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図書館の静寂に、君を想う  作者: はるさんた


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第23話 静かな図書館での一歩

光が図書館の窓から差し込み、木の床や棚に影を落としていた。

 亜麻色の髪をきらりと光らせながら、一冊一冊の本を丁寧に整理している。

 その手つきは慎重で、いつもの軽やかさは少し影を潜めていた。



 静かに本の背表紙を撫でながら、リリアーナはふと窓の外に視線を向ける。

 夏の光に揺れる緑の葉の間を、風が通り抜ける。

 その光景をぼんやり眺めるうち、心にわずかな安らぎを覚えた。

 けれど、安らぎの中に潜む、微かな不安を完全に拭うことはできない。


 そんな彼女を、遠くから見つめる者がいた。

 レオニス――公爵家の三男で、騎士団長。

 任務を終え、書類を片付けた後、偶然図書館を通りかかった。

 以前の図書館での短い会話を思い出し、心がじんわりと温かくなる。

 しかし、彼女の表情の陰りに、胸の奥が締めつけられる。


 レオニスは一歩ずつ慎重に近づく。

 無理に事情を聞くつもりはない。ただ、静かに彼女のそばに立ち、少しでも安心できる空気を届けたいだけだ。


「こんにちは」

 その声に、リリアーナは顔を上げる。目を大きく見開き、手にしていた本をぎゅっと抱きしめる。

 胸の奥で、少しだけ鼓動が早くなる。呼び捨てで呼ばれるのは日常のことなのに、それでも心が揺れるのだ。


 レオニスは少し微笑み、棚の前にそっと立った。

 「本の整理、手伝おうか?」

 無理に近づくのではなく、自然に距離を縮める。それが今、自分にできる精一杯のことだった。


 リリアーナは少し戸惑いながらも頷く。

 「……ええ、ありがとうございます」

 声は小さいが、確かに彼の耳に届いている。

 その言葉に、レオニスはわずかに安心し、胸の奥で小さな決意を新たにする。


 二人が並んで棚の本を整理する間、図書館には静寂と柔らかな光が満ちていた。

 リリアーナの手つきがわずかに力強くなるたび、レオニスの胸の中で安心感が広がる。

 しかし同時に、彼の心には焦りもある――縁談の話が彼女の心を重くしているのだから。


 「夏の光、きれいだね」

 レオニスがそっと呟く。

 リリアーナはふと顔を上げ、微笑む。

 「ええ、窓から入る光が気持ちいいですね」


 小さな会話が、二人の間に穏やかな時間を作る。

 まだ距離は遠いが、この静かな瞬間が、少しずつ距離を縮める第一歩になる。


 レオニスは心の中で繰り返す。

 ――焦らずに、少しずつ。

 ――まずは彼女のそばにいることから始めよう。


 夏の光が棚の隙間から差し込み、二人の影を揺らす。

 図書館の静寂は、ただの背景ではなく、二人の心を繋ぐ柔らかな空気になっていた。


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