その2 スカートを穿くのは戦いなのよね
「はわわーん」
目の前のガラスに映った魔物に警戒しながら、串焼きのお肉を頬張ったらこうなった。
「えーとボクは何に警戒していたんだっけ?」
「町のオジサンでしょ」
ミーシアが教えてくれた。そういやそうだっけ、ガラスや鏡に映るオジサンを警戒してたんだった。……何でだ?
オジサンに警戒しろと言われても、直接攻撃でもしてこない限りボクにはよくわからないんだよね。
これは恐らくだけど、ボクの警戒アンテナは常に女の子の接近に対して張り巡らされているので、オジサンにまで対応できないでいるんだろう。
よほど長時間ガン見されたり触られたりしない限り、警報は出ないものと思われる。
「スカートを穿くのは戦いなのよね、町のオジサン達に敗北している場合じゃないのよ」
ミーシアは食べ終えた串をベンチの横のゴミ箱に捨てると、オシャレは戦争だと話す。
一人のオジサンがその串を拾って大事そうに袋に入れたのを、話に夢中なミーシアは気が付かない。
オジサンはさらさらっと紙に何かを描いてその袋に一緒に入れたが、その時に見えたソレはミーシアの似顔絵だった。めちゃくちゃそっくりに可愛く描いてある。
更にオジサンはゴミ箱の横に立って、ボクが持っている食べ終わった串もジッと見ている。
これはまずいぞ、捨ててはいけない場所にゴミを捨てるのではないかと監視しているんだ、捨てた子は似顔絵の指名手配書まで添付されてしまうのだ。
ごめんなさい、ここは串を捨てちゃいけないゴミ箱だったんですね、ボクはちゃんとゴミは持ち帰るので安心してください。できればミーシアの事も許してあげてください。
そうオジサンにアイコンタクトをして、串を二つに折ってティッシュで包みポシェットに仕舞うと、オジサンは悲しそうな目をして去って行った。
あの人みたいに町の美化やルールに頑張ってるオジサンは、さすがに警戒しようがないよね。
と、今度は座っているボク達の少し離れた正面に、別のオジサンがしゃがんだ。
何かを探しているのか地面を見ているようでキョロキョロと首を振っている。
左側から振られた首がボク達の正面で三秒くらい止まり、また右へと動き出す。今度は右から戻ってきてまたボク達の前で三秒止まって動き出す。
探し物が見つからないのだろうか、ボク達の正面を目線が何度も行ったり来たり。
ハンカチで手を拭いていたミーシアがオジサンに気がつくと、突然ボクの手を取って立ち上がり歩き出した。
「ボクはオジサンの探し物の手伝いを」
「みのりん、いいからこっち!」
振り向いたらさっきのオジサンはボク達が座っていたベンチに頬ずりしていた、何やってるんだあの人。
「ホントにこの町のオヤジ共と来たら、油断も隙もあったもんじゃない! フレイムオーバーキルで焼き払ってやろうかしら!」
スタスタと早歩きのミーシアの顔は真っ赤だ。
「私は女の子として見られたいだけであって、エロい目で見られたいわけじゃないから警戒しまくってるのに、いとも簡単に警戒線を突破してくるんだから。本当にあなたも気をつけないとね」
「う、うん」
どうしてミーシアが怒ってるのかよくわからないんだけど、ミーシアでこれだから、ボクなんか隙だらけで穴だらけのポンコツシールドなんだろうな。
レーダーを女の子に対して使っているものだから、オジサンに反応しないし、ガラスや鏡に突然映る自分の姿にキョドってしまうんだよね。
「私がいるから大丈夫、みのりんは守ってあげる。えっへん」
とニセモノの胸を張るミーシアはとても頼もしく見えた。
そのまま二人で町の中を散策。
ミーシアはボクの知らない、いかにも女の子が好きそうなお店を覗いてまわった。
大抵そういう場所はお客さんも女の子だし、店員さんも女の人なのでボクは警戒して入らないのだが、満足そうなミーシアを見ているだけでボクも楽しいのだ。
「あらここ入ってみようかしら、このお店には入った事ないのよね」
ミーシアが足を止めたのは一軒の服屋さんの前である。
「うわ」
思わず声が漏れてしまった。
そう、ここは以前、とても恥ずかしい服を買わされた曰くつきのお店だ。
「ここに入るの?」
「どうしたの?」
不安そうなボクを見て、ミーシアは不思議そうな顔をした。
「この前見たでしょ、私魔法を撃つとその度に服が焦げてボロボロになるのよ。この前は替えを忘れてみのりんのお陰で助かったけどホント危なかった」
ミーシアは話しながらあの時の事を思い出しているよう。
「まさかあの森でピンチに陥るとは思わなかったから、呑気に替えを持たずに行っちゃったのよね。だって、あそこにいるやんばるトントンは一匹ですらなかなか出て来ないから、あんなに出てくるとは思わなくって完全に油断したのよ。どうしてあんなに沢山出現したのかしらねえ。だからせっかくお店を見つけたのなら、替えの予備を買って置こうかと思って」
まあ、完全にボクの惹きつけスキルのせいなんですけどね。
そしてミーシアはすまなそうにボクに向くと謝ってきた。
「あの時は服が焦げて、みのりんをびっくりさせちゃってごめんなさいね」
「あの時は服じゃなくて焦げたミーシアに、ボクはびっくりしたんですけど」
あの時のハイ状態で高らかに笑う焦げシア、いやミーシアの姿を思い出す。少し幻想的で美しいシーンだった。
「でもここって一着百ゴールドなんですよ、大丈夫ですか?」
ボクにとってはとんでもない高級ブティックなのだ。
「大丈夫よ? 替えの予備なんだからそれで十分よ、でもそうね、持ち合わせが三百ゴールドしかないからスカートだけにしておくね、トップスは予備がまだあるから」
ボクの大丈夫を別の意味で勘違いしたミーシアは、もしかして貴族や王族なのだろうか。まさかこの世界の支配者って事は無いよね。
三百ゴールドと聞いてミーシアの次元の違うスーパー富豪っぷりに、危うく腰が抜けそうになった。
「みのりんどうしたの? 突然地面に座っちゃって、大丈夫?」
ああ、しまった既に腰が抜けていたみたいだ。
この超ゴールド持ちミーシアならこんな店、臆する必要なんかないのである。
高級ブティックが何様だ! いざ突撃である!
ミーシアなら勝てる!
次回 「服屋に挑むミーシア!」
ミーシア、女の子の足への冒涜は許さん服屋と対決




