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その6 ボクの水浴びとカレンとお風呂


 町に帰るとすぐに解散となり、カレンは持ち帰ったカエルのお肉を売りにお肉屋さんへと走って行った。


 ボクは行かないのかと疑問が湧いたかもしれない、いつもならボクも同行するんだけど、今のボクを見て欲しい。

 カエルにベロンベロンされてぬっちゃぬちゃのねっちょねちょなのだ、これで食べ物屋さんに入ったらさすがに迷惑なんてものじゃないのだ。


 もちろんこのままギルドにも帰れない、併設されたギルド食堂もまた食べ物屋さんなのだから。

 改めて自分をクンクンする。


「うえ」


 恐ろしく生臭い。

 あれから何度も受付のお姉さんに連行された地獄で天国の銭湯には行けない、恐ろしいしそもそもお金が無い。


 そしてここに来た。


 ボクの目の前には川が流れている。

 川の前でねっちゃねちゃの少女が準備運動をする、変な光景だろうが取りあえず見ている人は居ないので安心だ。


 そして一気に飛び込んだ!


 めちゃくちゃ冷たいけど気持ちいい! 全身のヌルヌルが洗い流されていく。


「キャッ! キャハハハハハ! あはは!」


 ボクは川の中ではしゃぎまくった、川遊びをする少女の図だ。

 ただ一つ誤算があった。


「うおおおおお! 今助けるぞおおおおお!」


 ボクが川で溺れていると勘違いしたマヌケが、橋の上から飛び込んできたのだ。


 立って遊べる川なのだ、飛び込んだそいつは川底に突き刺さったかと思った。

 しかし、強靭な肉体を持ったその人物は何事も無かったかのように立ち上がる。


 ボクの前で仁王立ちするそのマヌケが、マンクであるのはいちいち言うまでもないだろう。


 マンクはボクに飛びかかると『うおおおおお』とボクの身体を両手で高々と上げた。

 とったどおおおお! と叫びそうな勢いだ。


「ちょ! 降ろして下さい!」


 マンクはそのまま岸まで上がるとボクを地面に降ろした。

 ただ加減を知らない筋肉馬鹿なので、地面にバーン! である。


 ボクは一瞬にしてグルグル目玉になって意識を失いかける。


「おいみのりんちゃん! 大丈夫かしっかりしろ! なんてこった溺れたせいで呼吸が止まってるのか」


 お前のせいだよ、この筋肉モンクめ。


「待ってろ! 今人工呼吸を! まかせろ! いつも木人形に抱きついて練習してるから!」


 何の練習ですか。


 もの凄く背筋に悪寒がして必死に目を開けると、チュウウウという形の唇のモンスターが迫っている。


「いやあああああ!」


 慌てて木の棒を唇モンスターに突き刺すが効果が無い!


