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その2 転生者お迎えクエストをゲットした


 朝になり洗面所の鏡の前でボクは、自分の顔を見てキョドりながら困惑している。


 ボクのオデコにはハートマークが描かれているのだ、セーラー服姿のタンポポの笑顔を思い出し赤くなる。


 こういう攻撃はずるいぞ、あいつオジサンのくせに。こ、これは厳重注意が必要だ、外側オジサンのくせに。

 何故かほっぺたにもハートマークが描かれていて、ボクは首を傾げた。


 顔を洗って洗面所から出てくると、受付のお姉さんが掲示板に張り紙をしていたので近寄って覗いてみる。


 どーせ冒険者用のクエストなんて今のボクには無縁なんだけど……と、読んでびっくりだ。

 なんと〝転生者のお迎えクエスト〟と書いてあるではないか!


「今日新しい転生者の方がいらっしゃるんですよ、ここ最近連続ですね。来ない時は全然来ないものですけど」


 張り紙を見て、目を丸くしたボクに気が付いたお姉さんが説明してくれた。


「なんで……わか……」

「ギルドに葉書が届くんです、昔からこうですよ。昔は封書だったんですけど、最近は簡略化されて葉書になりましたけどね。コスト削減の波が来ているんでしょうね」


 新しい転生者がやってくる――


 これは先輩として是非迎えに行きたい! それが先輩の義務なのだ。ボクは〝報酬十ゴールド〟の文字を見ながら先輩としての責務を考えていた。


 思わず張り紙を取ろうとすると。


「取っちゃダメですよみのりんさん、まだ営業前です、みなさん平等なんですから。みのりんさんも一応冒険者なんですからね」 


 怒られてしまった。

 内部で早期に情報を受け渡すような不正は許しませんよ、という事かな。さすがお姉さんだ、キッチリしている。


 それでは、とギルドの外に出て玄関前で待機。

 門の前で準備運動をして待っていると、他の冒険者達も集まりだした。ボクのライバル達だ、負けませんよ。


 受付のお姉さんのお使いで色々と仕事をしていたから、ボクはこのギルドに来る冒険者のオジサン達とはそこそこ顔なじみになっている。


「どうしたお嬢ちゃん、さてはイタズラして外に締め出されたか。オジサンもお嬢ちゃんくらいの頃には、よくスカートめくりして橋から逆さ吊りにされたもんよ」


 違います、スカートめくりなんかやったらボクのヒットポイントが持ちません。


「逆さ吊りにされたオジサンになあ、女の子達がバンバン石を投げてきてな、ああ、懐かしいなあ」


 よくそんなものをいい思い出みたいに語れますね、それ女の子達からめっちゃ嫌われてるじゃないですか、ボクなら立ち直れませんよ。

 つっこみを入れていると、新しくやって来た別の冒険者も話しかけてきた。


「おう、お嬢ちゃんどうした、ハハハおねしょして立たされんぼか? 気にすんな、オジサンもついこの前までしてたから」


 違います! ここに並んでいる目的はあなた達と同じです、まったくどいつもこいつも、ボクが冒険者だって事忘れているでしょう。

 それとオジサン、後半のセリフは気の毒すぎてつっこんでいいのか微妙になったんですけど、可哀想な目で見ていいですか?


 そんな歴戦の冒険者同士の応酬をしていると、いよいよ営業開始である。


 扉が開くと同時に、他の冒険者達と一緒にギルド内に入って掲示板に直行! 目指す張り紙を取った!

 と思ったら、同時にその紙を手にした他の冒険者に奪われてしまった。なんという無常。


 オジサン達に揉みくちゃにされながら頑張ったというのに。

 ほら見てください、オジサンに挟まれてボクの足が地面に届いていませんから、満員電車ですかここ。


「あうー」


 思わず涙目になると、(泣かした)(泣かした)(あいつ泣かした)というヒソヒソ声に耐えられなくなったその冒険者が、ボクに張り紙を握らせてくれる。


「フ、こんなお嬢さんを泣かせるなんて、俺も罪な男だぜ」


 アホな事を言ってる冒険者にお礼を言って受け取った。代わりに触らせてくれとボクのお尻付近に手を差し出してきたので、快く握手して受付に持っていく。


 受付のお姉さんは笑顔でボクを見ている。

 受付のお姉さんは笑顔でボクを見ている。

 ボクの目にじわっと涙がたまる。


「カエシテ……キマス……」

「え?」


 受理してくれた受付のお姉さんは、ボクの反応にちょっと傷ついたみたいだった。



 その紙を持ってすぐにギルドの裏手にまわり、タンポポの所に行く。

 今日はカレンはバイトだし、タンポポと町に行く約束もあったので、後輩新人転生者は同じ転生者のタンポポオジサンと一緒に迎えに行こうと思ったのだ。


 危惧するのは、あの普通のオジサンとこのアダルティなボクが一緒に行動して、恋人同士に見られたりはしないかという点だ。


 しかしなんとなく心のどこかで『お嬢ちゃん、パパとお出かけかい』と声をかけられそうな予感がして怖い。


 だが全ては取り越し苦労だった。

 ダンボールハウスで出迎えてくれたタンポポは、セーラー服を着ていたのだ。


「どうして中身が出ちゃってるんですか。ちゃんと蓋をしなかったんですか」

「それが……」


 ボクの問いかけに、『えへへ』と頭をかくタンポポ。


「待ちきれなくて外に出たら、ふらついて頭を打ったんだもん。お腹が空いていたんだね、昨日ソーセージを一本食べただけだから」


 それって深夜にボクがあげたソーセージの事かな、でもあれはセーラータンポポが食べちゃったよね確か。でもそんなフラフラ状態で、生命線のピーナツをボクに差し出してきましたかこの人は。

 ところで、セーラータンポポってどこかの美少女戦士みたいでかっこいいな。


「で、今はおうちで寝てる、という事ですか」


 ボクがダンボールハウスの中を覗こうとすると、ううんあそこ、と指を差す。タンポポが指した方を見ると路地の角にゴザがかけられた死体、じゃないタンポポオジサンの寝体があった。


 この人は、またこんなところに脱いだものを放置して、なんでもかんでもゴザをかけとけば済むわけじゃありませんからね。


 二人でなんとか引きずってそのオジサンをダンボールハウスに放り込むと、その横で互いに正座して向き合い、タンポポにお迎えクエストの説明をする。


「迎えにいくのが先輩の義務かも。これは間違いなく私たちの責務かな、私たちはこの使命をやり遂げなければならないと切に思うんだもん」


〝報酬十ゴールド〟の文字に釘付けのタンポポの目はいつになく真剣である。

 その通り、とボクも〝報酬十ゴールド〟の文字を凝視しながら真剣に頷いた。


「それでは今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ」


 二人は正座したまま、互いにペコリと礼をした。


 次回 「タンポポの意外なスキル」


 みのりん、町の救世主になる

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