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その5 女の子が感じる甘いってこんななの!?


「ホント、頭にくるよね」


 見ていた事を(とが)められたのかと、謝ろうとしたら。


「あのオジサンいっつもそう! 毎回毎回、洗濯する女の子達のスカートの中を覗こうとしてくるんだよ! 今日こそはとっ捕まえて土手に封印してやろうと思ったのに、また巧みに逃げられちゃったよ。いっつも知らないうちに逃げちゃうんだよ」


 と、カレンはまだぷんぷん怒っている様子だった。


 ボクを見つけたカレンは、洗濯物をカゴにしまうと土手を上がって橋の上のボクの所までやって来ていた。


 カレンは昨日転生者のボクを迎えに来てくれた女の子で、お肉となったモンスターの〝やんばるトントン〟を除けば始めて遭遇したこの世界の住人である。

『昨日ぶり』と挨拶するカレンに、女の子との会話に当然キョドりながら挨拶を返したボクは、橋の欄干(らんかん)に背中を預けて彼女と並んで立っている。


 サーっと橋の上を流れる爽やかな風。


 カレンのツインテールがその風になびいてボクの腕に触れる度に、女の子コミュ障のボクは身体を硬直させて、その髪が触れた部分に全神経を集中させてしまうのが情けない。

 たぶん今カレンに手を握られでもしたら、腰が抜けてしまうだろう。


「全く酷いよね。女の子がそうそう毎回、甘いお菓子に釣られると思ったら大間違いなんかふぁふぁ」


 不自然な語尾にカレンの顔を盗み見ると、怒っていた彼女が満面の笑みでお菓子を頬張っていた。


 これはつっこむべきなんだろうか、悩みながら手の中の半分もらったお菓子を眺める。

 美味しそうなので、ボクも口に入れてみた。


 なに~~これ~~。


 口から脳天に突き抜けていく衝撃と快感、全身がふにゃふにゃにとろけそうで足に力が入らない。

 え? 甘味ってこんなんだっけ? 『甘い』なんかで表現できる簡単な味覚じゃないぞ。


 あま――あひゃぁ――い、だ。


「やっぱり、女の子は甘いお菓子に弱いよね、この快感は女の子に生まれて良かったと思うよ」


 え、カレン……こ……これが、女の子が感じている『甘い』なの!


 女の子達が甘いスイーツを追い求める理由がわかった、ボクはふにゃふにゃになりながら学習する。

 ボクですらこれだ、完全無欠な女の子のカレンなら、さらに凄い甘味を感じているのだろうか。

 と、カレンを見ようとしてハっとする。


 思い出した……彼女にはボクが男の娘だという事は絶対にバレてはいけない。


 昨日ボクは、錯乱して彼女のお尻を触ってしまった。

 そして話に聞かされた、悲惨なオジサン転生者の末路。


 同じように錯乱してカレンのお尻を触った後で、成敗されてお触り代を取られ、税金を払えなくなり身ぐるみ剥がされたという、イタズラする子供に話して聞かせたら二度とイタズラしなくなってもおかしくない恐怖のお話だ。


 カレンはボクが人間の女の子だと思ったから許してくれたんだろう、でも実は男の娘だと知ったら……


 絶対にバレてはいけない! 絶対にだ!


 お菓子を食べているカレンの口が、別の理由で開いたのはその時だ。


「そうそう、みのりんて男の娘だったのね……」


 ボクの転生人生の幕が下りた。実に短い春だった。


 指についた砂糖をぺろぺろした状態で瞳孔が開き動かなくなったボク。


「男の娘だったんだ……」


 そう呟きながらカレンがお菓子を頬張る、はわわ~ん。

 ボクも硬直しながらお菓子を頬張る、はわわ~ん。


 橋の上で仲良く並んでお菓子を食べている女の子二人の、微笑ましい風景だと通行人は思っただろうか。


 見れば確かに、二人ともお菓子を食べる度に〝はわわ~ん〟となっているが、注意深い人は気付けるかもしれない。 

 一人は青くなったり〝はわわ~ん〟したりを繰り返して、最後の晩餐をとっているのだ。


 これから処刑する側と処刑される側に分かれるコンビなのである。


 二人ともお菓子を食べ終えてしまった。

 カレンはお菓子の余韻を楽しんでいるのか、それともこれから始める刑に考えを巡らせているのか、静かに目を閉じている。


 何でバレた、何で。そんなに大きくない町だから、誰ともなく早く噂が拡がったのかな。


「ど……て……知……」


 ブルブル震えながら、死ぬ前に真相だけは聞いておきたいと尋ねる。

 ボクの問いに一瞬奇妙な顔をしたカレンだったが、すぐに気がついたのか。


「昨日の夕方だけど、橋の上、そうまさにこの場所でね、へべれけになった酔っ払いにぶつかりそうになった」

 思い出しながら語り始めてくれた。


「そいつ、私にぶつかりそうになって大声で悲鳴を上げて、失礼しちゃうよね、悲鳴を上げるなら私の方でしょうに。で私に向かって、『いつまでもお前らの思い通りになると思ったら大間違いだ、もうお前らなんかどうでもいい、ビクビクする必要も無い。俺は天使を手に入れたんだ、みのりんちゃんという天使を! あの子は男の娘だから触っていいんだぜ! ああ、男の娘サイコーっ』て――叫んでた」


 話の途中からボクの顔は無表情に、途中から真相はどうでもよくなった。


 ボクの頭に浮かんだ容疑者は一名。話の再現映像で映し出された男も、完全に一致していた、あのやたらと抱きついてくるモンクだ。

 それであいつはどうなったんだろうか。そのままカレンが、ボクの道連れに始末してくれてたらいいんだけど。


「そいつ、サイコーって叫んだ後、ここから川に向かってえろえろ吐いて、そのまま川に落ちてったよ。まだ沈んでるんじゃないかな」


 川を覗き込んでいたカレンがボクの方に振り向いた時、彼女にはもうボクの姿は見えなくなっていたと思う。

 何故なら、ボクはカレンの足元で土下座をしていたからだ。


「すみ……せん……! 身ぐ……許し……!」


 身ぐるみ剥ぐのだけはどうか許してください!

 カレンが固まる。


 ……でもせめて、始末するのなら一撃で(ほふ)ってください、そうして頂けるのなら、この一張羅(いっちょうら)の献上もやぶさかではありません。

 真っ青になり観念したように服を脱ごうとするボクを、カレンが慌てて止める。


「な、なに? みのりんどうしちゃったの?」


 狼狽(ろうばい)したカレンはあろう事かボクを抱きしめた。

 ああなるほど、こういう始末の仕方か……


 女の子に抱きしめられたボクは、カレンの腕の中でカクンとなった。


 次回 「初めてパーティを組んだ!」


 みのりん、やっと冒険者のような事をする。

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