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その5 ボクをお嫁さんに下さい、は?


 サムライとボクは森の中にいる。


「我が一族は生まれてくるのは男ばかり、女子(おなご)が怖くて仕方の無い家系でな、物の怪よりも恐ろしい。これは女の子コミュ障とかいうやつと聞いたな、そのせいかは知らぬが親父殿も祖父も男色家という有様だ。ワシにもその流れが来とるのか女子に慣れん、困ったものよのう」


 いきなり長々と何をカミングアウトしてますか、あなた。


 サムライは羽織の裾に腕を入れて組み、唐突に語りだした。その姿はかっこよくてもの凄く絵になるんだけど、言ってる内容がこれではちょっと。


「戦場から戦場へと渡り歩いておる一族のせいか、女子との接触など殆ど無いのでな、娘子(むすめご)というものの扱いがわからぬ。わからぬ故に怖い、何をどうすればよいのか皆目見当もつかんでな」


 そういう割にはボクとは普通に話してますけど、一応その娘子ですよボク。


 ちょっと動作が硬いのはそのせいなのかも知れないけど、こんなので女の子コミュ障とか片腹痛い、ホンモノの実力を見せてあげましょうか。

 今あなたの目の前にいるのはその筋のプロなんですよ。


「その点戦場では楽だ、相手を殺すか殺されるか、男しかいないのは実に気楽で良い、戦が起こるのを今か今かと待っておる」


 その辺りは何となくわかりますよ。ボクも女の子と会わない夏休みで、心の平穏を保とうとしてましたからね。


「男同士は良いぞ、黙して語らず、筋肉同士で語り合うのだ。時には殺し合い時には友情を深め合う、戦場では常に筋肉と筋肉のぶつかり合いだ。ワシはもういっその事、『ぶつかり愛』『語り愛』『殺し愛』を正しい書き方にした方がいいのではないのかと常日頃思っておるのだ、そうは思わんかみのりん殿」


 黙して語らずどころか急に饒舌(じょうぜつ)になったサムライ、その漢字は変な誤解を受けるのでこれ以上使うのはやめて頂けませんか。


「男ではない娘子のみのりん殿に、こんな話を聞かせて申し訳なかったな。恐ろしい女子を避けて、今まで通り戦場を渡り歩いておれば良いだけなのはわかっておる」


 だがな、とサムライはため息をついた。


「だがそれでは一族の子孫が絶えてしまうでのう」

「どうしてるんですか?」

 つい聞いてしまう。


「ん? 興味がおありかな? 我が一族に興味がおありかな?」

「すみません、どうでもいいです、忘れてください」


 ボクの塩対応も意に介さず、サムライは続けた。


「子を儲ける為に仕方なく女子を輿入(こしい)れさせるのだ。鬼と戦う覚悟だな、子孫繁栄の為には毒をも食らうというのが我が一族の家訓でな。そしてすぐに戦場に逃げるのよ」


 うっわー最低の一族だ。


「女性はどうなるのです?」

 そこはちょっと気になった。


「そりゃもちろん愛する――」

 ――良かった、ちゃんと愛してるんだ――


「――愛する息子を生んだ女として生活費を送っておるな、まあどこぞに行きたいと申せばその限りではないようで、我が母上も親父殿に愛想を尽かしてどこに行ったかわからぬ、はっはっはっは」


 やっぱり最低の一族だ、滅んでしまえ。


「親父殿は慣れてしまえば、〝おなご〟もまた珍味じゃとぬかしよるがな。ワシはどーも珍味は好かんでのう、アレルギーが原因かも知れん。かにみそとか食すると

身体中が痒くなってたまらん、甲殻類アレルギーとか言うのかあれは」

「何の話ですか」


 もうどうでもいいです聞きたくないです。この辺でお開きにしましょう。一本締めですよ。


「だがな、ワシはそれではこの新しい世にそぐわないと思うておってな、自力で愛する嫁を見つけたいのだ、心の底から嫁を愛でたいのだ。だが女子は怖い」

「はあ」


 急にマトモな事を言い出したサムライに、この先の展開が読めそうで怖い。


「そこでだ、みのりん殿に折り入っての頼み事というのは、その点なのだがな」


 サムライがボクの顔を見る。見下ろすのは失礼だと思ったのか片足をついた。


「ワシの子を産んでくれんか」

「たーっ」


 あまりの直球に思わず唯一の武器『木の棒』をサムライの顔面に突き刺してしまった。


「はっはっは、いたずらっ娘だのーみのりん殿は、うむ、嫌いではないぞ」


 木の棒はサムライの鼻の穴に刺さったが、ダメージは皆無のようだ、全くといっていいほど効いていない。


「な、何でボクなんですか、女の子が怖いという割にはボクと普通に話してますよね、この調子でお嫁さんを探せばいいだけじゃないですか」


 サムライは鼻から木の棒を引き抜くと捨てようとして、『あう』と小さな声を上げたボクに気付きそれを返してくれた。


「みのりん殿は男の娘種族と聞いた。なにしろ頭に〝男〟とついてるのがいい、だからこんなに気楽に話せる女子なんて今までにおらなんだわ。ワシの嫁になってもらうには、みのりん殿しかいないと運命を感じたのだ」


 そんなどうでもいいところに運命を感じないで頂きたい。


「ちょっとお聞きしますが、もしかしたらですよ、もしかしたら『岩男』とか『男沢』とか男が入った苗字の女性でも良かったりしませんか」


 サムライの目が険しくなる、さすがにバカにするなという事かも知れない、言い過ぎたかな。


「うむ、その発想はなかった、雷が落ちたような気分だ。目から鱗が落ちるとはこの事、みのりん殿は聡慧(そうけい)であるな感服いたした。ただの娘子だと思っておったがすまぬ事をした。年端(としは)()かぬそなたに啓発(けいはつ)されるとは、恐れ入ると同時にますますみのりん殿が気に入った」


 うん、わかった、この人脳味噌も筋肉でできてるアレだ、脳筋さんだ。モンクと同じ生き物だ。


「ワシの嫁はもうみのりん殿しかおらぬ、みのりん殿なら利発な子を授けてくれそうだ」

「もう帰っていいですか」


「頼む! 大事にする! 報酬は我が一族でどうだ、我が一族の姫とならんか」


 サムライがせまる。


「嫌です、そんな一族全くいりませんし姫ってなんですか」

「うむ、抱きしめてよいかな姫! 我が力の限り!」


「どうしてそこで『うむ』なんですか、ボクは嫌ですと言ったんですよ、それに姫ってなんですか」

「うむ」


 誰か助けてええ! と思った瞬間には鼻息で吹き飛ばされていた。

 もちろんサムライの鼻息ではない。


 ボクの身体を軽く吹き飛ばす鼻息の持ち主といえば……

 まあこの武士の鼻息でも飛ばされかねないのが、ボクの痛いところではある。


 でっかい熊くらいある丸い子豚型モンスター、やんばるトントンが現れた!


 救世主が現れたのだ! モンスターだけど。


 次回 「乙女な気持ちに侵食される~」


 みのりん、怪獣大戦争に巻き込まれそうになる

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