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その11 ボクがお風呂屋さんに行けるわけがない


 洗濯場でノビていたボクを発見したのは受付のお姉さんだった。


 そろそろ暗くなるのに、カレンへのおつかいから戻ってこないボクを心配したお姉さん。

 仕事を助手のお姉さんに任せて、カレンに行方を聞こうと彼女の家に行く途中で橋の上から何気なく覗いたら、ボクがおかしな服を着て倒れていた、という事らしい。


 洗濯途中のボクの服を見て事情を察してくれた彼女は、その場で代わりに洗濯してくれた。

 洗濯見学のオジサンがまた休憩に現われたけど、受付のお姉さんを見た瞬間に消えた。カレンの時よりも素早い行動である。


 そして、その時事件が起こった――


「みのりんさん、これから一緒にお風呂に行きましょう」


 ようやく回復したボクに、お姉さんは地獄の一言を発したのである。


 ――お風呂――

 人々が裸になり湯に浸かる地獄の儀式。


 それは今のボクが最も恐れていた儀式なのだ。

 服を着替えるだけでも大変だったのに、裸の女の子の自分の身体を自分で洗うだと――


 そんな恐ろしい行為ができる人間が、この世の中にどれだけ存在するというんだ。ほとんど勇者じゃないか。


 さっき横たわって川を眺めながら、いっその事服を着たまま川に飛び込んで身体を洗ってしまおうか、などと考えていた程だ。


「ダメですよ、みのりんさんは昨日もお風呂に入らずに寝てしまったじゃないですか。女の子は清潔にしなくちゃいけません。オジサンや男の子なら一ヶ月くらい放っておいてから川にドボンで済みますけど、女の子はそうはいきませんからね」


 オジサンと男の子の扱い随分ですね。


「この近くに銭湯がありますから、一緒に行きましょう」


 お姉さんは洗濯物を持ち、羽織っていたショールをボクにかけると、ボクの手を引いて歩き始めた。強制連行である。


 歩いて数分、本当に近くに銭湯はあった。どーせならたどり着くまでに、二、三年くらいかかってほしかったのに。

 女湯ののれんを女性達がくぐっていくのを見て、ボクは男湯ののれんをくぐろうとして逮捕された。


 ボクはこっちでいいですから……


「女の子を男湯に入れられるわけが無いでしょう、何を考えてるんですかみのりんさんは」


 ボクが女湯に入れるわけが無いでしょう、何を考えてるんですか受付のお姉さんは。


「男湯を覗いてみたいというのもわかりますが、そういうのに興味を持つのはまだ早いですよ」


 メ! といったポーズのお姉さん。

 すみません、そんなものにボクは微塵も興味なんか無いんですけど。


「男湯なんかに入ったら、みのりんさんを中心にオジサン達がスクラムを組みますけど、それでもいいんですか」

 それは嫌です、さすがに涙目になる。


 有無を言わさず女湯ののれんをくぐらされたボク。

 こんな恐ろしい地獄の門がかつてあっただろうか。


 絶対に目を開けるもんか、絶対にだ!


 熱気と花の香り、なんてこった、周りに沢山の女性の気配がする。正にここは生き地獄だ、銭湯じゃなく戦闘という名前こそが相応しい。


 目を硬く閉じたままのボクは、お姉さんにテキパキと服を剥ぎ取られていった。

 さすが受付のお姉さんだ、今まで税金の足りない分を身包み剥いできただけの事はあるのだ、プロの仕事だこれは。


「あ、みのりんだ、一緒に入ろう!」


 よりにもよって聞き覚えのある声が近づいてくる。

 思わず目を開けてしまい、うすだいだい色のカレンを見て足から崩れ落ちてしまった。


 慌てて目を閉じて顔を手で押さえて、瞼からの光の透過もシャットアウト。


「もう、女の子同士なんだから恥ずかしがらなくてもいいのに」


 カレンと受付のお姉さんに抱きかかえられて、湯船に浸かる。

 ボクが沈まないようにカレンがそっと抱いてくれて、受付のお姉さんも支えてくれた。


 アラート、アラート、緊急事態。デフコン2、デフコン2。


 あああ、当たってるんですよ、二人の柔らかいものが、ああ、当たって……

 プツン――


 誠に残念なお知らせですが、ここから先は描写がありません。

 何故ならボクはとうとう湯船でカクンとなりましたので。


 気絶したボクを二人は洗ってくれたようで、お風呂に入れるのも飛行機に乗せるのも気絶させてからやってもらうと大変にラクチンなのである。

 気がついた時、銭湯の休憩所でボクは寝かされていた。


「気が付いた? みのりん湯あたりしちゃったんだね。受付のお姉さんは仕事があるって先に帰ったよ、ここでしばらく休んだら私がギルドまで送っていくよ」


 上からボクを覗き込んでいるのは、お風呂あがりの髪が濡れたカレンの顔だ。


 ツインテールじゃないカレンの姿は新鮮な美しさがあった。

 至近距離からのカレンの顔に慌ててその下の胸を見ようとしたが、見ることはできなかった。何故なら胸越しにカレンの顔があるアングルなのだ。


 どうしてこんなアングルでカレンが見えるのか。

 理由は簡単だ、本日二度目のカレンの膝枕だからである。


 女の子の膝枕――ああ、こりゃダメだ。

 スーッと意識が遠のいていく。


「ゆっくり休んでね、今日は疲れたよね。初めて異世界に来て一人ぼっちで大変だったよね。私はここに居てあげるから大丈夫だよ」


 カレンがボクの頭を撫でてくれる感触。


 ボクは薄れていく意識の途中、そして夢の中でまた懐かしい歌を聞いていた。


 第2話 「転生翌日、ボクはフル稼働」 読んで頂いてありがとうございました。


 次回から第3話になります。

 新キャラが登場します、果たしてどのような風貌の人物なのでしょうか。


 次回 第3話 「その男……山のような筋肉サムライ」

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