その5 ロリっ娘は息も絶え絶え
「大丈夫か!」
「無事か!」
閉じていた目を開けると、向こうからモンクのマンクとサムライが駆けつけてくるのが見える。
死神でも幻覚でもなさそうだ。
筋肉を使った格闘戦に特化した筋肉馬鹿であるモンクの筋肉男と、同じく脳味噌も筋肉でできている筋肉の山とも言える筋肉サムライだ。
あー、筋肉はもうお腹いっぱい。助けに来てくれたんだから我がまま言うのはやめよう。とにかく死神じゃなくてよかったよ。
ただ、何故か二人共に抱きついてきてボクをへし折ろうとするので、あながち死神ではないとは断言はできない。
「な……なんで……ここに……」
かすかに声を上げるボクを見つめる二人は絶句していた。
絶句した二人の表情を見ればわかる、彼らが見た現場は凄惨な有様なのだろう。
息も絶え絶えのロリっ娘が、三匹の巨大カエルにいいようにベロンベロンされているのだ。
歴戦のベテラン刑事も、この事件現場には思わず目を逸らしてしまう事だろう。
でも……二人が来てくれて、これで助かった……
「俺には全然ペロペロさせてくれないのにずるいぞ! みのりんちゃん!」
「はっはっは、みのりん殿はそういうプレイが好みであったか、了承した!」
「あなた達……ホント…………死ねばいいのに……」
笑顔で呟くボク。
映画なんかで最後に助けられたヒロインが『あなた達ってホントいつもそうなんだから』とヤレヤレな感じで微笑むシーンがあるが、ボクの場合は心の底から出た本音である。
助かった、と思った時に作った笑顔を、戻す気力がもう無いだけだ。
このペロペロ攻撃は精神的に参ってしまっていた。
次の瞬間、二人の背後から『ウヲイ』という恐ろしげな咆哮を聞いた。
マンクとサムライの二人は同時に直立不動になる。
助かったと思ったのもつかの間、新型モンスターの登場である。
まあいいさ、新型がボクの希望通り二人を〆てくれるかもしれない。
後ろを振り向き恐怖で微動だにしない二人。
え……そんなにか……やばいヤツ? そんなにやばいヤツならボクの事はいいから逃げて欲しい……
二人は動かない、というより動けないのか。
だめだ二人とも早く逃げて!
やがて二人の後ろからゆっくりと咆哮の主が現われる――
その恐ろしい新型モンスターは――
カレンだった。
「おい、お前ら邪魔だ」
「「はははは、はい!」」
ビクンと身体を引きつらせて、さっと洞窟の両端に別れるのは女の子接触恐怖症のモンクと女子が怖い一族のサムライ。
いつもの笑顔が無く表情が硬いカレンは、一撃必殺の剣技『スパイクトルネード』を手前のカエルに放つと一瞬で真っ二つにした。
洞窟内が狭いので風を上手く操れないのか、三匹同時は無理だったようだ。
二匹のカエルはペロペロをやめると新たな強敵とみなし、カレンに対峙する。
「えいえい」
だが一撃後にポンコツになったカレンは、ロングソードでカエルの鼻面をつつくだけだ。
いつもならここでボクを連れて逃走なんだけど、今日はカレンは逃げない。
逃走する気など微塵も無さそうで真剣な顔でカエルをつついている、ひょっとしてカレン泣いてる?
カレンに襲い掛かるカエル! 彼女の絶体絶命のピンチだ!
このままではカレンが『ベロオオオオオオ』されてしまう! それだけは絶対許せない!
今度は二人の筋肉達の出番なのだ。ゆけ! 筋肉Aと筋肉B!
モンクが側面からカエルを連打で粉砕すると、サムライはカエルを二つに折った。
折れるんだ、カエルって折れるんだ……
ボクが今見た衝撃のシーンにポカンとしていると、何者かに体当たりを食らう。カエルではない、飛びついてきたのはカレン。
「心配した、心配した、本当に心配したんだから! みのりんのバカあ!」
カレンはボクの胸でわーわーと泣き出してしまった。
「カレ……」
しかしボクのセリフはそこまでだ。
カエルペロペロでヒットポイントを削られてはいたものの、まだそれなりに余裕があったのだが、このカレンアタックであえなくカクンとなったのである。
速攻で口の中に回復薬を放り込まれ、息を吹き返したボクにカレンが説明してくれた。
「受付のお姉さんから、様子がおかしい冒険者カップルにみのりんが連れて行かれたと聞いて探してたんだ。逃げ帰ってきた男をとっ捕まえて白状させたよ、みのりんの居場所を言わないのならボコボコにして川に放り込むって言ってね」
そんな尋問を受けたらどんな人間でも白状するでしょうね。
「こいつ、男が怖くてあっさりペラペラ喋った後に、もの凄く怒って川へポイしてた。あの男粉々になるかと……ハイなんでもありません、触らないで下さい!」
横槍を入れたマンクに、がおーと触るフリをして威嚇するカレン。
サムライはちょっと離れた所で、岩陰からこっちをちっちゃく見てる。
この二人の筋肉達がカレンにビビっていた理由がよくわかった。めちゃくちゃブチキレていたみたい。
後でカレンに聞いたけど、あんなに怒ったのは生まれて初めての事だったらしい。
因みにミっちゃんの方は、大慌てでギルドに救援の知らせに飛び込んだようだ。
二人のそれぞれの行動が生死を分けたのである。マーくん死んでないけど。
「みのりんをモンちゃんをおびき寄せるだけのエサにした挙句に、自分達だけ助かろうとするなんて、ホント、サイッテーだよね。ちょっと待っててね、この〝とんねるケロケロ〟のお肉も美味でお肉屋さんに売れるんだよ。すぐ解体しちゃうね~、どの部位がいいかな~」
鼻歌交じりでお肉を分け始めるカレンに、ボクは心の中でつっこみを入れた。
えーとカレンさん、この世界で一番最初にボクでモンスターを釣ったのはあなたですよ。
でもボクを心配して泣いてくれたカレンの涙は宝物だ。
カレンはボクを置き去りにして絶対に逃げたりしない、例え勝てなくても、ボクとモンスターの間に立ってくれるのだ。
彼女はパーティの相棒として、大切な友達としてボクと接してくれているのだから。
「あはは、それにしてもみのりんの格好凄すぎるね」
ボクはカエルにベロンベロンされて、ぐっちょぐちょなのである。
ちょっと自分の匂いを嗅いでみた。
「くっさ!」
「みのりんちゃんが臭いわけがないだろう! ちょっと俺に嗅がせてみろ、お花の匂いしかしないはずだ!」
「うわ、やめて下さい、こっち来ないで下さい」
「みのりんちょっと待っててね~、もうすぐ解体が終わるからね~、そしたら一緒にそこの筋肉モンちゃんを洞窟の奥に封印して帰ろうね~」
洞窟からの帰り、マンクはカエル三体分のお肉を自分から志願して運んだのだった。
次回 「ボクの水浴びとカレンとお風呂」
みのりん、またもやお風呂に連行される




