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その6 乙女な気持ちに侵食される~


 サムライに迫られていたボクは、モンスターの鼻息でその危機から脱出した。


 普通は主人公の危機で、ヒーローないしヒロインに助けられるというのが定番なんだろうけど、モンスターに襲われる事でピンチを脱するとは、我ながら情けない。


 もっと情けないのは、吹き飛ばされて木に叩きつけられ瀕死の状態な事だった。

 これって助かったような、助かっていないような……どっちだ。


 今の状態なら、普通のアリに噛まれても死ねる自信があるのだ。

 おいこらそこのアリ、ちょっと待て、こっち来んな。


 やんばるトントンとサムライは絶妙な間合いで対峙している。

 やるかやられるか、二体の怪物が戦おうとしているのだ。まるで怪獣大戦争でも始まるみたいだ。


 カレン以外の冒険者の戦闘は初めて見るのでボクも息をのむ。


「おのれ――! ワシの大切な嫁を! かすり傷でも付いてたら許さんぞこの物の怪が!」

 誰が嫁ですか!


 かすり傷どころか瀕死の状態ですよ。


 ほら見てください、『あうー』と開けた口から涎が垂れ放題ですから。

 その涎を吸おうと蝶が一匹降りてきちゃってますから、花の蜜ではないのであっちに行って下さい。


 サムライが腰を落とした、いよいよその腰にある大太刀の出番だろうか。

 とりあえず巻き込まれてボクも真っ二つにならないように、ここでジットしていようと思う。


 尤も動きたくても動けないので、アリその他に噛まれないように祈りながらここでじっとしているしかないのだが。


 アリがどんどん進んでくる。

 サムライとモンスターとの緊迫した戦いの影で、ボクもアリとの緊迫した状態になっているのだ。


 モンスターがサムライに突撃した!

 アリがボクの顔に到達しようとしている!


 ズドオオオオン!


 刀を振った衝撃音ではない、筋肉と筋肉がぶつかり愛をした音である。

 今の衝撃でアリが飛んで行ってくれたので助かった。


 求愛を邪魔され激高したサムライは、そのままやんばるトントンに抱きつくと恐ろしい力で二つに折ってしまった。

 それは一瞬の出来事。


 折れるんだ、やんばるトントンて折れるんだ……


 たった今見た理解不能な光景にあんぐりと口を開け、真っ青になるボク。

 ああ、口は最初から開いていたっけ。蝶は二匹に増えていた。


 さっき、あんなものに抱きしめられようとしていたのか……正に危機一髪じゃないか。

 あのままだったら間違いなく〝みのりんせんべい〟になっていたところだ。


 助けてくれたやんばるトントン、二つに折られたやんばるトントン。今夜は供養も兼ねてハンバーグを食べてあげるからね。


『ぐう』とお腹が鳴る。


『みのりんせんべい』に『ハンバーグ』と、立て続けに食べ物を連想したのだからこれは仕方無いだろう。


 ズシーンズシーン。


 サムライがまるで怪物のようにこちらに近づいてきた。


 いや怪物のように、ではなくやんばるトントンを素手で折った怪物だ。間違いなくヤツはモンスターだ。

 今現在瀕死で動けないボクは、危機一髪からは全く脱してはいなかったようである。


〝筋肉モンスター〟の次は〝アリ〟そして〝筋肉モンスター〟と連続でピンチに陥っているのだ。

 次から次へと強敵続きである。

 さすがに森は恐ろしい所だった。


「もうだめ……」


 木に叩きつけられた影響もあってそのまま意識が薄れていった……


 ズシーンズシーン。


 なんだか身体がふわふわと揺られている感覚で目が覚めた。


 ここ、どこ? ボクは誰。

 ボクの上にサムライの顔がある。あなたは怪物?


「おう、目覚めたか。すまんのう……ワシは回復薬を持っておらんでな、おぬしの自然回復を待ちながら町まで運んでおる。待ちだけに町、はっはっは愉快愉快」


 酷いオヤジギャグを聞いたような気がする。

 そうか……これは運ばれている揺れなんだ、とボンヤリしていた頭がハッキリしてきて、自分の状態を確認した。


 お姫様だっこ!


 サムライがあろうことか、ボクをお姫様だっこして運んでいたのだ。


「あわわわわ」


 みるみる顔が赤くなるのがわかる。

 ダメだこれは、お姫様だっこはダメだ。


「降ろしてください」


 さすがにこれは恥ずかしい。背負うか脇にかかえる、ではだめだったのか。

 サムライなら、片手でぶら下げるというのも可能だったはずだ。


「いやいや、まだ回復しとらんだろう」

「もう回復してますから」


 実際ヒットポイントの数値が低いボクは、この短時間でも瀕死の状態からMAXに達しようとしていたのである、情けない事に。


「そうは行かん、今回の件はワシの不手際でワシの責任だ、みのりん殿は黙って運ばれるがよい」


 責任感の強い人なのかなあ。

 こっそり見上げると、颯爽と前を向いて歩く横顔があった。こうやって寡黙でいれば頼りがいのありそうなたくましいサムライなのだ。


 サムライも緊張しているのか、ボクを抱く腕がガッチガチでまるでロボットに運ばれている気分になってくる。

 ここは大人しく運ばれるか……森の中じゃ誰も見ていないからいいだろう。


 木の上のリスと目が合った。

 リ、リスなんかに見られたって別にいいもん!


 とか言ってるうちに草原に出た。


 なんというか、お姫様だっこで運ばれるというのは、なにやら脳からいろんなものが出てきそうで、速やかに脱出したいんだけどサムライにそっと抱きついてしまっている。


 全てを預けてしまいそうな、天にも昇ってしまいそうなこのドキドキ感は何だ。


 なに~~これ~~。


 こ、これはまずいぞ、早く降ろしてもらわないと、心地よい乙女な気分に侵食されてしまう。


 まさかこの世界にはお姫様だっこという精神攻撃法があったとは、新しい発見である。


 とにかく、今すぐ乙女な気分をボクの心の中からつまみ出して、ゴミ箱に捨てなければいけない。


 緊急事態である!


 次回 「お姫様だっこから脱出せよ!」


 みのりん、必死である

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