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その6 タンポポの初期装備を買い戻せ!


「みのりんさんの前の転生者の方の初期装備ですか」


 受付のお姉さんとの交渉が始まった。


 因みにタンポポは自宅待機だ、ダンボール待機とも言う、あの格好で出て行くのは女子高生として乙女の心が許さないらしい。

 だからといって普段オバケとして出歩くなって話だが。


「ああ、そういえば売っても何の役にも立ちそうにないので、冬の薪の足しにでもしようかとまだ取ってありましたね」


 タンポポさん、もの凄くどうでもいい事に使用されようとしていましたよ、あなたの初期装備。


「売っ……くだ……」


 一ゴールドを差し出しながらお願いした。


「どうするんです、あんなもの。子供が火遊びはダメですよ」


 いやいや薪の足しの話はしていません。


「ちょっと待ってて下さいね」


 そう言ってお姉さんが奥から取り出してきたのは、乾燥した木材や燃えやすいボロ紙だ。


「ちゃんと大人の人とやってくださいね」


 いえ、だから薪の話ではないのです、こっそりサツマイモを忍ばせるのはやめて下さい。


「あら、残念」


 お姉さんはそのままサツマイモをボクにくれた。

 やったー! 晩御飯ゲットである!


 ホクホクして奥の〝みのりんハウス〟にサツマイモを仕舞いながら考える。これどうやって食べようか。

 生で食べるのはちょっと辛いな、やっぱり〝焼いも〟が一番いいよね、焼いもかあ……うわー楽しみ。


 焼くには何か燃やす物が必要だよね、受付のお姉さんに何か貰おうかな……あれ? さっきお姉さんは燃やす物もくれようとしたっけ、何でだ。


 燃やす物――冬の薪の足し――タンポポの装備。


 華麗なる連想ゲームで思い出した。そうだった、タンポポの初期装備を買い戻してそれで焼いもを作ろう、じゃなくて。


 イモという万人を惑わす魅惑のアイテムを手に入れた事でスカっと忘れていたが、ボクには使命があったのだった。サツマイモというのはとても恐ろしい存在なのである。


 戻って改めて伝え直したボクに、ようやく意図を理解してくれた受付のお姉さんは、奥から今度はちゃんと服と装備を出してきてくれた。


「こちらになりますね」


 それは簡単な鎧とトップス、そしてスカートに……ん、何故スカートがある。

 横でその様子を見ていた受付助手のお姉さんが訂正してくれた。


「先輩違いますよ、それ一年前の転生者の装備です」

「あら、そうだったかしら」


 なんてこった、ホントに女の子の服を剥いでたよこの人――


 その子が今も全裸のポンチョ姿でダンボールハウスに住んでたらどうしよう……

 ガタガタ震えだしたボクに気が付いたお姉さん達。


「さすがに先輩は下着までは剥いで無いですよ、オジサンじゃあるまいし」

「まさか女の子をそのまま放り出したりもしていませんよ、オジサンじゃあるまいし。あの時はサイズが合う給仕服がありましたからね」


 二人揃ってオジサンに容赦なさすぎです。


「はいはーい、トントン生姜焼きとトントンソーセージですね少々お待ち下さーい」


 併設された食堂からの声にお腹が『ぐう』と鳴る。

 朝から豪勢な食事にそちらを見ると、質素だが可愛い給仕服を来たウェイトレスさんが元気に注文を取ってまわっていた。


 タンポポの装備は受付助手のお姉さんが探して出してくれて、一ゴールドを支払いそれを買い戻す事に成功。


 武器は短剣、トップスは白いインナーにジャケット、ボトムスはスラックスにトランクス、革靴。期待を裏切らないオジサン感である。


 しかし、しかしだ、このスラックスには興味をそそられる。スーハースーハー。

 男物のズボンに顔を埋めてスーハーしている少女に、ギルド内のオジサン達がどよめくが気にしない。


 これがあれば風のそよそよに悩まされる事が無くなるのだ。

 ボクがこれを穿いて、タンポポ(オジサン)がボクのスカートを穿くと言う選択肢もあるのではないだろうか。


「みのりんさん、間違ってもそのスラックスを穿こうなんて気は起こさないでくださいね、男の娘が男性用の服を着ると――」


 そうでしたそうでした、精神が崩壊して再起不能になるんでした。


「爆発して死ぬそうですから」


 この前聞いたのとちょっと違うんですけど!


 うろたえてたらジャケットから何かが落ちたので拾い上げると、それはボクと同じ初期装備の冊子だ。

 タンポポもこの手抜き取り説を貰っていたのか、と開いて中を読んでみる。


 ――がんばってね!――


 それだけだった。

 ボクのより手抜きだった。



 ダンボールハウスに戻ってタンポポに初期装備を渡すと、彼女は感激して抱きついてくる。


 彼女といってもポンチョ以外裸のオッサンがいたいけな少女に抱きつくの図である、警察がいたらちょっとキミと連行されるのは間違いないところだ。


 着替えたタンポポは、ポンチョのオジサンから普通のオジサンに変身した。


 今までのポンチョという特徴のあるキャラ装備がなくなってどこにでもいる格好をされると、特徴が無さすぎてもう誰だか全く思い出せなくなる。


 外で待ってて着替えて出てきたタンポポオジサンに。


「どちら様でしょうか」


 と素で聞いてしまった程である。


「初期装備は戻りましたけど、これからどうしたいですか?」

「そうだね、みのりんのゴールドを見てたら、私もやっぱりゴールド持ちになりたいかな、お金を稼ぎたいんだもん」


「ボクのゴールドは討伐で稼いだものなんですよ」


 ドヤ顔で胸を張るボクに対して、タンポポは素直に『すごいすごい』と褒めてくれた、えっへん。


「じゃ私も討伐に行きたいかも」


 なんとかなるだろうか。

 ドヤ顔でキメてみたものの、ボクの場合は〝稼いだ〟ではなく〝稼いで貰った〟が正解なのだ。


 確かタンポポはLv1だ、Lvマイナス1のボクよりも二段階も上の上級冒険者だ。

 慣らしの為にも一度外に出て、モンスターを見るだけでも経験した方が良さそうなので、討伐に行くのもいいだろう。


「それじゃあ、行きますか。討伐に」

「よろしくお願いします」


 少女とオジサンのコンビは互いにペコリと挨拶を交わしたのである。


 次回 「プライドが許さなかった事件発生」


 商業地区はやはり危険な場所なのである

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