その4 ボクの相棒カレンの秘密
「行きたいお店があるのよ、付き合ってくれる?」
そう言い出したミーシアの後を黙って着いて行く、今日はこの子の好きにさせてあげたいと思ってしまうのだ。
商業地区の大通りから外れた先にその店はあった。
「カフェですか」
「最近できて美味しいらしいのよ。この前カレンが勧めてたから、喉も渇いたし入らない?」
店内をさっと見て、『ボクは公園の水で』と言いかけた所で、半ば強引にお店の中に連れ込まれてしまった。
広々とした店内は新築出来たてといった感じのオシャレな喫茶店で、店員もお客さんも殆ど女の人である、危険極まりない場所なのだ。
こんなお店に連れ込むなんて、先ほどの服屋さんでの敗北を知るこのボクを、亡き者にしようとしているのではないんですか……
「違うわよ もう気にしてないから」
声に出したわけじゃないのにミーシアがつっこむ。
え、声に出てましたか。
どうやら店内に対する緊張感で身体のコントロールが利かないようだ。
店長といった感じのダンディーな男の人に『お嬢様方はこちらへ』と、窓際のテーブルに案内され二人で向かい合って着席。
「見栄えのする女の子は、通りから見える場所に座らせて客寄せにするのよ。つまり、これは女の子に見られた私が勝ったという事よね、これで今日の勝敗はチャラよ」
やっぱり気にしてんじゃないですか、一体何の勝敗なんですか。
「いらっしゃいませお客様、ご注文をどうぞ」
ウェイトレスさんがメニューを持ってきた。彼女の接近にボクの女の子センサーがアラームを鳴らし始める、ようやく仕事を始めたようだ。
「あれ? みのりんにミーシア。二人で来てくれたんだ」
ウェイトレスさんがいきなりフレンドリーになったので、顔を上げて胸を見たらカレンだった。
「カレン、あなたここでアルバイトをしていたの? 美味しい美味しいってまさか自分のお店の宣伝だったとは」
「違う違う宣伝じゃないよ、私が働いているのとは関係なしに、ホントにこのお店は美味しいんだから」
二人の会話を聞きながら、そういえばこの前のガールズトークでカレンが美味しいお店があるって言ってたっけ、このお店だったんだ。
「アル……バ……」
「店長にどうしてもって頼まれると断われないから、数日に一日はシフトに入るようにしてるんだ。みのりんに隠してたわけじゃないけど、その日はパーティ討伐できなくてごめんね」
そうか、たまにあるカレンの用事ってこれだったんだ。カレンの小さな謎が一つ解明されてちょっと嬉しい。
「あ、メニュー見てね。どれも美味しいよ」
渡されたメニューを見る。どれもこれも五ゴールド以上した、これは王族の飲み物か、手も足も出せません。
「み……ず」
「おかわり? 直ぐ持ってくるね」
真に受けたカレンが走っていく、後姿のフリフリの給仕服が可愛いすぎる。
「誘ったのは私だし、奢るわよ。さっきの口封じね」
とてつもなく高いから最初遠慮したけど、そういう事なら安心して奢られます。ミーシアの細やかな気遣いに感心してしまう。
「決まった?」
カレンが水のお代わりを持ってきてテーブルの上に置くと尋ねた。
「私はこれ、チョコレートシュガー増しスペシャルソーダにしようと思う」
「さすがミーシア、それこのお店自慢のソーダだよ。脳天突き抜ける甘さなんだから! 十日くらいは糖分いらなくなるくらいだよ。みのりんはこっちもオススメ、パインといちごのガムシロップ。こっちのメープルシロップもオススメ」
シロ……それは飲み物として飲んでもいいものなんでしょうか。
「それと、シフォンケーキを一つ、みのりんと半分こしよう。さっきのお店で何故だか食べたくなっちゃったのよね」
「ああ、ボクもです」
くすくすと笑う二人をカレンが不思議そうに見ていた。
運ばれてきた飲み物を飲んで、あま――あひゃぁ――い、とやった時、「きゃ」という悲鳴が聞こえて振り向くと、お尻を押さえたカレンがいた。
隣の席のオジサン客にお尻をペロンと撫でられたみたいだ。
ボクのトラウマが蘇り、ガタガタと身体が震えだした。
お尻を触られた時のカレンは怖いんだぞ、お店が戦場になっても仕方が無いぞ。
しかしカレンは『お戯れはやめてくださいお客様』と笑顔であしらっただけだった。
ミーシアが仕事に戻ろうとするカレンに。
「大丈夫? 私がフレイムオーバーキルで吹き飛ばそうか」
物騒な事を言い出したぞこの子、今日買った服を早速消費してしまおうという魂胆か、証拠隠滅である。
「大丈夫だよこれは仕事だし。それに店長が言ってたんだ、お客様は神様だって。神様は悪い事しないよ」
素直すぎるでしょカレン。
こんな素直ないたいけな子のお尻を触るなんて、少しは反省をして頂きたい。
とジト目で隣のお客さんを見ると、話を聞いていたのか罪悪感でテーブルに向かってうな垂れて顔を抑えていた。
「店長が言うにはね、神様はこうやってお戯れをして天に帰る力を蓄えているんだって。お戯れが十回になったら天に帰って頂くから、カレンさんも昇天を手伝ってあげて下さいって。このお客様はこれで九回目だから、次は昇天させてあげないといけないね」
カレンが懐から手帳を取り出して確認しながら言った。覗き込むと他にも×が書かれた客のリストが載っている。
隣を見るとさっきのオジサン客は、椅子の上でカレンに向かって土下座をしていた。
「あの給仕服なかなかいいわよね」
働くカレンや他のウェイトレスさんを見ながらミーシアが呟く。
一生懸命働くカレンの姿は確かに可愛い。ギルド食堂の質素な給仕服と違ってふりふりが数倍、その分可愛さと華やかさも数倍だ。
見ているとそのカレンがまたやって来たが、近くで見ると圧倒されそうな可愛さがある。
「今日は早めにもうすぐあがるから一緒に帰ろうよ。今日給料日だし買い物したい、それまでこれ食べて待っててね、私の友達だって言ったら店長がサービスしてくれたよ。あの娘可愛いからスカウトしたいなって、もう一人の貧乏そうな娘も可愛いしそっち系で人気出そうだって言ってた」
「そうね考えておくわ」
ミーシアがテーブルに置かれたクッキーをつまんで答えた。
ボクは満面の笑みでクッキーを頬張りながら、おや、と気がつく。
目の前のクッキーに釘付けで聞き流しちゃったけど、貧乏そうな娘ってどっちを指しているんだ。そっち系って何系なんだ。
まさかゴールド持ちのこのボクの事のわけがないよな。
安心してまたクッキーを食べた。
「はわわーん」
この後のカレンと一緒の買い物が楽しみすぎて、細かい事はどうでもいいのだ。
次回 「再戦! ボクらの切り札カレン参戦!」
カレン、女の子の足への冒涜は許さん服屋と対決




