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その4 タンポポのワケのわからない秘密★


 目の前の少女は、自分がボクの一つ前の悲惨な目にあったオジサン転生者だと言ったのか。


「ちょっとお話が見えないんですけど?」


 顔を傾げながら聞く。


「だから、そのオッサンの転生者が私なの! 私死んだらオッサンに転生してたんだもん。ありえないでしょ? あってはいけない事だよね?」


 二人の間に流れる空白の間。


 ウワー、あるんだそんな可哀想な話が。

 で、オジサンに転生して悲惨な目に遭い、絶望してこの世を儚んで……ありがちありがち。


 このオジサン転生者の話を聞いた時、一度会ってみたいと思ってた人だったのに残念な事をしました。

 オジサンの霊である目の前のタンポポに静かに合唱をする、どうか成仏してください。


「あのー、勘違いしているみたいだけど、私別に死んでないよ? あ、私は死んだんだけど、オッサンに転生したオッサンは死んでないって事ね」


 どういう事ですか。こんがらがるからワケのわからない事は言わないで下さい。


「転生前の日本に住んでた私、それは死んでてその霊が私。で、この世界に転生したオッサンの中身というか心というか、身体の外に出てきた霊体が私」


「えーと、そのオジサンは今どこに?」

「本体はこの時間はおうちで寝てるよ。当然でしょ、オッサンがこんな深夜に起きていられるわけがないんだもん。まあもうすぐ朝なんだけど」


「つまり、寝てる間に中身だけ外に飛び出した、と」

「そういう事」


 ふむふむと納得する、こんなアホな話あるかいなと思うが納得せざるを得ない、なにしろボク自身が男の娘種族というワケのわからない状態なのだ。

 オジサンの中身が女の子で、身体の外をフラフラ遊んでても何の不思議もない。


 それよりもこの人には確認したい事があるのだ、さっきから手に持ってるものがチラチラ目に入ってるし。


「事情はわかりましたが、毎晩毎晩ボクの顔にラクガキするのはやめて頂けませんか」

「ギクっ! な、何の事かな? 言ってる意味が全然わかんないんだもん」


 漫画みたいに横を向いて口笛を吹いているが、吹けないんでしょあなた、肝心の口笛が出ていませんよ。


「しらばっくれても無駄です、さっきから見えているんですよ、手に持ったペンが」


 口でヒューヒュー言っていたタンポポは自分の右手を見て、ハッっと目を見開いた。


「何故こんな所にペンが!」


「ちょっと待っててくださいね、玄関に行ってホウキを取って来ますから。なんとなくホウキの使い方がわかってきたような気がしますから」


「うぅ~ごめんなさい」


 イタズラがバレたオバケが観念してペンを差し出したので、それ受け取って手に書いてみると確かにいつものペンのインクのよう。

 犯罪の証拠を押さえました。犯人をとうとう検挙です。


「やっぱりあなたでしたか」


「だってすやすや寝てるあなたの顔を見てたら腹も立つもん。あなたはこんなにも綺麗でステキで可愛い女の子なのに、私はオッサンなんだもん。わかる? オッサンだよオッサン。同じ転生者なのにあなたは可愛い、私はオッサン。嫉妬してラクガキしても仕方がないよ、だってそこにペンがあったんだもん」


 そこに山があるから登るみたいな言い訳は通用しませんよ。それが通用するのはお人形で遊ぶ時だけです。


 でもこの姿はこの姿で大変なのだ、と彼女に訴えるのはやめようと思う。

 オジサンがどうこうより彼女が転生してから味わった恐怖体験に、ボクはトラウマになるくらい震え上がっていたわけだから。


「嫉妬はわかりましたが、毎日顔に猫のひげだの、チューリップだのアヒルさんだの描かれるボクの身にもなってください」

「ごめんね、毎日〝馬鹿〟だの〝ブス〟だの〝肉〟だの書いて、悪かったよ」


「え?」

「え?」


 話がイマイチ噛み合って無い気もするけど、とにかくもうやめて欲しいと訴える。

 タンポポは『前向きに善処します』とだけ応えた、この人はまたやりそうな気配がする。


「ところで、オバケでもペンが持てるんですね、そういうのは霊力みたいなので動かしてるんですか?」

「普通に持ってるだけだよ、あなたにも普通に触れるよ」


 試しに触ってみる。うわーしゅげええーホントに触れるからビックリだよ。


「でも暖かいんですね、オバケってもっとヒンヤリしてるんだと思ってましたよ」

「本体のオッサンは生きてるからねえ、それオッサンの温もりだもん」


 気持ちの悪い事言わないで頂けますか。


 これで一つ謎が解けた、ボクがタンポポの顔を見てもあんまりキョドらない理由は、見た目や心は女の子でも現在タンポポがオジサンだからである。


 ミーシアとキョドらずに比較的マトモに話ができるのも、ミーシアが女装子の男の子だからだろう。

 ボクは知らない内に頭のおかしいセンサーを見につけてしまったようだ。


 さて、最後にもう一つの疑問がある、それも是非聞いてみたい。


「それにしても何故セーラー服なんですか」

「だって私が死んだの学校からの帰り道だったんだもん、危ない田舎道でさ」


「やっぱりトラックに轢かれましたか、田舎道は怖いんですよね」


 ベタな死に方をした転生者の登場だ、一気に仲間意識が上昇し話も盛り上がるというものだ。


「熊が出てきてガッてやられた」


 危ない田舎道のLvが違ったようである。


 なんと羨ましい死に方だろうか――!

 ベタな転生だったボクには羨望の対象でしかない、嫉妬しすぎてこの子の顔にラクガキをしてしまいそうである。


 しかしそれは恐怖体験だっただろう、改めて想像してみるとかなり怖い、ボクでも嫌だし普通の女の子が体験していい代物じゃない。


「そ……それは衝撃的な末路でしたね……なんと言っていいのか」

「一撃で屠ってくれたから怖いとか痛いとかなんにも無かった。だからあの熊には何の感情もないよ? そんな事よりオッサンに転生した方が百倍恐怖だよ、こんな体験ありえないもん。酷すぎるよね」


 うん、この子は世界中のオジサンに謝った方がいいんじゃないだろうか。


「私だって、ロマンスグレーの筋骨隆々としたダンディーで渋いイケメンのおじ様だったらどんなに良かったか、むしろそうなりたかったもん。可愛い女の子にお嬢さんとか言っちゃって『キャー』ってされたり、他のステキな殿方達といちゃいちゃラブラブしたかったもん。でも私はオッサン。お腹の出た単なるオッサン」


 一部理解不能な願望を晒したあと、タンポポは続ける。


「あんまり悲しくてあんまり悔しくて、毎晩泣いて枕を濡らしてたら、まあ、枕なんて持ってないんだけどね、寝てる間に幽体離脱するようになっちゃった」


挿絵(By みてみん)


 次回 「ボク、先輩転生者のオジサンに出会う」


 そいつは普通のオッサンだった

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