第37話 堂々たる想い
王都の朝は、いつもよりも澄んだ空気に満ちていた。
石畳を踏みしめる音が、広場の賑やかな声の間で静かに響く。
その中を、レオニスは普段よりも背筋を伸ばして歩いていた。
胸の奥で、昨夜の出来事がまだ静かに鼓動している。
――あの瞬間、彼女の手を握った。
――あの唇に触れた。
部下たちは、そんな彼の表情を見逃さなかった。
「団長、随分ご機嫌ですね……」
「……気にするな」
軽く咳払いをしながらも、口元の柔らかい笑みは隠せない。
騎士団長としての威厳を保ちつつも、心の奥は完全にリリアーナで満たされていた。
その日の昼、レオニスは王立図書館を訪れた。
館内の静寂に混じる紙の擦れる音や小さな咳払いが、彼の歩みを迎える。
奥の机で、リリアーナは本の整理をしていた。
淡い亜麻色の髪が光を受けて輝き、机に向かう背中は以前より少し大人びて見える。
「……レオニス様?」
顔を上げた彼女は、少し驚いたような目を瞬かせた。
「お仕事の途中で……」
「息抜きだ。それに――君に会いたくなった」
その堂々たる言葉に、周囲の職員たちは思わず視線をそらす。
しかし、レオニスは気にせずリリアーナの前に歩み寄る。
「……どうして、そんなに堂々としていられるの?」
彼女の声はかすかに震え、頬が紅く染まる。
「堂々としていなければならない理由がある」
レオニスは静かに言い、彼女の手を取った。
その指先は温かく、心地よい重みを伴う。
「君は――俺の婚約者だ。誰が何と言おうと、俺のそばにいる」
リリアーナは一瞬息を呑み、手を少し引こうとする。
「でも、ここは……図書館……みんなの前で……」
「関係ない。もう隠す必要はない」
レオニスの瞳には揺るぎない決意が宿る。
その真剣な眼差しに、彼女は思わず視線を逸らした。
「……レオニス様……本当に……」
言葉が続かず、頬を染めたまま俯くリリアーナ。
「本当だ。君を守るためなら、俺は全力を尽くす」
周囲の職員たちがざわめく中、レオニスは堂々と宣言した。
誰もが驚き、そしてその熱意に心を動かされる。
リリアーナの耳に、彼の低く確かな声が届く。
――私を、守ってくれる。
その想いが胸に深く響き、彼女の心臓は高鳴った。
「……わ、私も……レオニス様を……」
言いかけて、リリアーナは唇を軽く押さえる。
その小さな仕草に、レオニスは微笑む。
「口に出せなくてもいい。心で伝わっている」
その瞬間、図書館の扉の外で小さな笑い声が聞こえ、他の職員たちも柔らかく微笑んだ。
祝福する空気が、静かに二人を包む。
レオニスは彼女の肩に軽く手を置き、少し身体を寄せる。
「もう、誰にも遠慮する必要はない」
「はい……」
頬を染めながらも、リリアーナはゆっくりと頷いた。
窓から差し込む陽光に照らされ、二人の影が机に重なり合う。
彼の胸に抱かれたまま、リリアーナは小さく息を吐く。
――ここにいられる幸せ。
――彼に触れられる喜び。
「これからもずっと、そばにいるから」
レオニスの声は静かに、しかし力強く響いた。
「はい……ずっと、そばに」
外では鐘の音が高く鳴り響く。
新しい朝を告げるその音が、二人の未来を祝福しているかのように。
周囲の祝福の中、二人は手を握ったまま、そっと微笑み合う。
――すべてを乗り越えて、ようやくここにいる。
――これからの時間を、二人で刻んでいく。
愛と信頼で結ばれたその瞬間が、王都の朝に柔らかく溶け込んでいった。
無事完結しました
読んでくださった方ありがとうございます
なんてじれったい二人と皆様思ったことでしょう
さっさとくっつけよと(ʘᗩʘ’)
私もそう思いましたがようやくくっついてくれてよかったです
おそらくこの二人は主にレオニスがリリアーナの事好きすぎて
周りに牽制し続けることでしょう
ではまたどこかでお会いできたら嬉しいです。




