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その4 カエルペロペロベロンベロン


『ケロケロ』とそいつは鳴いている。


 ボク達三人の前に現れた、熊くらいあるでっかいカエルのモンスター。

 ボクは思わずそのカエルにつっこんだ。


「その図体ならもう少し大きめに鳴いてくれませんか! ちっちゃく可愛く『ケロケロ』とか反則ですよ! やり直しを要求します!」


「すっげー本当に出た、この子がモンスターを惹きつけるって話は本当なんだ」

「私も半分信じてなかったけど、この子をエサにして正解だったねマーくん」

「ん?」


「よし仕留めるぞ! この方式で経験値ガッポガッポいくぞ! この子が呼んで俺たちが倒す、永久コンボのできあがりだ」

「キャハハ、頑張って稼ごうね! マーくん!」


 あーなるほどなるほど、この二人、そういう魂胆だったのですね。

 うん、いいですよ、ボクのスキルを思う存分に使って下さい。


 誰かの役に立つのなら、このスキルを持って転生した意味が少しはあるのかも知れない。

 ついでに経験値のおこぼれもお呼ばれできるし、この世界に何しに来たの? と悲しい質問をされて涙目で返答に困るのだけは無くなったぞ、よし。


 何故か前向きにガッツポーズをしたボクの後ろで、戦闘態勢に入る四人。


 そうそう、四人の皆さんで頑張ってくださいね。後はまかせましたよ。


「ん? 四人……?」


 とりあえず数えてみる。いち、に、さん、し。ボクの後ろに影は四つある。


 一応念のためにもう一回数えてみる。ワン、ツー、スリー、フォー。だめだ、数え方を変えたって四つあるものは四つなのだ。

 ええい、もう一度念には念を入れてだ。アインス、ツヴァイ、ドライ。ああっしまった、それ以上知らない。


 カエル、マーくん、ミっちゃん、カエル。


「ゲロゲロオオオオオオオオ!」


 四つの影の内の二つが鳴きだした。

 ようやくカエルが、モンスターらしい雄たけびを上げたのだ。


「そうそうそれですよ、やればできるんじゃないですか、今度からはちゃんとやる気を出してくださいね」


 左右からの突然の鳴き声の襲撃に、ひっくり返ったマーくんとミっちゃん。


「きゃーどうすんのよマーくん」

「うわーこりゃダメだ、一体ならまだしも三体同時はとても手に追えん!」


 カエルに対して、冷静に鳴き声の件でつっこみを入れている場合ではなかった。

 二人はロングソードを落としたまま慌てて立ち上がると、戦うどころか。


「撤収――!」

 と叫び一目散に逃亡を始めたじゃないか。


「ちょっ、ちょっと待ってください! ボクは!? モンスターに囲まれて動けないんですけど!」

「え? あ、そうか! マーくん! この子助けないと!」


「おおう、って俺達ロングソードを落としたままだ。ダメじゃん! うわああああ」


「ちょっと待ってマーくん! ご、ごめんね、あんたが呼んだんだからあんたが何とかして。これあげるから頑張って! それじゃ! ホントごめんね!」


 ミっちゃんはボクに何かを投げ渡すと、マーくんを呼びながら走り去っていく。彼女の声がどんどん遠くなっていく。

 自分でなんとかしろと言われてボクがなんとかできると思ったら大間違いですよ、考えは改めて頂かないと。


 ミっちゃんが投げて寄こしたものを確認する、何かのカードのようである。


 もしかして魔法スキルのカードかな! 魔法が出せるスクロールみたいなマジックアイテムをくれたのだろうか!


 はやる心を抑えてカードを見る。


 それは〝やんばるトントンハンバーグ〟の引き換え券だった。


「わああああ! なんてこったあああああ」


 ちょー嬉しい! ミっちゃん凄くいい人じゃん! 今日はハンバーグだ!


 さて、と。


 かつてサムライの顔を突いて撃退した事のある、我が守りの剣『木の棒』を構えてカエルと対峙する。

 ハンバーグ引き換え券は嬉しいけど、これでどう頑張れと言うんですかミっちゃん。


 現在のボクは洞窟内で、前も後ろもカエルに完全に囲まれているのである。


 △の中心にボクはいる。魔の三角地帯、絶体絶命バミューダトライアングルである。


 ケロケロと可愛い声で鳴く見た目は可愛い緑色のカエル、ただ大きさが可愛くない。


「女の子の前でファンシーさをアピールするのなら、もう少し大きさというものに気をつけて頂かないとですね。1/144や1/35とまでは言わないけどせめて1/16くらいにはしてもらわないと、今のスケールで出てこられてもこちらが困るでしょう」


 カエル相手に説教を始めたボク。

 例え相手がモンスターだろうと、つっこむべきところはつっこまないといけないのだ。甘やかしてはダメなのである。


 ところで、やっぱりこいつら〝やんばるトントン〟よりは強いんだろうな……


 あの丸い子ブタ型モンスターの〝やんばるトントン〟はあれでこの辺りでは最弱らしいので、このカエルはそれより強いはずだ。


 鼻息が無いだけマシかも……


 と、思った瞬間『ベロオオオオオオ』とお尻から背中を舐められた。


「うひゃあああああっん」


 びっくりしてめちゃくちゃ変な声出た。

 犯人は後ろに回り込んだカエルだ!


「おいお前、後ろからなんて卑怯だぞ! お前だよ!」


 表情が無いので何を考えているのかサッパリだ。


 説教してたら今度は正面を太ももから顔に向けて『ベロオオオオオオ』といかれた。


「味見してんの? ねえキミたち味見してんの?」


 さすがに半泣きになりながらカエルを問い詰める。


 更に今度は横から『ベロオオオオオオ』だ。


「あひゃひゃひゃ、脇はダメって反則反則! 両脇同時はアウトって! 足はもっとダメ! 足は許してくだひゃい!」


 完全にパニックだ。


 普段から森でやんばるトントンに手も足も出ないボクは、当然それより強いカエルにされるがままだ。


 三本の舌で同時にベロンベロンされまくって、自分でも聞いた事もないような叫び声を上げてしまった。

 自分が出したその声にもう顔真っ赤である。


 どうしよう、逆に舐め返すか。ペロペロ、舌が届かない。


「もうダメひゃん……」


 立ってる事もできなくなって、その場にへなへなと舞い落ちる木の葉のようにへたり込んでしまう。



 ベロンベロンされながら、どのくらい経っただろうか……


「みのりんちゃん!」

「みのりん殿!」


 聞き覚えのあるような、あまり聞きたくないような声がダブルでするようだ。これは夢か現か幻聴か。

 さては死神がお迎えにきたな。


 どうせならこんな筋肉モリモリを連想する野太い声じゃなく、可愛い声の死神のお迎えが良かったなあ。


 筋肉モリモリはさすがにもうお腹いっぱいなのである。


 チェンジでお願いします。


 次回 「ロリっ娘は息も絶え絶え」


 みのりん、新型モンスターに出会う

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