その16 マーシャ、英雄になる
「おかひい、腑に落ひない。もぐもぐ」
「何……れふか……もぐもぐ」
イカっ娘にとってはまだ問題は解決していないみたいで、自分がお皿に乗せられて救出された事が腑に落ちないのだろうか。
その前にお互いめがろ丼を食べ終わってから話しましょう。
ついでにお皿から降りてください。
「メガロドンを退治したのにイカが減ってる気がする。冒険者の皆には引き続き調査を依頼したいんだけど」
「多分あれじゃないかしら」
イカっ娘の疑問にミーシアが指差した方を見ると、イカがどんどん吊り上げられていくのが見えた。大漁である。
「な、何だあれは!」
「あー、あれうちのイカ釣り漁船だわよって、教えてあげるつもりは無いんだけどね」
あ、気がついたんですね鬼姫。
とりあえずお皿から降りましょうか。
「鬼が島へ転送途中にカレンを落っことしたから探していたのよ。焦ってないけど焦ったわ」
「あはは、そうか、私途中で落っこちてたんだね」
そんな呑気な話じゃありませんよカレン、どこに転送してんですかって話ですよ。
こんな長距離で落っことしたなんて言われても、逆によく発見できましたね。
「ん? この烏賊宮城の上が鬼が島だけど?」
「は?」
「だから、烏賊宮城の横がちょっと行くと崖になってるでしょ。これ鬼が島の海中部分なのよね、上に行ったら鬼が島」
「は、初めて知ったでゲソ。新事実に驚きを隠せないでゲソ」
驚きすぎて語尾が戻ってますよイカっ娘。
「カレンを探してる途中でサメに襲われたんじゃないかなーってところまでは覚えているんだけど、全部夢だったみたいね。気が付いたらサメいないし」
いえ、あなた現実世界で思いっきり食べられてましたけど。あなたの足がサメの口からはみ出てるのを見た時に、盛大に鼻水が吹き出しましたよ、ええ。
「いやー、邪魔になっていたメガロドンを退治してもらって、益々鬼が島の漁業が盛んになるわね。助かっちゃったわありがとう、お礼は言わないけどね」
「お礼言ってるじゃなイカ。それと困るでゲソ、可愛いイカを獲るなんて鬼みたい事しないで欲しいでゲソ!」
鬼ですけど。
「そう言われても鬼の海の家で売る物が無いと、鬼が島も財政難で困らないけど困るのよね。外資を稼がないと」
あの海の家が鬼が島の財政全てを引き受けているんですか。というかイカ以外も売ればいいのに。
「こうなったら烏賊宮城と鬼が島との全面戦争だゲソ!」
「望むところだオニ!」
待って待って、こんな所で第一次イカ大戦なんか引き起こさないでください。
やるんならボクたちが帰ってからにしてもらえませんか。
「こんな至近距離で戦争なんか勃発したら互いに共倒れじゃな」
「うう、それは困るでゲソ……」
「困らないけど困るオニ……」
語尾って意外と便利だなとボクが思い始めた時だ。
「こうしたらどうかな?」
カレンの提案で烏賊宮城には鬼が島へ再生可能なイカの足を提供してもらって、海の家ではゲソ焼きを売る。
イカを食べにやって来たメガロドンを退治して、新名物〝めがろ丼〟を烏賊宮城の新たな観光資源にする。そして観光客は鬼の秘術の転送で烏賊宮城へと呼び込む。
という事になった、お互いウィンウィンだ。
「メガロドンをどうやって倒すのかとか、鬼の秘術の転送の信用度の無さの問題とかはいいのかな」
うん、全てが解決である。
あはは、マーシャはまたドジっ娘力を発揮して変な疑問が湧いちゃうんですから。
「さすが乙姫さまだな、実に素晴らしい案である」
「うむ、乙姫さまがいれば烏賊宮城は安泰だな」
「我らの乙姫さまバンザーイ」
「乙姫さま! 乙姫さま!」
すみません、烏賊宮城の人たちには悪いんですけどそれカレンですから。連れて帰りますからね。
