その14 巨大サメの口にはやっぱり爆発物だよね
最終兵器魔王ちゃんがメガロドンに歩み寄る、最終兵器というだけあって堂々とした歩みである。
「おい貴様! そこの魚! 迷惑じゃからどこかよそへ行って、ぶくぶくぶー」
最終兵器は不良品だった。
大慌てで膜の外側で裏返ってぷかぷか浮いている魔王ちゃんを回収した。
カレンが魔王ちゃんの胸を押すと、ピューっと水と魚を吐いた。だからいつの時代の漫画ですかと。
「忘れておったわ、わらわは浮き輪が無いと泳げんのだ」
だってここにやって来た時に、水の中なのに全く余裕な顔をしてたじゃないですか。さすが魔王だと感心してたんですけど。
「浮き輪が無いから諦めとっただけじゃが」
溺れるの前提で開き直っていただけだったんですか、ボクの感心を今すぐ返してください。
そうだ、銀竜を大至急呼んでください。こうなったら怪獣大戦争にしましょう。
「残念なお知らせじゃが銀竜のやつも泳げんからな、ぷかぷか裏返って終わりじゃろうな。溶岩の風呂でもたまに溺れとるからなあいつ」
最終兵器不発のお知らせ――
終ったーボクたちは烏賊牢にぶち込まれて、一生烏賊働きさせられるんだ。
ポンコツ強盗団だった――
なんですかこれ、いつもはボクたちが一人一人とんでもない力を発揮して周りの人の度肝を抜くパターンなのに、今回それが逆になってます。
まさか全員がポンコツになるとは……みんなしてボクの立ち居地を脅かさないでくれませんか。
隣でポケーっと、巨大サメを見ている面白オバケにも一応聞いておこうか。
「あのサメを操縦できませんか」
「牛じゃないしあんな怪獣無理だもん、中に入ったら私が消えちゃうかな。食べられてるイカの中になら入れそうだけど」
ですよねー。
残るは……
『わん!』
犬かきしかできん、ですか。わかってますよ、犬にサメと戦えなんて無茶は言いませんよさすがに。
……詰んだかも知れない、これは詰んだかも知れない。
「ういー」
はっ! この声は! そうだ、まだサクサクがいるじゃないか! チート剣士サクサクばんざーい!
「ういー、すやあ」
寝ないで下さい! 一瞬で出番が終った事に対して何か思うところは無いんですか!
サクサクは登場と同時に寝た。だめだ朝から酔っ払ってるよ、何しに出てきたんですかこの人は。
幸せそうに寝てるのを起こすのも忍びない、ボクはこの人にどでかい借りがあるのだ。
烏賊宮城の人たちが詰め寄って来る、詰め寄って行き過ぎてまた戻ってきた。詰め込みすぎてイカ飯の具が出ちゃった感じですかね。
ボクたちのパニックぶりをよそにメガロドンは悠々と泳いでいる。このポンコツ共がと、その目は語っているようだ。
「あああ、あれよく見て!」
鬼っ娘摩鬼の慌てた様子にメガロドンを観察してみる。
よーく見るとメガロドンの口から二本の足が出ていた。
イカの足? ではなさそうな。
「あれ、鬼姫さまの足」
ひいい、食べられちゃってるじゃないですか!
「でも大丈夫だよ、鬼族は一日や二日くらい水の中に潜ってても溺れないから」
いやそういう問題じゃないでしょ!
というかあなたここに来た時に速攻で溺れてましたよね。
個人の能力差ですか、そうですか。
随分幅がありますね、鬼火……ファイアーボールの件といい、さてはあなたは結構なポンコツですね。
「いい事思いついちゃった! 鬼姫さまにメガロドンの中で鬼火をぶっ放してもらえればいいんじゃないかな?」
それですよ! やっぱり巨大サメを倒すには、ボンベか何かを口の中に放り込んで大爆発ですよね!
「よし! 鬼姫さまごと木っ端微塵にしてしまおう!」
ちょっとそれは待って下さい。
まさか公爵家令嬢として、鬼が島の姫の座を狙ったりしてないでしょうね?
「えーやだよ、海の家と鬼が島の多角経営なんてとても無理だよ」
同列なんですね、海の家と鬼が島。
鬼姫をなんとか起こすことでボクたちの意見は一致した。
「おおーい! 姫さまー! だめだね、鬼姫様は寝てるのかな聞こえないみたい」
携帯電話とか持って無いみたいだしなあ。
「大丈夫だよ! そこで鬼の秘術の出番だよ! 私の声を姫さまの所に直接転送すればいいんだから」
凄い! 通信技術の革新じゃないですか!
「ふふん、鬼の秘術はいろんな事に転用できるのさ! 通信機器なんて発明する必要なし!」
鬼っ娘摩鬼は早速小型の箱を出してそれに向かって喋り出した。
うん、その箱が既に通信機器なんじゃないかとつっこみたいんですけど、いいですかね。
「CQCQこちらコードネーム摩鬼、至急姫さまに連絡送信願う『鬼火一発大至急』、オーバー」
「了解コードネーム摩鬼。『鬼火一発大至急』送信、送信先姫さま」
果たして大丈夫だろうか、でも物質転送は不安だらけだけど音声だけなら何とかなりそうでもある。
なんとか鬼姫に届いて! と願っていると近くにいた烏賊宮城の人の声が聞こえてきた。
「はいはいもしもし? 鬼火の出前大至急で? すみませんねえ、うちの烏賊宮城では鬼火の出前はやってないんですよ、イカ火ならあるんですけどねえ」
ぜんぜん何とかならなかった!
どこに転送してるんですか! というかイカ火って何ですか!
「何をやってるの? あのメガロドンの口に挟まってる人を起こせばいいの?」
そうなんですよイカっ娘。
なんとかあの口に挟まっている爆発物を起爆したいんですけど、水の中じゃどうしようもないんですよ。
「なんだそんな事、水の中なら私にお任せ! 私の種族なら水中なんてスイスイのスイーだよ。あんなサメごときに引けはとらないんだよ!」
危険なフラグを立てまくっている気がしてならないんですけど、イカっ娘にお願いできますか。
「まっかせなさい! じゃ早速行って来るよ!」
イカっ娘が膜の外側に出て行った。
さすがに海洋種族だけはある、その素早い動きはボクたち陸の住民にはとても無理なものだった。
イカっ娘はスイーっとメガロドンに近づいていって――
食われた。
だからフラグ立てすぎなんじゃないかって心配だったんですよ!
どうしよう……どうしよう……
もう! こうなったらやるしかないじゃないですか!
木の棒を握り締める。
そう! ボクがやるしかないじゃないか!
次回 「対メガロドン戦!」
みのりん、イカとの謎の勝負に勝つ
新作を始めました
盛大な勘違いから始まる魔物を吹き飛ばしながら進む逃亡劇です
よろしかったら読んでみてください
人々は叫ぶ『モブパーティー万歳』。勇者パーティーの無能担当、追放されたのでモブパーティーに入ったら最強伝説を作ってました。何故か相手が吹き飛ぶんです。




