その1 友達になりたいと言ってきた女の子★
「メロンソーダを一つ下さい」
小さなオープンカフェでオーダーするボクは、もちろん恥ずかしいのでウェイトレスさんではなくウェイターさんを捕まえていた。
本来ならコーヒーを頼むのがいいんだろうけど苦いのは飲めないし、麦茶もメニューにはない。
残念ながら、この世界にも麦茶メロンソーダは存在しないようだ。
といいつつメロンソーダを選択するのに、たっぷり時間は費やした。対戦相手はトロピカルジュースである、かなりの強敵だった。
苦戦した後にソーダを飲むのは爽快だろうな、戦いの後はグビグビプハーとやりたいものだ。
因みにソーダの値段は一ゴールド、最近カレンから貰った小さなポーチから、同じく貰ったお財布を取り出して中を見る。
昨日カレンが毟り取ったやんばるトントンのお肉がいつもより大きくて、一人三ゴールドにもなったんだ。
今のボクには一ゴールドなんて余裕で使える財力があるのだ。
思えばとんでもないお金持ちになったものである。セレブと言っていいだろう、いまひとつ意味がよくわかんないけど。
この前までお風呂に行くお金が無くて川に飛び込んでいたんだぞ、ま、まあお金があってもお風呂に行くくらいなら川に飛び込む方がましだけどね。
お金持ちの余裕で颯爽と硬貨を摘むと、ウェイターさんにそれをスっと渡す。
ボクの指が離れない――
少女とウェイターが無言で硬貨の引っ張り合いをしているのを、通行人が不思議そうに見ていた。
一ゴールドを持って離れていくウェイターさんを『あう~』と見送ったボク。
さらば我が青春の一ゴールド!
とは言いつつお金を使うのはやっぱり楽しい! ウキウキしながら周りを見まわす、相変わらず賑やかな町だ。
カレンとの待ち合わせの場所に随分と早く来てしまったみたいで、ちびりちびりと飲みながら待つ事にしたんだ。
勘違いしてもらっては困るのだが、セレブらしく優雅にカフェでお茶しようと思って早く来たのであって、邪魔だからとギルド食堂から猫みたいに摘み出されたわけじゃないんだぞ。ホ、ホントだぞ。
とか考えている間に、ついにお目当てのブツの登場である。
やって来たメロンソーダは、本物のメロン果汁に砂糖を入れソーダで割ったものだった。想像しただけでも甘そう。
こ、こ、これを今からボクが飲むのだ!
口の中に広がる『甘い』を体感する時が来たのだ!
すーはーと深呼吸して、さあいくぞ! と意気込んだところで。
「こんにちは男の娘ちゃん」
不意に声をかけられ危うく飲もうとしたメロンソーダを倒しそうになる。
大惨事になるところだった、これを倒していたら一週間くらい放心している自信があるのだ。
この前、通りを歩いていたら馬にびっくりして貰ったお饅頭を落としてしまい、そのお饅頭を速攻でその馬車に踏み潰された時のボクの動揺ときたら!
絶望して思わず馬車の前に身を投げ出して、『ボクも一緒に轢いてください!』と叫んだものだ。
倒れた弾みでスカートが少しめくれてしまったが、もうそんなのはどうでもよかった。
あの時は何故か幸せそうな満面の笑みになった馬車のオジサンが、ボクにお饅頭を沢山くれて事なきを得たのである。
『ありがとうお嬢ちゃん、これはお礼だよ』
馬車のオジサンは何故かボクにお礼を言っていたようだが、弁償の間違いではないのだろうか。
そんな事を思い出しながら大惨事を引き起こしかけた声の主を見ると、それは目の前に立つボクと同い年くらいの少女である。
「私はミーシアよろしくね、ココいいかしら、あ、トロピカルジュースを一つ下さい」
ミーシアと名乗った女の子がお金を渡すとジュースが早速運ばれてきた。
何だろう、何かの依頼かな。
このボクにまた依頼が飛び込ん……トロピカルジュースもやっぱりおいしそうだな、こっちにしとけばよかったかな。
これも『甘い』んだろうか、いやいやまてまて、ボクはまだメロンソーダも試していないんだ、まずはソーダに全力でかかるべきではないだろうか。
「あなたの事を知って、いつか話しかけてみたかったのよ。座っていい?」
瞬時にボクの認識から消えていた少女が話しかけてきた。
ごめんなさい、あなたの事を無視していたわけではないんです。
「こ……こんにちは。ど、どうぞお座り下さい。あの、ボクに何か御用でしょうか」
テーブルを挟んでボクの対面に着席した女の子は、ふわふわのピンクめいた長い髪で、いかにも女の子女の子したフリルのついた服装だ。
それでも違和感なく着こなしているのは彼女のセンスの良さと、美少女というしか形容できないその容姿だからだろうか。
赤い瞳が真っ直ぐボクを捉えた。
「私あなたとお友達になりたい」
それはもう突然の直球告白に仰天したのは言うまでも無い。メロンソーダを倒さなかったのは奇跡だろう。
どうして大惨事を何度も引き起こそうとするんですかこの人は! 歩く核弾頭ですか!
慌てながら変な返事をしてしまった。
「みのりんです。ふつつかものですが今日からよろしくお願いします……」
「はいよろこんで! 改めましてミーシアよ、歳は十五歳」
同い年の少女二人はテーブルを挟んでペコリと頭をさげる。
友達できる時ってこんなんだっけ。
そりゃあ、カレン以外の女の子の友達なんてできた事なかったから、窮地を助けられてそのまま仲良くのパターンじゃないなら、女の子同士の場合こうなのかも知れない。
何しろ呼吸の仕方すら疑問だった女の子の生態なんて、このボクにわかるはずがないのである。
おっぱいがあったらどうやって呼吸をするのか、という疑問であって、結局はおっぱいを手に入れられなかったボクには解決できていない問題なんだけど。
「どうしてボクとお友達になったんですか?」
こんな質問をするヤツも稀だろう、でも気になるよね。
「だってあなたと私は仲間なんですもの」
彼女はそう言って可愛い笑顔をボクに向けた。
これがボクとミーシアの出会いだったのだ。
次回 「まさかあなたはボクの……!?」
みのりん、ミーシアとヒソヒソ話をする




