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その10 水辺から筋肉モンスター現る


「俺のみのりんちゃんこんにちは!」


 それはマンクの声だった。

 誰が俺のですか。


 なんと言うか、あっさり見つかってしまった。マンクが橋を歩いてきたら速攻で隠れようとチラチラ警戒してたのだけど、これは防ぎようが無いよ……


 なんとマンクは目の前の川の中から現われたのだ。


「あひゃあ」


 あまりにも驚いて、情けない声でしりもちをついてしまった。

 何でこの人、川の中から……


「気がついたら川の中で寝てたんだわ~」


 今日一日の出来事を思い出す。朝起きて、鑑定屋さんまで町の探検をして、カレンと一緒にお菓子を食べて、そうそう、カレンと初めてパーティも組んだんだ。

森への冒険は怖かったけどワクワクした、初討伐に初めてお金も手に入れて、初めてのお買い物。楽しかったなー今日はとてもいい一日だった――


 ここまでは。


 マンクは川から上がるとボクの前に立つ、仁王立ちである。

 ベンチのオジサンにSOSを出そうと振り向くと、オジサンは申し訳無さそうに視線を外し立ち上がった。


「助け……」


 オジサンダッシュ、カレンのお陰で培った逃走能力は伊達じゃない。

 駆けて行くオジサンを見送った後、諦めてボクはマンクと向き合う。


「みのりんちゃんその格好……まさか」

「ち、違います。これは露出狂とか違くて」


「俺へのサービスか」

「断じて違うと宣言しておきましょうか」


「その姿は反則だぞ、はあ、可愛いなあ、触るしかないじゃないか。触っていいんだよな俺?」

「いいわけないですよね! お触り反対です、禁止です、ダメです!」


 じりじり寄ってくる、水辺から這い出て来た怪物。

 何系のモンスターですかあなたは、もうさっさと川に帰ってください。


 洗濯場での攻防である。

 昔のモンスター映画みたいな状況に、立ち上がって逃げようとするが、どうやら腰が抜けたようだ。


「こ、腰が……」

「大丈夫だ」

 なにがです?


「だ、抱きついたら、いいい、一週間ご飯奢らせますからね!」

「え? 一週間分で触れるの?」

 違う違う。


「一週間分ていったって、あ、朝昼晩ですよ? フフン、ボクを甘く見てもらっては困るのですよ」

「一週間朝昼晩よろこんで!」


「待って! 待って! 間違えたから! 一ヶ月! 一ヶ月の間違いだから!」

「よしっ」

 よしじゃないですううう。


 もう逃げられないのを悟り、一回だけハグさせて川にお帰り願おうと提案。

 ただし条件があります。


「ボクの背中はもろいのです! どうしていつも背骨を破壊しようとするのですか!」

「モンスター相手にいつも全力で戦う筋肉、それがこのマンク様だ。でもこの辺りかな? と加減してるはずだが」


 ボクの背骨強度をモンスター基準で測られても困るんですけど。いいからそのポーズやめてください。


「わかった、もっと出力を落としてそっとやるから」


 出力とか重機みたいで不安になる言い方しないでください、信用できない。


「じゃーあの橋脚で練習してみてください」

 ボクが示した橋脚に抱きつくマンク。


「いいですか? 仔犬、そう仔犬を抱くみたいにそっとですよ」

「わかった、仔犬だな。まかせとけ、そーっと」


 橋脚がバキっとひしゃげる。仔犬なら、間違いなく仔犬せんべいになってた。

 無言になった二人の頭上でカラスがカアカア鳴いている、もうそろそろ夕方だ。

 

 夕日を背に体育座りで落ち込んでいるのはマンク。

 その隣で、危うく〝みのりんせんべい〟になる寸前だった事に愕然として、やはり体育座りで落ち込むボク。


「女の子と接触がなかったばっかりに……やっぱり俺はダメだな……」


 橋脚バキと女の子との接触には何の因果関係もなさそうだけど、寂しそうな顔に思わずキュンとなる。

 その『キュン』を今すぐボクの心の中からつかみ出して、ゴミ箱に捨てたくなった。


 女の子と縁が無い。そういう意味では、このモンクはボクの同志なんだよな……


「手……手を握るくらいならいいですよ」


 慰めるような笑顔で、マンクに向けて手を差し出した。

 握手くらいなら全然抵抗はない、一生洗わないとか言われると引くけど。


「ホントかみのりんちゃん! うおー! 一生顔も手も洗わないぜ!」

「顔関係ないでしょ! 何する気ですか!」


「何ってみのりんちゃん、わかってるくせに」

 全然わからんわ、その顔をグーパンチで殴っていいって事かな?


 とにかくいくらなんでも普段コップ持ったりしてるんだし、抱くは無理でも握るは大丈夫でしょう?


「いいいいいくぞ、みのりんちゃん」

「は、鼻息荒すぎなんですけど」


 たかが握手でなぜこんなに威圧感を出せるのか、恐ろしい男だ。


「いだだだだだ!」

 甘かった! こいつ握力計とか破壊するタイプだ!


「ふんがー! やっぱり優しいなあみのりんちゃんは! マイスイートポテトだぜ!」

「あー! どさくさに紛れて抱きつくなあああ! お尻を触るなあああ! 折れる折れる、背中折れる、背骨! 背骨が――!」


 さっきの落ち込みはなんだったんですか! あとスイートハートと言いたいんですか? バカでしょ? バカなんでしょ? 脳味噌も筋肉なんでしょ?


 さっきこいつを可哀想に思った自分に説教したい。

 正座させて二時間は説教したい。


 背骨にダメージを負い回復まで動けないボクは、洗濯場に横たわりながら、水辺へと帰還していくモンスターを見送っていた。


 少女とのひと時のふれあいを終え、夕日を浴び川に帰っていく筋肉モンスター。

 無駄にいい感じのシーンなのがムカツク。


 ところで、誰か回復薬持ってませんか。


 次回 「ボクがお風呂屋さんに行けるわけがない」


 みのりん、お風呂に連行される。

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