その1 パーティメンバー募集した!
「パーティを組みたいんですか?」
朝、起こしに来たお姉さんが不思議そうにボクに問う。
先ほどボクがパーティを組みたいんだけど、どうしたらいいのかを尋ねた所だ。
まだ誰も出勤していない冒険者ギルドで、お姉さんと二人きりで話している。
お姉さんの顔、の下のおっぱいに話している。
「毎日カレンさんと組んでるんじゃないんですか?」
カレンとのパーティはとても大事だ。
恥ずかしくて胸ばかり見ているボクの視線は別として、カレンのポカポカした笑顔をいつまでも向けられていたい。
でもこのままカレンに甘えてはいられないんだ、せめてもう少し強くなって相棒の負担を減らさないといけないと思っているのだ。
今のボクは完全に彼女に〝おんぶにだっこ〟状態なのだから。
あくまでも比喩だ。本当にカレンにおんぶだのだっこだのされたら、笑顔で昇天間違いなしなのは言うまでもない。
現在のボク達パーティの総合戦闘力=カレンの戦闘力、パーティの総合防御力=カレンの防御力なのである。
ボクはというと、プラスどころかもしかしたらマイナスに働いているかもしれないのだ、というより完全にマイナスのはずだ。
「みのりんさんはわざわざ自分でパーティを主催しなくても、引く手あまただと思うんですが」
「ボク……を必要としていて……ボクを必要としていない人達と組みた……い……」
自分の要望を精一杯伝える、ボクが必要であり必要でない、これじゃ言っている意味が自分でもよくわからないと思うが今はこれで精一杯。
「つまり普通の人って事ですね」
このお姉さんは本当に物分りがいい。
「そうですねえ、Lvマイナス1の冒険者と組みたがる人なんて、変人以外ではそうそういないと思うんですけれど、困りましたね。カレンさんは別ですよ、あの子はとてもいい子ですから」
しれっとボクを必要としてる人達をディスってきましたよこのお姉さん。
でもディスられて当然、カレン以外は変なのしかいないもの。
モンクは当然そうだし、先日のサムライとか一体なんですかあの人。
「ごめんなさい、あの方はちゃんと叱っておきましたから」
あの日ギルドに連行されたサムライは、受付のお姉さんにこっぴどく〝笑顔で〟怒られたという、目撃者の受付助手のお姉さん談だ。
あのサムライが泣いたというのは本当なのか。
「みのりんさんがモンスターを魅了するというスキルを持っている事を、すっかり忘れていました」
サムライ、あなたモンスター扱いされてますよ……
モンスターを折るヤツがモンスターじゃなかったら、何なんだという話ではあるが。
というわけで、ギルドの掲示板にメンバー募集の紙を貼らせて貰う事になった。
交渉が成立したので顔を洗いに洗面所へ飛び込む、今日のラクガキはおでこにお花だ。オバケのやつめ、いつか泣かせてやる。
ギルドが営業開始するとぞろぞろと冒険者達がやってくるが、彼らの殆どはまず掲示板に目を通す。
朝からお酒を飲みだす酔っ払いは置いといて、掲示板に目を通す中でこちらに興味を抱く冒険者がいる事に期待するのだ。
〝メンバー&入れてくれるパーティ募集。後方で応援、回復薬の口への放り込み役、話し相手、なんでもやります、当方戦闘では全く役に立ちません〟
誰か来たら奇跡である。
ギルド食堂の奥のテーブルで待機していると、ウェイトレスさんがやってきた。
質素だが可愛い給仕服の彼女は、この食堂でも人気者の看板娘だ。
ボクと彼女はもうすっかり顔馴染みであり、会話もとてもスムーズにできる間柄になっている。
もしかしたらもう友達くらいの関係まで行っているかもしれない。
「みのりん、ご注文は?」
「ひいい。あわわわ、ちょっと……待っ……て」
ウェイトレスさんに声をかけられて、ビクビクオロオロと目が泳ぎながら答える、毎朝の緊張の一瞬だ。
この食堂の一番安い料理はサンドイッチ四ゴールド、飲み物類はお酒しかない。
最高級品は〝のっぱらモーモーステーキ〟で二十ゴールドもする。これはきっと貴族や王族が食するメニューなんだと思う。
もぞもぞと懐からお金を取り出す、二ゴールドしかない。
ここは常連らしく『いつもの』を頼むしかないだろう。
「み……ず」
「はいはーい」
注文を受けたウェイトレスさんが、後ろに束ねた三つ編みを揺らしながら離れて行った。
さあ朝の試練は乗り越えた、後は冒険者が来るのを待つだけだ。
ギルドに入ってきた冒険者達が掲示板に集まっている。
どのパーティもボクの張り紙はスルーのようだ。当たり前だけどね。
一人の男の冒険者がボクの張り紙を見つめている。
さあ来てください! ボクはここにいますよ!
だがその男は隣の紙を取って受付に行ってしまった。
隣の紙は確か〝来たれ肉体、男同士で語り合おう・筋肉クラブ〟とか書いてあった気がするけど、まあどうでもいいか。
次に現れたのは三人組の女性パーティだ。彼女達はとんでもない事に、ボクの張り紙に手を伸ばし取ってしまったじゃないか。
ま、まずい、女の人はだめだ。それ取っちゃらめええええ!
彼女達は一旦取ったボクの紙を、皆で相談し直してまた掲示板に貼った。
あ、危なかった……こんな所で〝青髪危機一髪ゲーム〟をプレイする事になるとは思わなかったよ。
その次はピンク髪の女の子がボクの張り紙を見つけ、ボクをじーっと見てそのままギルドから出て行った。
綺麗な子だったが、ヒヤヒヤものである。
女の子の危機はそのくらいで、後は数人のオジサン冒険者がたまに見るだけ。
中々人はやって来ないものだ、これは長期戦になりそうだ。
ホント、皆シャイなんだから。
次回 「募集を見てカップルが来た」
みのりん、新しいパーティ成立か




