表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
図書館の静寂に、君を想う  作者: はるさんた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/44

第31話 図書館の静寂と鼓動

 午前の陽光が、図書館の大きな窓から差し込み、木の机や本棚を柔らかく照らしていた。

 リリアーナ・ハーヴェイは、窓際の机に腰を下ろし、資料の整理をしている。亜麻色の髪が肩に落ち、光を受けて淡く輝く。脚立から落ちかけたあの出来事から数日が経ち、心の奥で少しずつ胸の高鳴りが残っていた。


 その日も館内は静かで、ページをめくる音や遠くの足音だけが響く。

 「……ふぅ」

 ため息混じりにリリアーナは、手元の書類を整える。普段の仕事と変わらないはずなのに、あの時の記憶が心のどこかで疼く。


 ふと、気配を感じて顔を上げる。

 窓の外ではなく、館内の入り口付近。そこに立っていたのは――銀灰色の髪に蒼い瞳、騎士団長の姿で知られるレオニス。まさか今日も来るとは思っていなかった。

 「あ……レオニス様」

 思わず声に出す。微かに震える声を、リリアーナは必死に抑えた。


 レオニスもまた、彼女の方を見つめる。瞳にわずかな緊張が滲むが、その表情はいつも通り落ち着いている。

 「……今日は、少し手伝いに来ただけだ」

 低く落ち着いた声が、図書館の静寂に響く。手には書類や本を抱えていない。助けるために来たときのように、ただ、そばにいるためだけの存在感。


 リリアーナは頷き、手元の整理を続ける。

 「……その、前のこと、ありがとうございました」

 つい口にしてしまった言葉に、心臓が高鳴る。レオニスは軽く目を伏せると、微かに微笑んだ。

 「……大したことではない」

 その声が、さらに心を揺さぶる。


 作業を続けながらも、リリアーナの意識は次第に彼の存在に集中していく。ページをめくる手がわずかに止まり、視線は何度もレオニスに向かう。

 レオニスは、彼女が困らないように、さりげなく机の位置を調整したり、資料を整理する手際の良さを褒める。

 「君は、こうして落ち着いて仕事をしている姿も、やはり見ていて安心する」

 その言葉に、リリアーナは顔が熱くなる。声に出されていない思いも、心の奥で彼に届いているのを感じた。


 しかし、あくまで冷静に振る舞おうとする。

 「……ありがとうございます。ですが、私は一人で大丈夫です」

 言葉はしっかりしているが、胸の奥では小さな波が立っている。


 沈黙の中で、ふと手が重なる瞬間があった。資料を整理する際に、二人の手が同じ本に触れる。小さな接触だが、リリアーナの心臓は跳ねる。レオニスも気づき、ほんの一瞬だけ視線を合わせる。

 「……気をつけろ」

 低く呟かれた声が、胸に直接響く。助けたときと同じく、彼は守る者の顔をしている。その眼差しに、リリアーナは思わず息を詰める。


 作業が一段落し、二人は少し距離を取って座る。

 「……今日も静かで、落ち着きますね」

 リリアーナは小さな声で言う。レオニスは軽く頷き、ただ黙って頷き返すだけだが、それだけで十分だった。


 仕事を終え、リリアーナが立ち上がる。

 「では、私はこれで……」

 言葉をかけ、微かに笑みを浮かべる。レオニスも立ち上がり、扉まで一緒に歩く。

 「……また来る」

 その声に、リリアーナは思わず立ち止まり、胸の奥で小さく鼓動が高鳴るのを感じた。


 図書館の扉の向こう、夕陽が差し込む通りを歩きながら、レオニスは静かに決意を固めていた。

 ――次に会うときは、もっと近くで、ちゃんと伝えよう。


 リリアーナもまた、胸の内で微かに呟く。

 ――前より、少しだけ近くなったかもしれない、と。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