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図書館の静寂に、君を想う  作者: はるさんた


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第3話 静かな午後の図書館



二週間が過ぎた。


リリアーナはいつも通り図書館の扉を開ける。

朝の光が大理石の床に流れ込み、

整然と並んだ書架の間に静寂が満ちていく。


彼が最後に来てから、もうそんなに経つのか。

最初の一週間は、扉が開くたびに少しだけ胸が高鳴った。

けれど今はもう、静かな日常が戻ってきたように思える。


(やっぱり……高貴な方だったのね)

あれほど整った身なり、落ち着いた物腰。

きっと、こんな場所に何度も来るような身分ではないのだろう。

そう言い聞かせるように、リリアーナは机を整えた。


そのとき——扉が静かに開いた。


「……やっと、来られました」


聞き覚えのある低い声に、リリアーナの手が止まる。

振り向けば、銀灰の髪を光に透かす青年が立っていた。

蒼の瞳が柔らかく笑みを帯びている。


「……っ、こんにちは。お久しぶりです」

「ええ。少し仕事が立て込んでいて」


彼はそう言いながら、机の上に革の手袋を置いた。

その指先には、剣を握る人特有の硬い感触が見える。


「前に教えてもらった本がとてもよかった。続きを読もうと思って」

「また来てくださって……うれし――」


言いかけて、リリアーナは口をつぐんだ。

心の奥に湧いた気持ちは、まだ言葉にするには早すぎる。


「こちらです。続きの巻はこの棚の奥にあります」

彼女は本棚を案内しながら、

自分でもわからないほど小さな笑みを浮かべていた。


彼は穏やかにうなずき、椅子に腰を下ろす。

ページをめくるたびに紙の音が静かに響く。


リリアーナは机の陰からそっと彼の横顔を見つめた。

蒼の瞳に光が映り、銀灰の髪がさらりと揺れる。

その姿が、まるでこの静かな場所に最初から溶け込んでいるようだった。


(……この空気、落ち着くな)


自分でも気づかぬまま、

リリアーナの胸の奥に、小さな温もりが灯っていた。

けれどそれは恋というより、

ただ“心地よい静けさ”を分け合っているだけのような感覚だった。


やがて日が傾き、夕暮れの光が差し込む。

彼は本を閉じ、立ち上がった。


「また、来てもいいですか」

「……もちろんです。図書館は、いつでもお待ちしています」


リリアーナの声は少しだけ震えていた。

けれどそれを隠すように、彼は穏やかに笑う。


「ありがとう。……あなたと話すと、不思議と心が静まるんです」


そう言い残して去る背中を、

リリアーナはただ黙って見送った。


扉が閉まり、再び訪れた静寂。

けれど今日は、その静けささえ少し優しく感じられた。



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