その2 カレンとボクのモンスターお肉強盗団
カレンはボク達の事をお肉強盗団と言ったが、いつもの二人パーティの行動と言えば。
モンスターの鼻息でボクが飛ばされ、カレンが相手を仕留め、お肉の部位を毟って二体目に追いかけられて逃亡。
討伐というより強盗に近い二人だったからだ。
速攻でお肉を取ってくるのでたいした量も無く、カレンがお肉屋さんとのバトルの末にお金をゲットするのだけど、たいてい一人一ゴールドか、二ゴールドの稼ぎだった。
正直に言うと、カレンは一人で討伐した方が間違いなく稼げるはずなのだ。でもみのりんパーティは楽しいと笑顔を向けてくる彼女に何も言えなかった。
ボクもカレンと一緒のパーティが楽しくて仕方無い。もう他は何もいらない。
カレンの笑顔と、やんばるトントンハンバーグと、ステーキと甘いお菓子があれば何もいらない。
門でパーティになった二人は草原を抜けて森に入る直前だ。
「今日こそはいい部位を持って帰ろうと思うんだ」
部位と言われると力が抜けるけど仕方無い、これはカレンの活力なのだ。
どーせボクは力が抜けようが、みなぎっていようが、その数値の差は科学者でも測れないだろう。これは自信あるぞエッヘン。
カレンは準備体操に余念が無い、ボクも一緒に体操だ。
ミニスカートの女の子達が、森の前で一生懸命体操をしている図はマヌケな光景なのだろうが、二人とも真剣である。
何しろ十数分後には、ボクのスキルで惹きつけたモンスターから全力で逃げなければいけないのだ。
ボクが真剣な理由はもう一つある、ミニスカートで体操するカレンがパン的なものチラでしようものなら、ボクは即カクンなのだ。
一切気が抜けない緊張感漂う体操なのである。
「よし、いくよみのりん」
カレンの言葉にボクはこくこくと合図を返し、二人で『せーのっ』と森の中に足を踏み入れる。
不思議と最近は森の中が怖くない、多分カレンがそばにいるからなのだろう。彼女と一緒だと安心できるのだ。
カレンを先頭に森の中を進んでいくと、前の方でガサガサと音が聞こえた。
「前方にモンちゃんの気配がする……みのりんはここで待ってて」
その場にボクを待機させると、カレンが正面の草むらへと慎重に入っていく。
今日はいつもと違い、モンスターに先制攻撃を仕掛けられるかもしれない。緊張の一瞬だ。
「ごくり」
「ごくり」
ボクは息を飲んだ。
ん? なんだか『ごくり』がもう一個あったような。
振り向くと、ボクの真後ろで一体のやんばるトントンが、カレンの様子を緊張して見守っていた。
そうかそうか、やっぱりあなたもカレンの先制攻撃が成功するか否か、緊張して『ごくり』してしまいますよね。皆一緒。
さあ一緒にカレンを応援しましょう。
ってなんでやね――
「ぶきーーーっ」
もう少し待って貰えなかったですかね、もうちょっとでボクの華麗なるノリつっこみが完成していたのに、せっかちすぎます。
『ぶきー』の鼻息でそのまま正面に吹っ飛びながら、心の中で抗議をする。声に出すと舌を噛んでしまうからだ。
「え?」
前には驚いて振り向いたカレンがいた、当然ながらボクは彼女に命中。
カレンはボクを抱き止めてくれて木に激突こそしなかったものの、彼女の柔らかい感触に結局ボクのヒットポイントは〝1〟に低下、そのままカクンとなった。
慌ててカレンがボクの口に回復薬を放り込む。
ここまでは良かったのだが問題が起きた。
ガサガサ音がした前方からも、もう一体の〝やんばるトントン〟が現われたのだ。
挟まれてしまったのだ。前門の〝やんばるトントン〟後門の〝やんばるトントン〟である。
パン屋さんに売っている、やんばるトントンのハムを挟んだサンドイッチは大好きだが、やんばるトントンに挟まれるのは遠慮したい。
一体目の後で二体目のモンスターが現れるのはいつもの事だけど、今回はそれが同時に起きてしまった。
「一度に出るのはさすがに反則です、順番はちゃんと守ってください。こちらにも都合があるんですよ、わかってますか」
モンスターに説教を始めたボクを伏せさせると、ロングソードを構えるカレン。
前後に挟まれた状態ではどちらか一方を斬っても反対側にやられてしまう、これは不味い。
カレンはスキル発動でモンスターを倒すと、次のスキル発動まで半日以上かかり、その間はポンコツと化すのだ。
「お願い精霊達、風の流れを作って!」
カレンが精霊にスキルの発動を促すと、彼女の剣が光り輝き、周囲に風が巻き起こる。風の精霊達が彼女に応えてくれているのだ。
モンスター達は二体同時に突進!
