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その7 お姫様だっこから脱出せよ!


 現在ボクはお姫様だっこで運ばれている。


 これ以上乙女になりたくないボクは、なんとか降ろしてもらおうとサムライに話しかけた。

 必死である。


「もう森は抜けました、ここからは自分で歩けますから降ろしてください」

「うむ」


 町が見えてきた。

 いよいよ人目が気になってくる状況だ。


「あ、町が見えてきました、ありがとうございます、助かりました。降ろしてください」

「うむ」


 門をくぐって町に入った。

 もう降ろしてもらわないとさすがにまずい。人が沢山集まってきた。


「町に入りました、ありがとうございます、助かりました。もう安全ですから降ろしてください」

「うむ」


 この男に話が通じない、どうしたものか。

 サムライ語で『降ろしてください』とはどう言えばいいのか。


「それがしを降ろして(たてまつ)(そうろう)

「うむ」


 ダメだったか、ボクをお姫様扱いしているのなら。


「わらわを降ろしてたもれ」

「うむ」


 これもダメか。


「あの……さすがにもう恥ずかしいというか……降ろして欲しいんですけど……」

「うむ」


 とうとうボクは涙目になった。


 町の中に入ると一気に賑やかになり、町の住民たちがじろじろと見ている。


 ヒューヒュー、ヒューヒュー中学生ですかこの人達は。

 暇人の娯楽にされてはたまらないから、あなた達は向こうに行ってください。


 何故か町の人達がボクの足の方に集まってるんですけど、特にオジサン達が顔を赤くして幸せそうな笑顔で、乙女?

 もしかしてこのオジサン達、お姫様だっこを見て乙女の心が芽生えちゃったんですか?


 全く……足とか見られるのすっごい恥ずかしいんですけど……スカートはスースーするし……

 と、スカートを直そうとして愕然となった。


 これってもしかして、スカートの中見えちゃって……ませんか……


「はうわわ!」


 慌ててスカートを押さえる。

 ボクの顔が真っ赤になった、せっかくMAXに達したボクのヒットポイントがシューっと下がり始める。


 たかがパンツを見られたかも知れないと思うだけで、この恥ずかしさはなんなんだ。

 ああ、だめだ。パンツという単語はダメだ、降下速度が速まった。パン的なものだ。


「お……おろひてくだひゃい……」

「うむ、しっかりつかまっておれ、みのりん殿」

「ハイ……」


 ぎゅっとサムライの胸にしがみ付く、なんだこれ。

 たくましい男の胸でモジモジするこんな状況は、もう死にたいと思うしかない。


 ボクにとってはもはや拷問の域に達しているのではないだろうか。

 もしかしてこいつ暗殺者か。


 なんとか頑張って盛大に暴れてみるしかないか。抱かれた猫やカツオが暴れて腕からすり抜ける、というあの技だ。


 お・ろ・せ! お・ろ・せ!

 うん、頑張ってみた。諦めた。


 ガッチリと固められたサムライの腕は、動かす事すら不可能だった。

 自分では力の限り暴れているのだが、巨大な万力に挟まれている、そよ風になびくティッシュのような気分になってきたからだ。


「みのりん殿、腹は減っておらんか、休憩するか? ちょうどこの辺りによい休憩処(きゅうけいどころ)があるのでな」

「ご飯!? おごり!?」


 貧窮(ひんきゅう)していると、ご飯の二文字にめちゃくちゃ弱くなる。


 違うぞ、勘違いしてもらっては困るぞ、これはあくまでもご飯の名目でお姫様だっこから逃れる為であって、決してご飯にホイホイ釣られたわけでないのだ。

 いくらなんでもそんなにチョロくはない、はずだ。


 ご・は・ん! ご・は・ん!

「はっはっは、そう()くなみのりん殿。まかせておけ、たっぷり栄養を付けて立派な子を授けてくれなくては困るからな」


 何かおかしな事を言っているようだが、ご飯の前にはもはやどうでも良い事だ。

 今日はこのサムライから実に酷い目に遭わされたので、遠慮なくたからせて頂くとしよう。


 絶品のやんばるトントンハンバーグは外せないとして、ステーキに生姜焼き、デザートにはプリンで〆る。

 お土産にお寿司の折り詰めを……レジ横のオモチャも……


 ずうずうしい事を遠慮なく考えていると。


『休憩宿屋、一時間百ゴールド』

 サムライはなんだか怪しげな看板が置いてある、怪しげな宿の前で立ち止まった。


「たーっ」


 我が聖剣『木の棒』をサムライの顔面に突き刺した。



****



「ふうん、私より一つ年下なのに求婚されちゃうなんて、みのりんさすがだよ。私なんてそんなの一度も無いよ」


 次の日の強盗団の帰り道、町までの草原をお肉を入れた袋をぶら下げながらそう言ったのはカレンだ。

 カレンに求婚なんてボクが許しませんよ。そんなヤツは『木の棒』の餌食です。


 あの後、受付のお姉さんが偶然通りかかり、鼻に『木の棒』が刺さったままのサムライを連行していった。

『木の棒』はその日の夜にお姉さんの手により無事返却、ご丁寧にリボンがされていたが。


「でもちょっと妬けちゃうよね、だって私はみのりんとずっと一緒にいたいから、なんならみのりんと結婚しちゃいたいくらいだよ! なんちゃって」


 イタズラっぽく言ったカレンの可愛い笑顔を、ボクはマトモには見られなかった。

 何故なら、草原に突っ伏してぶっ倒れていたからだ。


 い、今のは効いた……なかなか強烈な一撃をかましてくれるじゃないですかカレンさん……

 でもこのまま昇天してもいいかも……しあわせ。


「みのりん大丈夫!? ああ顔が真っ赤! 熱でもあるの!? 鼻血まで出てる大変! 回復薬とハンカチ! 何で幸せそうな笑顔なの? 頭を打ったの? みのりんしっかりして!」


 慌てたカレンに抱き締められたボクは、そのままカクンとなった。


 第3話「その男……山のような筋肉サムライ」、読んで頂いてありがとうございました。


 次回から第4話になります。

 新モンスターが登場します、果たしてどのような形状のモンスターが登場するのでしょうか。


 次回 第4話 「カエルペロペロ三ペロペロ」

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