全てがうやむやのまま丸く収まった次の朝、ボクたちは地上へ帰る事になった。
「乙姫カレンよ、誠にご苦労であった。乙姫カレンの肖像画は烏賊宮城の廊下にて飾り、歴代乙姫さまとして代々語り継がれるであろう」
渡された紙を読みながらそう述べたのはカレンである。
「ありがとう!」
ほらー、カレンが自分にお礼を述べて、それに対してお礼を言うという凄くもやもやした結果になっちゃったじゃないですか。
「嫌じゃあ、乙姫さまと別れるのは嫌じゃあ」
「乙姫さま! 帰らないでくれえ!」
「帰るの反対!」
「残れ! 残れ!」
なんですかこの帰れコールの逆みたいな状況は。
烏賊宮城の人からこんなに慕われていたんですね。
さすがカレンというか、でも困りましたねこれじゃ帰り辛いじゃないですか。
「ピチピチ乙姫さまあ!」
「足がすべすべ乙姫さまあ!」
「乙姫さまは若い方がいいんじゃあ」
「婆姫さまと交換してくれ」
さて帰りますよカレン、長居は無用です。
「はい、爺さんたちオッサンたち減点。後で乙姫さまに報告と。あ、皆さんありがとね、これつまらない物だけど烏賊手箱でゲソ」
ホントにつまらないものですね、出てきたイカスミで頭がツルツルとか何の嫌がらせですか。
「まあ貰える物なら貰っておこうかな、タダだし」
「マジですかタンポポ、そんなの貰ってどうするんですか、頭ツルツルですよ?」
「今更あのオッサンの頭がツルツルになろうが知った事かって思うかな。むしろ頭を洗うのが楽になっていいかも、拭くだけで済むんだもん」
もう少しあのオジサンに優しくしてあげて下さい、悲しくなって涙が出てきちゃいました。
「私んちはまともな収納が無いからね。これで立派な家具が装備されるんだもん」
「収納あっても入れる物が無いでしょ、あなたんち」
ボクたちは一旦地上の鬼が島に転送してもらって、そこから更に転送でマリーナンの町に帰った。乗り継ぎみたいなものである。
今回は誰も忘れられず全員無事に転送が完了したみたいだ。
「無事じゃなかったかな。私岩場の中に転送されたんだもん、石の中にだよ? 〝いしのなかにいる〟って謎の言葉が頭に浮かんで来たよ」
鬼の転送秘術はもう二度と使わないでおこう……
間違えて女風呂にでも転送されたら死しか見えない。
「でもそのままタンポポが岩を動かせばゴーレムごっこができたかも知れないですね」
「手も足も無いのに動かしようが無いんだよ」
その日の午後、マリーナンのビーチはドラゴンに襲われた。
襲われたというか、ドラゴン隕石が落ちてきて砂浜にクレーターを作ったのだ。
今目の前で魔王ちゃんがぷんすか怒っている。
どうやら鬼が島に魔王ちゃんを忘れてきたらしい、で銀竜に乗って帰ってきたというか落ちて来たのだ。
落ちて来た衝撃でマーシャが波に攫われてミーシアが慌てて救出に行き、姉妹揃ってぷかぷか波間に浮いたおかげでマリーナンの町は助かった。
銀竜の魔王出現に驚くはずだったミーシアの火炎爆発魔法から、ビーチと町を救ったのである。
マーシャは町を救った英雄になったのだ。
その英雄はミーシアと一緒にプカーと浮いた状態で、ボクの使い魔シロが曳航してくる。
シロにも今回ちゃんと出番があったのだ。
夕日を浴びて帰って来る英雄の姿にボクはゆっくりと敬礼した。
今回の冒険でマーシャが一番凄い事をやってのけたのだ。
鬼が島も烏賊宮城もイカも一切関係ない部分で。
22話を読んでいただいてありがとうございました。
次回は23話になります。
またしばらく書き溜めたいと思います。
投稿したらまたよろしくお願いします!
新作もよかったら読んでみてください。




