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その8 タンポポの天敵現る


 さてそれじゃ出発しますか、と路地にオジサンの死体、じゃなかった寝体を置いて歩き出そうとした時。


「みのりーん」


 通りの向こうから女の子が走ってきた、カレンだ。瞬時にボクは見えない尻尾をぶんぶんと振る。

 あれ、今日はカフェの仕事じゃありませんでしたっけ。カレンに会えるのはめちゃくちゃ嬉しいんですけど。


「カフェは……?」

「店長に急用ができてお店開けられないから臨時休業になったんだ。だからみのりんに会いにギルドに行ったら、出かけてて探してた。無事に会えて良かったー」


『今日討伐に行けるよ……』と言いかけてタンポポに気が付いたようだ。


「あれ? この子誰、みのりんの新しいお友達? よろしくね! 私はカレン!」


 元気に手を差し出すカレンを、ボクの後ろに隠れて睨みつけているタンポポは『ウゥー』と威嚇の声をあげている。


 野生動物ですかあなたは、間違ってもその差し出された手に噛み付いたりしないでくださいね。

 でも考えてみたらそうだった、この二人は今日始めて出会ったのではないのだ。


 姿が違うのでカレンは気がついていないけど、タンポポからしたら恐ろしい体験をした相手なのだ。

 タンポポはこの世界に転生して錯乱し、カレンのお尻を触った。 


 その結果ボコボコにされて川に放り込まれ、お触り代を取られた為に税金を支払うお金が足らなくなって、受付のお姉さんに身ぐるみ剥がされるという、想像しただけでも震え上がってしまうコンボ攻撃を食らったのだ。


 ボクなんかたまに夢に見てうなされた程だ。この恐ろしい物語は今でもトラウマになっている。


「な、なんでこの女がいるの、私こいつ嫌いだもん」


 眉間にしわを寄せ、ヒソヒソと声をかけてくるタンポポ。


「カレンはいい子です。錯乱してお尻を触っちゃったからファーストコンタクトに失敗しただけです」


「だって仕方無いじゃない、オッサンは挨拶に女の子のお尻を触るものでしょ? 一生懸命オッサンになってる自分を受け入れようとしただけなんだもん」


 どこの常識ですかそれ――!

 原因が錯乱じゃなかったんだ、いやある意味錯乱なのかもしれない。


「仕方無いんだもん、私の家は田舎すぎて普段接触する人ってタヌキくらいしかいなかったんだもん」


 タヌキと人は別の種族ですよ。


「女の子とのスキンシップにはこれが一番だ、ガッハッハってお父さんが言ってたし」

「田舎のオジサンは娘になんという常識を植え付けているんでしょうか。まさか寝ているボクのお尻を触ったりしてないでしょうね」


「触るわけないでしょ、相手が寝てたら挨拶できないもん。人差し指と中指を鼻の穴に突っ込んでグイとはやったけど」


 ボクは寝ている時にそんな事をされていたんですか。


「後は靴下を脱がせて」


 ボクに何をした――!


「裏がえしにして履かせたり、ほっぺを左右からギュってやったり、ピーナツを鼻の穴に――」

「もういいです聞きたくありません」


 あのピーナツはいい子にしているボクへの神様からの贈り物だと思っていたのに、すっかり騙されました。



「どうしたの?」


 カレンが手を出したまま待っている。


「この子……タンポポ……すごく人見知り……で」


 コミュ障のボクが言えた義理じゃないが、タンポポは人見知りで恥ずかしがり屋なんだと説明しながら、二人の手を繋がせた。


「そっかそっか。私も人見知りなところがあるから、その気持ちよくわかるよ」


 カレンが人見知りなら、世の中の人間全部がコミュ障になるだろう。


「グルル」

「タンポポちゃんかよろしくね。でもあれ? 最近その名前をどこかで聞いたような? 誰だったかなあ」


 と、そこで路地に倒れているタンポポの本体に気がついた様子のカレンに、これは不味い事になったと狼狽したが、足から顔までゴザを乗せられているのでとりあえず誰かわからないから大丈夫だろうか。


 カレンは神妙な面持ちでオジサンタンポポの隣にしゃがみ、顔の方に手を伸ばす。まずいぞ、ゴザをめくられたらバレてしまう!


 彼女の伸ばした手は、そのまま顔の横の道端に生えていたお花を摘み取り、そしてそれをゴザの上に添えて静かに手を合わせる。


 思わずボクも合掌だ、タンポポも隣で手を合わせていた。


 違う違う、その人寝ているというか意識が無いと言うか、意識が外に飛び出ちゃってるだけですから。死体じゃありませんからね、単なる寝体ですから。


「今日バイトが休みになったから、みのりんとお肉の仕入れに行こうと思ったんだけど、どうする?」

「い……く」

「ガゥ」


 どのみちタンポポと討伐に行く予定だったので、カレンの戦力が加わるのは大助かりである。


 カマやクワを持って戦いに挑もうとしたら、戦車が助っ人に参加したような心強さだ。といっても、ボクの『木の棒』はカマやクワ以下なんだけど。


「それじゃみのりんとタンポポちゃんと私で、パーティ組んで行こうよ、今日は三人パーティだね!」


 商業地区の大通りを歩き門の方へ向かう。フンフン~♪ と楽しそうに歩くカレンの後姿を睨みつけながら歩くタンポポに、一抹の不安がよぎるのは致し方ない。

 すぐに友達になれというのも無理な話なのだ。


「ねえ、この短剣でアイツを後ろからグサーとやっていいかな」

「カレンに何かしたら、このボクが只では置きませんよ。この『木の棒』を鼻の穴にグサーしますからね」


 タンポポをけん制しつつ、ボク達三人は町の端の門に到着。


 いよいよここでパーティとなるのだ。


 でも大丈夫かなこのパーティ。


 次回 「その9 オバケとモンスターどっちが強い?」


 みのりんの胸がザワザワする

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