 と思ったら、モンスターは後ろから何者かに蹴り飛ばされて川の中にダイブしていった。

 命の恩人を確認する。


 カレンだった。



「危なかった、みのりんをお風呂に誘おうと思ってたんだけど発見できて良かった、危うく水辺のモンちゃんの餌食になるところだったね」

「ありがと……カレン」


 ボクは涙目でお礼を言った、本当に怖かった。カレンは天使だ。

 マンクを見ると気絶して水面に浮かんで流れていく、あの様子なら自分が何者に蹴られたのか気付いていないのでLv低下も無さそうだ。


「じゃ、一緒にお風呂に行こっかみのりん」


 ボクを助けてくれた救世主の天使が悪魔になった。

 ボクは半泣きになる。おおお、お風呂だと。一難去ってまたピンチだ。


 身体はもう洗ったし、そもそもボクお金持って無いし。


「大丈夫だよみのりん! じゃじゃーん! えっへん」


 必死に断わるボクに、カレンがドヤ顔で見せてきたのは何かのパスポートだろうか。


「お風呂屋さんの年間パスポートを持ってるんだ! このパスポートの凄いところはね、女の子限定で家族や友達五人まで一緒に無料で入れるんだよ」


 どうしてそんなありがた迷惑なサービスを作ったんですかお風呂屋さん。恨みますよ。


「しかも、十日入ったら元が取れちゃうこの安さ! 男性用はこの百倍の値段らしいけどね」


 何でこの町の男子達は文句を言わないのですか、ボッタクリじゃないですか。


「このお風呂屋さんは男湯と女湯の湯船同士がパイプで繋がっててね、女の子が入ったお湯を全身で浴びようとオジサン達に大人気みたいだよ。変な話だよねただのお湯なのに」


 力の抜けるエピソードでぐにゃっとなったボクを、カレンが引っ張ってお風呂屋さんに連れて行く。


 女湯の脱衣場が女の人だらけ! なんだこれは! なんもかんも政治が悪いのか! 何で女湯に女の人しかいないんだ!

 地獄のような天国のような世界に周りを見れず、足元だけを見て歩く。


 足元だけを見るのもまずかった。

 脱衣開始で自分のスカートがストンとボクの足に滑り落ちる。


 その様子を見ただけで冷や汗が出て気絶しそうになった。

 もう見ない! 絶対に何も見ない! 目を硬く閉じ裸になったボクは、鼻歌を歌って上機嫌のカレンに手を引かれて浴場へと入って行った。


「洗いっこしよっかみのりん」


 洗いっこ――だと!?


 そのスペシャルな儀式の名称を聞いただけで気が遠くなる。


 アニメとかで見た女の子同士のアレじゃないか! てっきり都市伝説だと思っていたのに、この世界では現実に存在したのだ!


 いっその事、伝説の『胸大きいね! キャッキャウフフ』もやってみたいものだが、それをやった瞬間にボクは負荷に耐えられずに湯船の藻屑と化すだろう。


「まず私からね」


 カレンが優しくボクの背中を洗ってくれた。


 女の子の柔らかい手がボクの肩に触れている。

 今ボクの全神経は肩に集中してしまっているので、わき腹を刺されても気が付かないかも知れない。


「はい、次は前向いて」

「え? え? 前!? きゃははははくすぐったい!」


「ほらほら動かないで」

「きゃはははははは」


「じゃ次はみのりんの番だよ、まず背中だね」


 はあはあ、笑い殺されるかと思った。カ、カレンの背中を洗えだと、体力持つだろうか。

 仕方なく目を硬く閉じたままカレンの背中を洗う。


「みのりんどこを洗ってるの、それ鏡だよ、私はこっち」


 角度を修正されて思わず目を開けてしまうと、目の前にカレンの背中があった。

 う、う、うすだいだいいろ! 背中がうすだいだいいろ! 昨今は肌色という言葉を使うと怒られそうなのだ。


 当たり前の事に脳が追いついていかない、パンク寸前になりながら必死にカレンの背中を洗った。


 女の子特有の小さな肩と背中だ、いつもボクを守ってくれている背中なのだ、布切れがあるかないかの違いだけなのだ。

 その背中にこんな風にうろたえるなんておかしな話じゃないか、気絶なんかするもんか、カレンに失礼だ。


「次は前だね!」


 カレンはそう言うとクルリと前を向いた。


 プツン――!


 カレンを正面から見た瞬間、ボクはカレンの胸めがけてカクンとなった。


 カレン――プツン――カクンである。



 気がついた時、休憩所でボクはまたカレンに膝枕をされていたのだった。


 今日はこの後、貰った引き換え券でカレンと〝やんばるトントンハンバーグ〟を半分こしようと思う。


 第4話「カエルペロペロ三ペロペロ」、読んで頂いてありがとうございました。

 次回から第5話になります。

 新キャラが登場します! 一体どんな名前の子が登場するのでしょうか。


 次回 第5話 「ボクの新しい仲間ミーシア」

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