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その4 サムライと討伐へ どうしてこうなった


 というわけでボクは森の中にいる。

 どうしてこうなった――


 森の中をてくてく歩きながら途方にくれる。


 情けない事に一人ではモンスターを倒すのは百パーセント無理で、パーティメンバーが倒してくれた分の経験値のおこぼれを貰うしかないのがボクなのだ。


 今回町の外に出て森までやって来たのはいいが、サムライとはパーティを組まなかったのでボクがここにいても意味がない。

 しかし、この娘は今日森に行きたかったのかという、このサムライの好意を無碍(むげ)にもできず、流されるように森に入ってしまった。


 今日は森の中が怖い。普段パーティを組んでくれている太陽みたいなカレンの笑顔が、ボクにどれだけの安心感を与えていたのかを改めて思い知らされる。 


 笑顔を向けられてキョドった先で、優しく出迎えてくれるカレンの胸。彼女の癒し効果は最高なのだ。

 サムライの筋肉もりもりの胸は優しく迎えてもくれないし、癒し効果もほぼ無い。岩でも見てる気分になる。


「あの、森にはよく来られるんですか?」

「うむ」


「今日はあんまり奥には入らない方がいいと思います、ボクは新米冒険者なので役に立ちませんから」

「うむ」


 あんまり喋らない人だなあ……

 黙々と前を歩く山のようなサムライを見る。


 このたくましい背中は、後ろから金属バットで殴ったくらいではビクともしないだろうし、なんならバズーカ砲で撃っても大丈夫なんじゃないかとも思うほどに威圧される大きさだ。ボクが小さいんだけど。


 そして背中の大きさもさる事ながら、ボクが目を見張るのは腰から下げた刀だ。


 刀剣に詳しくないからよくわからないけど、これは大太刀(おおたち)と言うものだろう、普通の日本刀の倍くらいの長さがありそうだ。

 この大男がこの太刀(たち)を振るったら、どのような凄まじい戦闘になるのか想像もつかない。 


 近くにいたらボクもついでに真っ二つになりそうなので、モンスターが出てきたら離れるか地面に伏せるかした方が良さそうだぞ……


 と拳を胸にグっと置くボクだったが、どうせモンスターがその辺の木まで吹き飛ばしてくれるだろうから心配ないかも知れない。

 ボクには自動退避機能が備わっているのだ。


 ズシーンズシーンと歩くサムライの後ろにくっついて観察していたおかげで、森は怖いけどこの人がいるから大丈夫かなという気になってきた。

 確かにこの人は強そうだ、この森のモンスターなんて一撃かもしれない、と思えば少し安心して心も落ち着いてきたのだ。


 と思ってる矢先に足を止めたサムライは、『ここで待っておれ』とボクをその場に置いて離れようとする。

 サ、サ、サムライが行っちゃう!


「ど、どこに行くのですか」


 せっかく落ち着いた不安が、またもや初期値に戻りそうな勢いで急上昇するので慌てて付いて行こうとすると。


「用足しだ」

 と返ってきた。


 小さい頃の、お出かけ中に親とはぐれそうになった時の、あの『クゥゥゥゥン』という感覚を久しぶりに味わってしまったじゃないですか。

 トイレなら最初からそう言って欲しい、寡黙なのも考え物です。


 少し安心しながら心の中で抗議したボクは、『ふうー』とその場に座ってしまった。

『大丈夫かみのりん殿』と、すぐそばまでやってきてくれたサムライを見上げる。


「あんまり遠くには行かないで下さい、今のボクではモンスターに全く対処できませんから」

「うむ」


 サムライはボクを見下ろすと、袴の片方を上げだしたのである。

 なるほどなるほど、袴での用足しはこうやるのか、初めて知った。じゃなくて。


「なんですか、さすがに真横はやめてください。遠くに行くなとは言いましたけど近すぎです、そうですね三メートルくらいで妥協しましょう。あ、やっぱり二メートルにします」

「遠慮はいらん、これだけ近ければ安心だろう」

 遠慮なんかしとらんわ!


「心配せずともよい、モンスターなどには指一本触れさせぬ」


 自信満々で答えるサムライは、ボクの方を向いて言う。


「こっちに振り向くなあああ」

 近い近い、真正面!


「どうしたそんなに恐れるな、ワシがおればモンスターなど恐れる事は何も無いぞ」

「あなたを恐れてるんですよ! はやくそのモンスターを仕舞って下さい!」


 目が大なり〝>〟と小なり〝<〟の記号みたいになったボクを見て、やっと袴を直してくれたサムライ。


「失礼した、ワシの家は男ばかりでな、どうにもこういう所がガサツでいかん、許せ」

 用も引っ込んでしもうた、がはは、と笑う。


 ガチモンの女の子だったら、あなためちゃくちゃ嫌われてますよ。

 変態が出たとSNSで一気に拡散されて人生終了ですよ。


 サムライが笑いながら、へたり込んでいるボクに手を差し出して立たせてくれた。

 意外と紳士的な行為に驚いたけど、さっきのアレの後じゃ遅すぎだし、せめて手は洗ってからにして欲しかったです。


 早くおうちに帰りたい……しまった家なんか無かった。

 この人一体ボクに何の用があるというのだろう、さっさと用件を言って欲しいものだ。


 じっとボクがサムライを見つめていると。


「そうあまりワシを見つめるな、女子(おなご)に見つめられると緊張して動けなくなるでな」

「はあ」


「実は女子が怖いのだ」


 サムライが唐突に語りだした。

 何言ってんのこの人。


 次回 「ボクをお嫁さんに下さい、は?」


 みのりん、モンスターの出る森で違う意味でピンチに陥る

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