その7 プライドが許さなかった事件発生
討伐に行く事になったボクとタンポポオジサンは、二人一緒に町の門に向かって歩いていく。
商業地区を抜けていくのだが、タンポポの興味があちこちに分散してしまうかもしれないけど、それは仕方のない事だ。
僕も以前までそうだった……うん、今もだけどね。
ここは町歩きの先輩として、タンポポに色々教えてあげようと思う。
「向こうの通りは野菜の種類に特化したお店が多くて、このまま真っ直ぐ行くとオープンカフェがあるんですよ。女子会にもってこいのカフェです、この前開催しました」
「ふうん、御茶屋さんなら向こうにも何件かあるよね、この道も知ってるよ」
「なんで知ってるんですか、まさか、全裸のオジサンが徘徊したんじゃないでしょうね。通報しますよ」
「オッサンがお家でお昼寝している間に、中身だけ出て散歩してたんだもん。でもお金持って無いからお店が多い通りを歩くのはきつくてさ、主に違う通りに行ってたかな」
わかります、ゴールド無しのザコが商業地区を歩くと精神がやられますから。
「通りの脇に生えてる食べられる雑草とか摘んでたよ。向こうの通りがお宝の山でさ、オオバコやカタバミに似た草は食べられたよ。でもねヨモギとイヌビユに似たヤツは危険、オッサンが二日くらいお腹壊したんだもん。みのりんも食べちゃだめだよ、バケツ一杯分くらい食べたらホントに苦しかったんだもん」
「それ単なる食べ過ぎじゃないですかね、というか野草を食べるという発想が無かったです」
「食べ物がそこにあるのにもったいないんだもん」
タンポポのサバイバル能力はボクなんか足元にも及ばない、すごいな田舎の女子高生は。
「そこの可愛い足のお嬢ちゃん、食ってけよ安くしとくよ、一本一ゴールドでどうだい」
声をかけてきたのはいつもの串焼き屋さんだ、この人は本当に変わらない。
足を見ていた店主がボクの顔を確認したようだ。
「青い髪のお嬢ちゃんだったか、さっきちょっと焦がしちゃって客に出せないヤツあるからよ、お嬢ちゃんこれ持っていきナ……お代はいいヨ……ウッ……」
おい、串焼きを差し出しながら手ぬぐいで涙を拭くのはやめて頂こうか、ボクだってゴールド持ちです、お財布の中に一ゴールドものお宝が眠っているんですからね。
「いつもお腹を空かせた可哀想な子扱いはやめてください、そんなものホイホイ受け取りませんからね、たとえ店主の好意でもボクにだってプライドがありまふかふぁ」
ボクが店主から貰った串焼きを頬張りながら抗議していると、タンポポがボクの前に入り店主を見つめだした。自分も文無しだから寄こせと言う事か。
「あ? 串焼きかい? 一本二ゴールドだ」
オジサン客相手だと態度ががらりと変わったぞ、客商売そんなんでいいのか。
「差別は良くないと思うよ、私だってお腹が空いてるんだもん」
「俺は可愛い足にサービスする串焼き屋だ。買わないのならどいてくれ、その青い髪の子の足がよく見えん、さっきからスカートが風でなびいてもうちょっとなんだ」
あけすけな言い方に思わずスカートを抑えるボク、それを見て店主は『おっとついうっかり残念、俺としたことが人生最大の失敗』などと口走っている。
オジサン(タンポポ)の肩をポンと叩き、振り向いた彼女に食べかけの串焼きを渡そうとするボク。
口の中に幸せを運ぶお肉と別れるのは辛いけど、ここは仲良く半分こだ。
しかしタンポポはそれを拒絶し、近くの路地まで歩いて行ってしまった。
「あ、待って」
ボクが彼女を追いかけて角を曲がると、タンポポが壁に向かって佇んでいる。
「タンポポ……」
「何も言わないで……私だって女の子としての意地があるんだもん。あなたに串焼きを恵んでもらうわけにはいかない。私が女の子のプライドを無くしたら、残った部分はオッサンの姿だけになってしまう」
タンポポはそう言うといきなり壁に自分のおでこを叩きつけた!
なっ! ボクは動けずボーゼンとそれを見守る。
自傷行為――!
タンポポはこんなにも心が傷つき追い込まれていたんだ。わかってあげられなかったボクはなんて愚かなんだ!
「タンポポ!」
ビターンと路地に倒れるタンポポオジサンに駆け寄り、慌てて抱き起こそうとする。
「ごめん、こんなにも追い込まれていたなんて、でも自分を傷つけるのなんか論外です!」
ボクは怒りながらタンポポオジサンを抱き起こす。
しかし、ボクに抱き起こされたのは、普通のオジサンではなくセーラー服姿の女の子だったのである。
「これでよし、見てなさいよ、あの串焼き屋さんから絶対串焼きをゲットしてくるんだもん」
意気揚々と歩いていくタンポポ、カクンと視線を落とすとそこには気絶してノビたオジサンがいる。
あいつオジサンを脱ぎ捨てた――!
タンポポは串焼き屋さんの前を通りながら、『あーお腹が空いたんだけど、私お金持って無いんだー。キャ風でスカートが、チラッ』などとやっている。
満面の笑みで串焼きを握り締めて戻ってくるタンポポを見て、ボクは手の中の半分残った串焼きを思い出し食べ始めた。
女の子のプライドはいいとして、串焼きをタダで恵んでもらう件に関するプライドの方は、大丈夫なんだろうか。
でもわかります、その気持ち、よくわかります。お肉の幸せの味に勝るプライドなんて、この世には存在するわけがありませんからね。
「セーラー服の女子高生の足の威力を思い知ったか、でも困ったかな、こうなると簡単には母機に帰還できないんだよね」
ドヤ顔だったタンポポが、さて困ったと倒れているオジサンを眺めている。なら何故やりましたか。
「寝てる時なら鍵を持って玄関から出るようなもんだけど、気絶は鍵も持たずに外にテレポートするのに近いかな、だから入り口のドアを開けるのが一苦労」
そう言いながらタンポポは、倒れている自分に落ちていたゴザをかけ。
「仕方無いからオッサンはここに置いといて、このまま行こう」
「何事も無く言い切ってますけど、そんな扱いでいいんですか、これ自分の身体なのに」
「オッサンだから別にいいよね、もしかして通りかかったイケメンおじ様にイタズラされちゃう?」
「そうですね、顔にラクガキくらいはされるでしょうね。横にペンを置いときましょうか」
赤くなったタンポポに、ジト目で冷静につっこみを入れておいた。
まあ、タンポポがいいのならこのまま出発しますけどね、どーせ重そうなオジサンを運べないですし。
こうして今日のボクの討伐の相棒は、冴えないオジサンからセーラー服の女子高生にチェンジされたのである。
人間からオバケにチェンジしたという話もある。
「みのりんもオッサンが相棒より、女子高生の方がいいよね。その方が世の中みんな嬉しいはずだもん」
どちらかというと、女子高生はボクの天敵なんですが。
次回 「タンポポの天敵現る」
ボクの相棒参戦




