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その2 募集を見てカップルが来た


 応募者を待ったままお昼になってしまった、誰も来やしない。

 もしや冒険者は絶滅してみんな死んじゃったんじゃないだろうか。


 何度かニアミスはあったのだ。


 オジサン冒険者が剥がれかかったボクの紙を直そうと腕を伸ばして肩をビキっとやったり、床に落ちたのをお年寄りが拾ってくれようとして腰をギクってやったり、クシャミをした酔っ払いが鼻水を拭いたり。


 木の棒を鼻の穴に突っ込んで、鼻水を止めてあげればよかった。


 どれももう一歩のところまでいっているのだが、いまひとつ決定打には繋がらなかったようだ。実に惜しい事である。


 ボクは奥のテーブルで、朝運ばれてきた水をチビリチビリとやりながら過ごしている。

 この一杯の水で乗り切るのだ。この水が生命線なのである。


 食堂からしたら邪魔もいいところだろう。

 しかし待って欲しい、食堂の奥の一番端に置かれたこのテーブルは、別名〝みのりんハウス〟と呼ばれていて、今やボクの領域なのだ。


 テーブルの下にはスタッフがくれたダンボール箱がある。犬猫扱いか! と最初は思ったけど、イザ寝てみるとこれが実に居心地がいい。

 現在のボクは快適なベッドを手に入れて、貴族のような生活を謳歌しているのだ。


 さすがに混んで来た時は、遊んでらっしゃいと容赦なく外に摘み出されるんだけど、それが無いという事はまだ頑張ってていいはず。


 今日は食事やお酒を飲みに来る冒険者の数が、混んでいる時より少ないので助かっているのだ。

 なのでもう少しこの〝みのりん争奪戦ゲーム〟を楽しんでいられるはずだ、問題はプレイヤーがいない事だが。


〝みのりん争奪戦ゲーム〟が〝青髪危機一髪ゲーム〟になってしまう危険もあった。


 ところでもうお昼なんだよね、水だけではちょっとお腹が空いてきたな。


 食事に来る冒険者が少ないという事は、ボクに奢ってくれる冒険者も少ないという事で、ボクはある意味で助かったんだけど、ある意味では助かっていないとも言える状態だ。


 食堂が空いているというのは諸刃の剣なのだ、ギルド食堂が空くとボクのお腹も空く。

 世の中上手くできている。


 世の摂理に感心していると、厨房の入り口からボクに手招きしているのはコックのシゲさんだ。


 速攻でシゲさんの所に急行、シゲさんはパンとハムが乗ったお皿を、皆に見えないようにそっと床に置いてくれた。


 ボクがお皿に飛びついて食べだす。

『はやく食べちまいな』とシゲさんがボクの頭を撫でる、『ワン』


 いやいやいやいや、さすがに『ワン』は言ってないよ。

 ……言ってないよね? ふ、不安になるんだけど。


 ギルド食堂のコックのシゲさんは初老のオジサンで、たまにこうやってボクにエサ、じゃなかったご飯を奢ってくれる。

 ボクの栄養は、半分くらいシゲさんに拠るところが大きい。


 こんな状態なので、早くお金を稼いで自立するのが急務なのだ。

 その内本当に、お手と言われたら手を出してしまいそうで怖いのである。


 シゲさんにお礼を言うとテーブルに戻り座り直す。エネルギーは補給した、充電完了、満タンである。さあいつでもクエスト可能だぞ皆さん!


 ボクが美少女すぎて臆する気持ちもわかる。ボクですら自分にキョドってしまうのだから赤の他人なら尚更のはず。


 しかしここは勇気を出して欲しい。

 冒険者なら困難に立ち向かうべきなのだ。


 カレンの負担を減らし、ボクの人としての尊厳を守る為、誰か来るべきなのだ。

 誰か来い、来て下さい。


 誰か来てよ~。


 テーブルに突っ伏し木目を涙で濡らした頃、男女二人がやってきた。


「募集の張り紙を見たんだけど、あんたがみのりんかい」


 声をかけてきたのは、いかにも冒険者やってますという風情の若い男の人である。


 浅黒い肌に短髪で田舎の兄ちゃんといった顔、レザーアーマーにショートシールド、腰にはロングソードを下げている。カレンのロングソードよりは安物臭い。


 女の人は、胸部だけの丸くカタチ作られた金属の鎧が銀色にキラリと光り、その上からペンダントを下げている。

 その中はCカップか、いやDカップか。


 鎧の上から少しだけ見えている谷間だけではわかりにくいけど、そんな胸をしている。

 この胸の感じは……二一歳かな。

 女の人が胸を隠した。


「俺達と組まないか」


 冒険者から発せられる待ってましたというその言葉。

 組まないかと聞いたその男の人は、連れの女の人と腕を組んでいる。ははーんさてはカップルだな。


「いよいよボクの出番がきたようですね、あなた方にひとつ質問があるのですが」


『なんだい、何でも聞いてみな』と男の人が答えるので遠慮なく聞く。


「カップルですか? 付き合ってます? 恋人同士ですよね? 彼女一筋ですよね? ボクが魅力的な美少女だからと言って迫られたら困りますからね、安心安全ですよね? ところで付き合ってから何年目ですか? どっちから告白したんですか? デートはどこに行ったりします? デートの予算は?」


「お……おう」


 少女の警戒してんだか色恋沙汰に興味深々なんだか、よくわからない質問に相手はちょっとひいたようだ。

 ボクもこんなどうでもいい事を、と思いながらも質問が止まらなかった。何故だか知りたい、目がキラキラである。


「また改めて」

「違うんです、今まで酷い目に遭って心が折れかけていたんです。待って行かないで、五時間待ったんですううう」


 足にしがみついてなんとか仲間に入れてもらう事に成功。

 ボクが抱きついてきたのでニヤケ顔になった彼の鼻を、恋人の彼女が思いっきりつねった。


「よ、よし、じゃあ早速行こうか」


 気を取り直していよいよギルド食堂から冒険に出発である。鼻が曲がったままですけど大丈夫ですかね。


「はい、よろしくお願いします。では行きましょう!」

「こちらこそよろしくね~」


 その時顔を見合わせて笑った二人に、背を向けていたボクは気がつかなかった。


 後で聞いた話だと、受け付けのお姉さんは(いぶか)しげにそれを見ていたようだ。


 次回 「洞窟を探検しよう!」


 みのりん、新マップに足を踏み入れる

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