その2 マジックアイテムが羨ましすぎるボク
鑑定屋さんが見つからない。
探して歩いているうちに町の門まで来てしまったのだ、ここから先はモンスターの領域なのである。
門の真横にある、『ボッタッタ商店』という看板がかけられたお店から出てきた冒険者のオジサンに、道を尋ねる事にした。
「あの、すみません『鑑定屋さん』を探しているのですが、道に迷ってしまって」
「鑑定屋ならここだぜ?」
と親指で後ろを差したのは、たった今オジサンが出てきた店だ。
目の前に一軒のお店が建っている。
まさか門の真横の店とは思わなかった。
後で受付のお姉さんに聞いた話では、お宝を見つけた冒険者が町に入ってすぐに利用できるようにその場所にあるのだとか。
『ボッタッタ商店』という店名の由来が店主の名前なのか、行為なのか、大昔のゲームのネタを被らないように微妙に変えてるのか、色々つっこみたいのを我慢して冒険者のオジサンにお礼を言った。
「ありがとうございます、全然見つからなくて困ってたんです。お陰で助かりました」
初心者の駆け出し丸出しだが、冒険者は最初は誰でもこんなものだよねオジサン。
「でもこの店はパンツは買ってくれないぜお嬢ちゃん」
誰がそんなものを売りにきましたか。
「そっち方面の鑑定屋はこの通りをまっすぐ行って、途中でピンク横丁に曲がるだろ、その奥の三角屋根の建物の三階の手前から二番目の扉だよ、今なら営業してるはずだ」
そんなどうでもいい情報はインプットしませんからね。
それにしてもやたら詳しいなこのオジサン。
「なんならオジサンが直接買い取ろうか。オジサン廃品回収の許可証も趣味で持ってるから大丈夫だよ。お願いします! 是非!」
何故かすがるように懇願しだしたオジサンを完全無視して店の扉を開ける。
駆け出しの冒険者が初期装備を売っちゃったら、ボクは何を装備すればいいんですか、オジサンも冒険者のくせにまったく。初心者の心を忘れちゃダメですよ。
「こんにちは」
店の奥に居る店主が男性であるのを確かめ、ホっとしてから入店する。女性だったらボクの手には負えないので帰ってたかも知れない。
店内の広さは十畳くらいだろうか、商品も並べられていた。鑑定した商品の買取、販売もやっているのだという。
冒険者が持ち込んだお宝だけあって、さすがに一筋縄ではいかない、何に使うのかよくわからない商品が並んでいる。
『にゃーのふえ』『アカネラッコの皮』『キスリンゴの葉』『ネギ』……
一部、違う意味でよくわからない商品も目に入ったが、これは期待できるかも知れない。
店内では一人の男の人が店主と交渉をしていた、冒険者のようだ。
持ち帰ったアイテムの交渉って初めて見るので、参考までに見学しようか。
「なあ、うちのかかあが三年間着てたネグリジェだ、モンスター避けになると思うぜ? 買い取ってくれよ」
「うちは古着屋ではない、中古店かマニアショップにでも行ってくれ」
ピンク横丁のその奥の三角屋根の建物の三階の手前から二番目の扉の店ですね。
しまったインプットしてしまっている、後で削除しないと。
あまり参考になりそうにない交渉だった、交渉見学は中止して店内の見学にしようっと。
「断わられたんだよ! なあ頼むよもうここしかないんだよ。今月の生活費飲んじまって、このままだとかかあに殺されるんだよ。助けると思って頼む、次にアイテムを取ってきたら無料で差し出すから」
「ふむ、モンスター避けにはなりそうだな、百ゴールド出そう」
店主は鑑定でもしたのか、ざっとそのアイテムを見ると交渉が成立したようだ。
「助かった、これでかかあに殺されずに済む」
自分のナイトウェアがモンスター避けに売られているのを、奥さんに見つけられたら殺されると思うけど、その辺の危機管理はどうなのだろうか。
ホクホク顔のオジサン冒険者はボクに気が付いたようで話しかけてきた。
「お姉ちゃんも何か売りに来たのかい? 買いに来たのかな? お姉ちゃんどこの店? 指名料いくら?」
後半の質問の意味がわからない。
「ここは日常でも使えるアイテムを売ってるから便利だぜー。よし、オジサンがお姉ちゃんにいろいろ教えてやるよ」
オジサンが町の女の子にちょっかいをかけてるのはたまに見かけたけど、まさか自分にふりかかろうとは……
目線を下の棚に向けると鏡が目に入った、そんなのも売ってるんだ。
「さすが女の子、鏡とか気になるよね。これすげーんだぜ、その辺の鏡とは違ってマジックアイテムなんだよ。こうやって例えば女の子を一旦鏡に映すだろ」
オジサン冒険者がボクに鏡を向けると、そこに自分の姿が映って『ひい』とキョドってしまった。
「そうすっとな、一回鏡に記憶させた物は映さなくてもあらゆる角度から見られるんだよ、三分くらいだけどな」
それは凄い! マジックアイテムってやっぱり凄い、この世界にもそういうアイテムがあるなんてワクワクする!
鏡を色んな角度にしていたオジサン冒険者は、鏡でいうと下からの角度を眺めて幸せそうな笑顔になったかと思うと。
「親父! これくれ、いくらだ!」
「百ゴールド」
躊躇なく代金を払っているけど、生活費を飲んで奥さんに殺されるんじゃなかったのか。
でもいいなあ、マジックアイテムいいなあ。
買い物を済ませたオジサンは、店から出る時にまたボクの姿を鏡に映した。
会心の笑顔だ。
マジックアイテムかっこいいなあ。
次回 「なんでボクの足を鑑定するんですか」
みのりん、鑑定屋のオジサンに凝視される。




