表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/222

その1 お人形遊びはとてつもなく危険だった


 今日はひよこのラクガキだった。


 ボクのおでこに描かれた可愛いひよこを消しながら、このラクガキの犯人をなんとか退治できないものかと考える。


 重要参考人は食堂に出るというオバケだ。まだ一度も姿を見た事はないが、証拠が残っている以上存在するのは確かだろうと思う。


 なんせ、朝一番で出勤してくる受付のお姉さんに起こされるまで、ギルド食堂にはボク以外誰もいないはずなのに、起きたら必ずラクガキがされているのだ。

 オバケ以外考えられないじゃないか。


 このオバケのせいでボクは、自分の顔を見るという修行を毎朝強制的に課せられてしまっているのだ。

 女の子に慣れる修行にもなっているのかも知れないけれど、毎朝鏡で女の子の顔を見て、悲鳴を上げるボクの身にもなって欲しいものだ。


 本当に毎朝毎朝このオバケときたら、ボクの顔にラクガキをするのにいい加減飽きないものかと感心すら覚えてしまう。


 受付のお姉さんにオバケの事を詳しく聞いても、『あらあら』と微笑むだけで埒があかない。

 ホウキを使ってもいいですよ、との事だけど、どうしろと言うんだお姉さんは。


 一度オバケの事をカレンに話してみた事がある、彼女はその内に私が退治してあげるから待っててと言って笑った。


 カレンの助力を得られれば、ボクはもはやオバケに勝利したと言っても過言ではないだろう。その内に見とけよオバケのヤツめ、必ずザマアアしてやるからね!


 その時の為にもまずは作戦を立てなければならない。

 敵を倒すには戦略が必要なのだ。


 ボクはベッドにしているダンボール箱から、いくつかのお人形を取り出した。

 女の子の人形二つ、他にはウサギや猫、熊だ。


 これは暇そうにしていたボクを見て受付のお姉さんが持って来てくれたもので、彼女が小さい頃に遊んでいたものだという。

 お姉さんの子供の頃の宝物だったというそのお人形達、因みにお幾つの頃ですかと尋ねたら、『七歳頃かしら』と返ってきた。


 いったい受け付けのお姉さんの目には、ボクはいくつに見えているんだろうか、ちょっと不安になる。

 いくらなんでもお人形遊びなんか卒業しているのだ。


 まさか七歳の女の子が遊んでいたお人形で、もう十五歳にもなる大人のボクが遊ぶわけがないのだ。


 いや、例えば、例えばの話だよ、ボクがお人形で遊んだからそれがなんだというんだって話だよ。


 そりゃ、確かに夜暇な時にちょっと遊んだ事はあったかもしれない、朝遊び疲れてちらかしたまま寝てた事もあったかもしれない、オバケが怖くて僕の前に護衛にと並べて置いて寝た事もあったかもしれない。


 でもそれは普通の事ではないのかと声高に主張したい。


 山があるから山に登り、おっぱいがあるからそれを見る。

 それと同じだ、お人形があるから遊ぶのだ。お人形とは遊ばなくてはいけないものなのだ。


 さて、正当性を完璧に主張したところで戦略を考えようと思う。

 時刻は朝の九時ちょっと前。まだ誰もいないギルド内は静かで、作戦の立案をするのには持って来いの環境なのだ。


 まずこの女の子がボク、ちっちゃい方。もう一個の女の子はカレンだ。


 オバケはそうだなこの猫にしようか。

 とそこで、オバケ役をやらせると怖くなって、これからこの猫に触れなくなりそうだから任命を取り消した。


 オバケ役は『木の棒』だ、これなら単なる棒だしそんなに怖くない。この初期装備を活用するチャンスでもある。ボクの『木の棒』の数少ない出番がやってきたのだ。


 ミーシアはピンクのウサギ。残りの猫と熊は通行人Aとお父さんにした。

 テーブルの上が戦場マップ、つまりこのギルド内だ。


 まずボクがオバケをこうおびき寄せて、いや待てよ、カレンをここに隠してこっちにおびき寄せたほうがいいな。オバケを追い込むのは通行人Aにして。


 通行人Aって誰だ? まあいいや、ミーシアをここに配置して逃げて来たオバケを挟み撃ちにして……お父さんが……お父さんって誰の?……



「お人形遊びかいお嬢ちゃん」


 いきなり声をかけられて我に返った。


 見ると話しかけて来たのは冒険者らしいオジサンだ。ニコニコ顔でボクを覗き込んでいた。


「なんですか、まだギルドは営業していませんよ、こんなに朝早く勝手に入って来ないで下さい、営業は九時半からですよ」


「何言ってんだいお嬢ちゃん、もうお昼過ぎだぜ」

「な!?」


 周りを見回すとギルド内は冒険者で溢れている、食堂も食事をしたり昼間から酒を飲んでる冒険者でいっぱいだ。

 ボクの耳にギルド内の喧騒が一気に流れ込んできた、隣の席なんて酔っ払い同士が肩を組んで大声で歌っているじゃないか。


 戦略に夢中になってて気がつかなかった……だと!?


 テーブルの上を見ると、テーブルに見立てた小さい箱を囲って、ミーシアとボクと通行人Aがまるで食事でも取っているかの様子。


 お父さんはハンカチを布団のようにかけられお休み中。カレンは少し離れた所でポーチをかけられ、まるでお買い物をしているかのような風情である。


 まさか……ボクは三時間以上もお人形遊びに没頭を……!?

 慌てて人形達を仕舞いこんだボク。


 ぐ、軍事作戦の立案に没頭してしまったみたいだ、自分のあまりの策士っぷりにびっくりしてしまった。

 もしかして『策士策に溺れる』ってのはこういう事を言うのだろうか。


「ん、違うぞお嬢ちゃん」


 ボクの心の声につっこみを入れないで下さいオジサン、超能力者ですか。


 え、声に出てましたか。


「いやー女の子がお人形遊びをしているのは、やっぱりほのぼのしていていいね~。オジサンの娘も家で夢中になってよく遊んでるよ、ご飯に呼んでも気が付かないんだぜ」


「つ、つかぬ事をお聞きしますが、娘さんはおいくつですか?」

「今年七歳になった。今度連れて来るから一緒に遊んでやってくれないか。お人形遊びの友達になって欲しい」


「そ、そうですね、あ、遊んであげてもいいですよ」


 ボクは娘さんの倍以上年上のアダルティな女の人ですけど、子供の相手くらいしてあげますよ、暇ですしね。


「いやーありがとうなお嬢ちゃん、同い年くらいの子の遊び相手が見つかって娘も喜ぶよ」


 どういう事ですか。


「娘は妹が欲しいって言ってたしな、ちゃんと面倒見るように言っとくから」


 どういう事ですか。


 次回 「対オバケ作戦実行せよ、決戦である」


 みのりん、夜更かしを決行する

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