もろに食らえば二人ともペチャンコになってしまう。
このままでは〝みのりんせんべい〟と〝カレンせんべい〟の出来上がりだ。
しかしカレンも瞬時に動く。そして、モンスターよりもカレンの方が断然速い!
「スパイクトルネード!」
彼女が叫び、スキルが発動!
カレンの剣は正面から後方に振り切られ、カマイタチのように風が空気を180度に切り裂いた!
『シュゴオォォ――ン』
という剣が空を切る音の後には、背中とお腹に分離するという珍しい斬り方をされたモンスターが二体転がっていたのだ。
「凄い!」
本当に凄い、彼女のスキルはいつ見ても惚れ惚れする。
ここからのカレンの動きもまた速かった。
テキパキとお肉に解体すると、豚足を二本袋に詰めたのだ。これほどの笑顔はないというくらいの満面の笑みである。幸せの絶頂だ。
ところが、である。
今日は既に二体出たし、もう打ち止めだろうと安心していたところに出現したのは三体目。
「ちょっと、あなた達の出番は今日は終了のはずですよ。アポもなしで三体目ってなんですか、明日にしてください明日に」
「逃げるよ!」
カレンがモンスターに説教を開始したボクの手を引いて、一目散に逃亡を開始。
いつもならここで強盗団は馬鹿みたいな速度で逃げるのだが、今回はボクがしくじってしまった。
何かに躓いて転んでしまったのだ。
石だか木の根だか、リスだか自分の足だかに躓いて豪快に転び、立ちあがろうとするボクの真後ろに迫り来るモンスター!
「みのりん! 危ない!」
カレンがボクの前に飛び出し、身代わりにモンスターの体当たりを受けようとして――
何故かモンスターはそこで『ビクン』と止まってしまったのだ、そしてそのまま反対側に全速力で逃げていく。
何が起こったのかわからず二人はポカンとしていたが、カレンがボクに振り向いて『ビクン』となった。
ボクもつられて振り向いて盛大に『ビクン』
ボクの真後ろに巨大な筋肉のバケモノが立っていたからだ。
こんなのがいきなり現れたら誰だって『ビクン』ですわ。
それは山のような筋肉もりもりの男だった。
大男の胸の筋肉が『ビクン』となる。
そっちの『ビクン』は余計ですから。
そいつはボクの頭を恐々と撫で。
「無事でなにより、そなたの名前を教えてはくれんかな」
「み、みのりんです、ありがとうございます。そっちの子はカレンです」
「うむ、みのりん殿か、覚えておこう。また会おうぞみのりん殿」
その男はカレンの事は目に入っていないのか、わざと避けている様子で、ズシーンズシーンと去って行った。
男が去った後、ボク達二人は顔を見合わせる。
「大きな冒険者だったねえ! あの人何回か見かけた事あるよ!」
「ボクも……」
その特徴的な姿を、この冒険者の町に来たその日に見かけていたのだった。
そして今朝宿屋で会釈をした相手でもある。
次回 「ボクみのりんに依頼が舞い込んだ!」
みのりん、まさかの依頼主と会う。




