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その9 オバケとモンスターどっちが強い?


「私カレンは、みのりんとタンポポちゃんの大切なお友達です」

「ボクみのりん……カレン……タンポポ……大切なお友だち……す」

「私タンポポは、みのりんとカレ、ガウガウグルルルル」


 門の中で無事パーティの儀式も終り、今森の中を進んでいる。 

 よくあの宣誓でパーティが成立するもんだと感心するけど、青い光がちゃんと出て三人を包んだのだから間違いない。ボクたちは立派なパーティなのだ。


 先頭はいつものようにカレン、真ん中にボク、最後は新メンバーのタンポポである。

 短剣を握ったタンポポが虎視眈々とカレンの背中を狙っているような気がして、彼女はボクの後ろに置いた。


 あそこの大きな岩で休もうというカレンの提案で小休止を取る事になり、岩を背にカレンが持ってきてくれたクッキーを皆で頬張る。


 お菓子の美味しさで一瞬何をしに来たのか忘れそうになった、タンポポも夢中でクッキーを食べる。

 その姿が不憫でちょっと涙が出てしまった、沢山お食べタンポポ、それが栄養だよ。


「何でかな、その慈愛に満ちた微笑みに、私の心がちょっと傷ついてるんだけど。何で涙を浮かべているのかな。何でハンカチで涙を拭いたのかな」

「うんうん、ボクのクッキーもあげますよ、かじりかけですけど」


「なんだか失礼な事を考えてそうな顔してるんだもん、情けなんかいらないんだから」


 でもしっかりそのかじりかけのクッキーは食べるんですね。


 いい天気で今日もピクニック気分なのだが、何だか胸がザワザワして嫌な予感がするんだけどなんだこれ、いっその事タンポポから短剣を取り上げようかな。


 クッキーを食べ終えたカレンが、興味津々という感じでタンポポに向かって話しかけた。


「タンポポちゃんはどのくらい強いの? 普通の人とは一味違うオーラを感じるんだけど」


 ポンコツになる前のカレンは鋭い戦士の嗅覚を持っているのだ、相手が発する〝気〟みたいなものを感じ取るらしい。 

 でもカレンさん、その感じている〝気〟は、タンポポからあなたに向けられた〝殺気〟ですから。普通の人とは違うのも当たり前です、霊体ですから。


「ガルル……そうね、私はあなたを隙あらば後ろからグサーってやっちゃうくらい強いんだもん」

「凄い! 今まで沢山モンちゃんを倒したんだろうなあ!」


 モンスターをモンちゃん呼ばわりなのが力が抜けるけど、自分より強い相手にカレンは興奮気味だ。


 後ろから隙を見てナイフで刺すとか姑息な事を言われてるんだけど、カレンは自分なんか正面から相手をする必要もない、取るに足らない存在なのだと受け取ったようだ。


「当たり前、モンスターなんて私にかかれば庭に出たタヌキみたいなもんだもん」


 例えが田舎臭いんだよなあ、でも凄い凄いとカレンは簡単に感心してしまっている、この子タヌキが何かわかってるんだろうか。


「凄いよタンポポちゃん! 私達のパーティにめちゃくちゃ強力な戦力登場だね!」

「こんな森に出てくるようなザコモンスターなんか、私にどーんと任せとけばいいんだもん!」


 タンポポはそう言うと、ドヤ顔で自分の胸を『どーん』と叩いた。そしてゲホゲホと咳き込んだ。


 煽てられて調子に乗って胸を張ってるけど大丈夫なんだろうか、タンポポはまだモンスターと遭遇した事すら無いのに、カレンは素直だから信じてしまうぞ。

 つーか幽霊が何で咳き込んでるんだよ。


 しかしここで一つの希望的観測が生まれる。


 待てよ、よく考えたら今のタンポポは生身の身体じゃないんだった。霊体だからモンスターと戦っても何とかなるんじゃないだろうか。

 タンポポもそれがわかっていて勝算があるから言っているに違いない。


 でも昨夜、ボクが投げた『木の棒』がおでこに当たって『あう』とか泣いてなかったかこの人。


 今までも色々教えてくれたカレンなら、そういうのを知ってるかもしれないので生じた疑問をぶつけてみる事にする。


「オバケ……モンスタ……どっち……強い?」


 クッキーを入れていた袋をポーチに仕舞っていたカレンが、考え込むように視線を少し上にあげながら答えてくれた。


「オバケって人間の幽霊の事? うーん、そうだねーモンちゃんも霊体だからねー」


 え、ちょっと待って、それ初耳なんですけど。お肉を食べられるのに霊体とはどういう事ですか。


「モンちゃんによって霊体とお肉の割合が違うんだよ、やんばるトントンだと霊体1、お肉9くらいの割合かな。それでもすぐにお肉に処理しちゃえばいいんだけど、倒したやんばるトントンも暫く時間が経てば消滅するよ、そこが動物とモンちゃんの違いかな」


 あんな美味しいお肉がそんなおかしなものだったなんて……それはそうとお腹が減ってきた、『ぐう』


「だから霊体がモンちゃんに食べられちゃったら、そのまま取り込まれて消滅するよ。人間の幽霊なんて弱いから特にね。あ、みのりん、オバケが怖いからモンちゃんをギルドに連れてって、オバケを食べてもらおうとか考えたでしょ。だめだよー、オバケ退治は今度私も手伝うからさ、変な事考えないでね」


 霊体である事が戦闘であまり有利とはいえなさそうだ

 こっそりとタンポポの顔を窺うと涙目で青くなっている。


「私決めた……さっさとこいつを倒してこんな物騒な所から帰るんだもん」


 物騒なのはあなたですよ、と危ない事を呟いたタンポポを制止しようとして、また胸がザワザワして周りを見回した。どうしたんだろうなこの感じ……


 この胸のザワザワはなんだろうか、も、もしかして――

 まさかこれって――


 ボクの胸の成長の兆しが現れたんじゃないだろうか!


 いやあ、まいったなあ。ついにレベルアップのその時が来てしまったのか。

 まあ、本体のレベルアップはまだまだ遠い先の未来だけどね。


 ついでに森もザワザワする。


 ボクの胸がザワザワして正面の草もザワザワだ。ザワザワ&ザワザワだ。

 そりゃそうだ、草だって生長する、ボクの胸も成長する、おあいこなのである。


「みんな警戒して、モンちゃんみたいだ」


 カレンが警告すると、ザワザワしている草からモンスターが出てきた。


 ボクの胸の成長の話という事で進めたかったのに、どうして出てきちゃうんですか、たまには空気を読んでくれませんかね。


 次回 「突撃! 三人娘 (仮)」


 やんばるトントンのヤバイ奴出てきちゃった

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