアおはよう、彼女はボクと同じ転生者のタンポポです」

「ああ、この前カレンと一緒に大ピンチになった時の子ね」


 ミーシアにはタンポポがオジサンの中身だという事までは教えていない、同じ転生者とだけ伝えている。説明するのがアホくさいからだ。


「はじめまして、私はミーシア。この前みのりんとの冒険のお話聞いたわよ、大変だったわね」

「私はタンポポ、よろしくかな。えーとあなた……」


 タンポポが立ち上がって挨拶をし、ミーシアを不思議そうに見てこう続けた。


「あなた、男の子ね」


 ――――!


 あまりの直球にびっくりしたボクは、口をポカンと開けて固まってしまった。

 オロオロしてミーシアを見ると、案外平気そうでにこやかに笑顔を見せている。




 大地より火炎来たれり――

 天より火炎来たれり――




 全然平気じゃなかった!


「ちょっとミーシア! 物騒な呪文はやめてください、この町を吹き飛ばすつもりですか!」

「ああ、私は今何を……」


 ボクにガクンガクンと揺らされ、はっとしたように呟くミーシア。


 無意識だったか、危ない子だなミーシア。もしかしてボクはたった今、この町を救ったんじゃないだろうか。救世主の青い髪の少女になったのではないか。


「夢を見ていたのよ、白昼夢ってやつ? 私が女の子として見られないという馬鹿馬鹿しい展開で、いっその事爆発して死のうかと。でも夢で良かったわ、あーびっくりした」


「びっくりしたのはこちらです、夢だという事にして、無理矢理自分を納得させようとしていますね? ボクだって見ているんだから夢じゃないのは確定ですよ」


「ほ、ほら、仲良し同士で同じ夢を見るってよくあるって言うし。それか二人同時に聞き間違えちゃったとか? そ、それよ、夢じゃないのならそれに違いないわ」


「あなた、男の子よね」


 ちょっと震えているミーシアに、タンポポが容赦なく追い討ちをかけてきたー!


「やめてください、ミーシアちょっと泣いてるじゃないですか」

「な、泣いてなんかないし。それよりも、おかしいわよ、私どこか変? 女の子に見えない? 男の野性味が出ちゃってた?」


 涙目のミーシアは泣いてる事を否定し、鏡を取り出して自分の姿をあれこれチェックしだした。


 うーん、ミーシアはどこからどう見ても女の子にしか見えない。

 このミーシアをつかまえて男の子だとか言う人って、頭がオカシイんじゃないかってくらい……という事はタンポポって。


 さてはこの人……ボクは疑いの目でタンポポを見てしまう。


「なんなのかな、そのタヌキのうんこを踏んだ真犯人はお前だ、みたいな目。失礼な事を考えないで欲しいかな、私ひよこのオスメスを見分けるバイトをやってたからね、こういう鑑定は大得意なんだもん」


 なんてこった、タンポポにこんなスキルが。


「ごめんね、内緒にしてたよね。あなたは普通に女の子に見えるから安心していいかな」


「バレても別にいいんだけど、女の子に見られなかった事がショックだっただけよ、ちゃんと女の子に見えるのならそれでいいわ」


 タンポポのフォローに少し落ち着いてきた様子のミーシア。女の子に見える事に命をかけているのがミーシアなのだ。


「外側は違っても心は女の子なんだね、私と一緒かな。あなたは男の子、私はオッサン。似たもの同士なんだもん、気持ちがよくわかるよ」

「へ?」


 キョトンとするミーシア。


「私も普段は男装してるからね、今は脱いじゃってるけど」


 間違っているような、間違っていないような、でも説明はアホくさいのでこれでいいです。


「ところで、ミーシアは今から用事はありますか?」


 ボクはミーシアに頼みたい事があった、せっかく会ったので心強いパーティメンバーになりませんか、と。


 次回 「新人転生者は……オロオロするボク」


 みのりん、懐かしい場所で目が泳ぐ

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