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その3 ボクみのりんに依頼が舞い込んだ!


「今日もカレンさんと経験値稼ぎですか?」


 次の日の朝、いつものように朝の日課を終えて洗面所から出てくると、タオルを差し出した受付のお姉さんが尋ねてきた。

 因みに今日のラクガキは、オデコに笑顔の星が輝いていた。


「カレン……用事……」


 お姉さんの胸を見ながら答える。

 よしよし、今日もお姉さんと普通に会話ができたぞ、もちろん目なんか泳いでいないはずだ。


「そうですか今日はお休みでしたか、残念ですね」


 昨日の討伐が終った後で、カレンがすまなそうに今日の強盗団はお休みさせて欲しいと言ってきたのだ。

 強盗団にも休暇は必要なのである。


「実は、みのりんさんに依頼が来ているのです。今日お休みならばそちらの依頼を受けてみてはいかがですか」


 受付のお姉さんの言葉にボクの目はまんまるだ。


 依頼? 仕事の依頼? このボクに?

 なんとこの冒険者みのりんに、クエスト依頼が舞い込んだ!



****



 現在時刻は十二時ちょうど、ボクはギルド食堂のテーブルに依頼者と向かい合って座っていた、その依……


「俺たちゃ冒険者~~♪ 山越え谷越えどこまでもおおお♪」


 うるっさいな隣の席の人達は!

 昼間っからお酒を飲まないでください、冒険者なら冒険に行ってはどうでしょうか。


 むむむ、と隣を見て、依頼者に向き直った。

 テーブルの横には、この依頼を仲介してくれた受付のお姉さんがにこにこ微笑んで立っている。


 ボクの依頼者は男性、この点は正直ホッとした。女性の依頼ではボクの許容量を大きく越えてしまうのだ。しかし、その他の点ではホっとできない。


 目の前のソレは、筋骨隆々とした大男で羽織姿、今は見えないけど先ほど歩いてきた時には袴が見えた。


 テーブルの横には、座る際にこの男が腰から鞘ごと抜き取って立てかけた刀。

 伸ばせば肩まで届きそうな黒髪を頭の後ろで束ねて立たせ、額には大きな刀傷(もう刀傷って言っちゃうよ)があった。


「ワシはこの町でサムライをやっておるものだ」

 そうでしょうねーー。


「こ、こんにちは、昨日はどうもでした」


 実は昨日ボク達を助けてくれた筋肉男はこのサムライなのだが、やはり世界観に合わないその姿に少々引き気味に答える。


 まあ、拙者とかゴザルとか言い出さなかっただけでも良かったのだろうか。

 でも羽織を着るのならその下に着物も着てください、なんで筋肉ムキだしなんですか。胸の筋肉『ビクン』はやめて下さい。


「では、後は若いお二人で」


 おかしいおかしい、受付のお姉さんの立ち去る時の言葉おかしい。


「あっちの廃城、こっちのダンジョン♪ おれたちゃ恐れぬ♪ 怖いものなし♪」

「怖いものなし!」


 あーうるさい! 隣の席うるさい。

 酔っ払いはどうしてすぐに歌うのか。


「あ、そこのお姉ちゃん、酒のおかわり頼むよ~」

「私は受付業務がありますので、注文はウェイトレスにお願いいたします」


 隣の酔っ払いに、注文で声をかけられた受付のお姉さんがにっこり微笑んだ。

 酔っ払いのオジサンは、自分が声をかけた相手を見て固まっている。


「ハイ……」


「今日はみのりん殿に、折り入って頼み事があってやってきた」


 急にお通夜みたいに静かになった隣を見ていたら、こちらの話に引き戻された。


 しかし、このサムライさっきから微動だにしないんだけど、まさかガッチガチになってるのだろうか、そんなわけないよね。


「その前に、お聞きしたいことがあります」

「何だ? 報酬の件か」


 報酬も魅力的だったけど、どうしても確認しなければいけない事がある。


「その、ぶしつけで申し訳ないのですが聞かせて頂きます、額の傷はどうしました?」


 相手はどうでもいい事を、と思っただろうか、でも確認は必要だ。

 これで、バナナで滑って転んで目の前にいた猫にバリっとやられた、とかだったらこのクエストは断わろう。どーせろくな事にはならないのだ。


「十年前の合戦で、一騎打ちをした相手の大将に付けられた傷だ、相手は討ち取ったが供養として残しておる。稀に見る好敵手だった」


 ガチです――この人ガチです――


 ようやく真面目な異世界の住民を見た気がする、よりにもよってサムライだけど。


「この傷が何か問題でもあるのか?」

「いえ、ボクのような娘っ子というものは、そういう些細な事が気になるのです」


「そうか、そういうものなのか。なるほど相手の男の顔だものな」


 納得してくれたようで良かったけど、ん?


 しばし二人の間に沈黙が流れ、サムライは微動だにせずボクを見つめている。

 手持ち無沙汰のボクは、受付のお姉さんが置いていったお茶をすすった。


「ワシに他に聞きたい事はないのか」

「そうですね、特にはないです」


「趣味を聞いたりはしないのか? こういった場では聞いたりするものと覚えておるが」


 全く一ミリも興味が無いんですけど、この世界の決め事みたいなものならば、お聞きしましょう。


「あの……サムライさんのご趣味は」

「無い」


 じゃ何で聞けって言ったんですか、お見合いみたいな雰囲気になるのを覚悟で聞いたのに。


「みのりん殿の趣味はなんだ」

「ボクは……異世界転生ですかね」

「うむ」


 リアクション薄いなあこの人。

 一生懸命好きなものを思い出して答えたのに。まあ、返答に困る回答だったのにはちょっと反省。


「では、そろそろワシの頼み事を聞いてくれるかな」

「内容次第ですけど、今日は森での討伐がキャンセルになって、時間が開いてますし簡単な依頼でしたら」


「そうか、ならばワシと森に討伐はどうだ、ワシの頼み事はどこでも聞かせられるものなのでな、こうして向かい合っておるとどうにも緊張していかん」


 この巨体で何を緊張する事があるのか。


 何故かボクは唐突に討伐することになった。


 次回 「サムライと討伐へ どうしてこうなった」


 みのりん、ろくでもない事になりそうな予感しかしない

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