その4 女子会はめちゃくちゃ楽しい!
「遅れてごめんねーみのりん」
遅れたといっても三分程度だが、申し訳無さそうにカレンが走ってきた。
三分くらい別にいいのに。
「足が綺麗なお嬢ちゃん足をもっと見せてくれとか、セクハラかましてきた串焼き屋台のオジサンに、目潰し決めてきたから遅れちゃった」
地獄の三分だった。
「走って喉が渇いちゃった、私も注文するよ。すみませーん」
ウェイターさんを捕まえているのは、いつも明るく元気なボクの相棒の女の子カレンだ。
名前は〝マウ・ド・レン・フィンク・カレンティア〟
ボクが先ほどから皆のフルネームを聞きたがっているのは、このカレンの名前からなのだ。
「ハイビスカスアイスティーにした」
にこやかな笑顔のカレンを見て思う。
この前強くなりたいと焦るあまりに変なカップル冒険者に利用されて、彼女を心配させて泣かしてしまったんだボクは。
明るいカレンを泣かせるような事は、二度としたくないと心に誓った。
ところでハイビスカスアイスティーも美味しそうだ、今度来たらこれも飲もうと心に誓った。
「おや?」
そこでボク以外のメンバーにカレンが気が付いたようだ。
「みのりんに何したの、アンタにも目潰しお見舞いするよ?」
「まだ何もしておりません!」
直立不動で答えるマンクはカレンを相当に恐れているようだ、っていうか、まだって何よ。何するつもりだ。
マンクの言葉に釈然としないボクが、つっこみを入れようか迷っていると。
「こっちの子は?」
とミーシアに気が付いたようなので、カレンの胸を見ながら説明する。
「この……子……ミーシア……さっき知り合……た」
「ふうん……」
まじまじとミーシアを見つめるカレン。そうか、彼女くらいの冒険者になるとさすがに相手の事がわかっちゃうんだ、女の子だしね。
女の人から見ると女装はわかるってテレビで言ってた。
「そっかー、みのりんも私以外の女の子とお友達になれるようになったかー」
そういやこの人、そこそこポンコツでしたね……
「アイター、みのりんの成長が嬉しい反面、仲良くできる女の子は私だけって特別感が無くなって嫉妬しちゃうなー、独占状態だったのになー」
あけすけすぎますよカレンさん。
「私はカレン、よろしくね!」
「ミーシアです、よろしくお願いしますわ」
差し出されたカレンの手を握るミーシア。カレンはその瞬間何かに気付いたような表情をした。
「あなた……」
あ、手を触ってさすがに気が付きましたか。ごくり、緊張の瞬間である。
「華奢で可愛い手~すべすべ~これぞ女の子の手だよね~」
「ウェイターさん、メロンソーダのお代わりをお願いします」
アホらしくなってジュースの注文をした。
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「さてと、そろそろ行こっかみのりん」
ジュースを飲み干すとカレンが話を切り上げた。
――話を切り上げる――
そうなのだ、会話の細かな様子は割愛するけど、先ほどまでこのテーブルでは女の子(のように見えるの含む)3人のガールズトークで盛り上がっていたのだ。
どこどこの店のスイーツが美味しいだとか、新しいファッションの話だとか、やたらミニスカートを勧めてくる服屋の話だとか、楽しくて今日一日このまま終りたい気分だった。
テーブルで3人という事はマンクはどうした? と思われるかもしれない。
しかし同じテーブルに着けるわけもなく(接触が怖いからそりゃそうだよね)、ボクのすぐ後ろのテーブルに陣取っていた彼は、会話の内容的にも若い女の子達のトークに、入りたくても入っていけない中年のオジサンのようになっていた。
時折『そうなんだ』とか『へーそれは面白いね』とか必死に会話に入ろうとし、寒いオヤジギャグを飛ばしたりして女の子の会話に妙な空気と間を作って、それはそれは悲惨な状態になっていたのだ。
後ろのテーブルで灰になったように呆けているマンクを見ると、もう少し助けてあげても良かったかな? と罪悪感を覚えた。
「どこに行くの? カレン」
「ミーシアも一緒に行く? 行こうよ」
すっかり打ち解けて友達になったミーシアとカレン。
「みのりんとやんばるトントンの仕入れ、じゃなかった討伐の日課だよ。一日一体、毎日続けてみのりんはLv上げの経験値を、私はお肉……じゃなかった私も経験値を稼いでるんだよ」
「一日一体かー、毎日の日課ってそうやってコツコツ積み上げるのが楽しいものね」
何故一体なのかの理由を良い方に取ったミーシアはカレンの手を取り。
「私も行っていいの?」
「もちろん、みのりんとパーティの形を取るから、ミーシアもパーティに入ってよ」
「行く行く、行きたい」
「じゃ決まりだね! ミーシアが入ってくれるととっても嬉しいよ!」
二人で盛り上がっている。
「ゴホンゴホン、あーゴホン」
パーティと聞いて反応したのか、後ろの席で灰がわざとらしく咳きをした。
「風邪? お大事に」
これっぽっちもお大事にとは思ってなさそうな冷ややかな目でカレン。
下品なオヤジギャグをあれだけ豪快に飛ばしまくればこうなります、自業自得です。ミーシアの目も石ころを見るような目になってるし。
「カレン……マンクも入れ……あげよ……討伐数……増え……かも」
先ほどの罪悪感からつい助け舟を出してしまった。
「そうだねー、そっか! そうすればお肉が一杯運べるか、みのりん頭いい」
うん、お肉の事を言ったわけではないんだ、カレンが納得したのならまあいいけど。
皆で立ち上がり出かける用意をしていると、カレンがマンクに問いかける。
「でもさーアンタ大丈夫なの? 女の子危ないんでしょ?」
カレンがマンクの心配をしているとは、この二人の関係でこんな面もあるんだ。
「ドレインされてカラッカラに干上がったアンタを運ぶの嫌だよ? お肉を運ばないといけないんだから」
うん、さあ行こうか。
次回 「初の四人パーティで森への冒険」
マンク以外全員可愛い女の子〝のようなもの〟パーティ




