表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
図書館の静寂に、君を想う  作者: はるさんた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/44

第15話 再び交わる視線

春も深まり、図書館の庭には小さな花が咲き誇り、緑の葉が風に揺れていた。

リリアーナは午前の業務を終え、返却本を棚に戻しながら、ふと外の通りに目をやる。


その瞬間、心臓が跳ねた。

石畳を進む一団の中に、銀灰色の髪が光る人物──

――レオニス。


数か月ぶりの再会だった。

鎧はないが、肩から騎士団長のマントを軽く羽織り、背筋は凛としている。

彼の歩き方、立ち振る舞い、自然に周囲に威厳を与えるその姿。

遠くからでも、すぐに彼だと分かる。


リリアーナは思わず息を呑んだ。

胸が高鳴り、手のひらが汗ばんでいる。

でも、彼にはまだ気づかれないよう、棚の間に隠れたまま息を潜める。


レオニスはふと立ち止まり、周囲を見渡した。

何かを確認するように視線が図書館の方に向く。

その目が一瞬、リリアーナのいる窓際に触れた気がした。



……リリアーナ

心の中で、自然と名前がこぼれる。

声には出さない。出せるはずもない。

ただ、胸の奥で響くその響きが、暖かくも切ない。


レオニスは短く会釈をして、すぐに向きを変えた。

きっと、いまは立場上、図書館の中に入ることはできない。

彼の世界は、あくまで騎士団長としてのもの。

自分は、ここで本を整理するだけの司書――

その違いを痛感して、リリアーナは胸を締めつけられた。


それでも、数歩歩いた後、レオニスはもう一度視線を戻す。

その瞬間、ほんのわずかだけ、微笑むような表情が見えた気がした。

リリアーナはその微笑みを心に焼き付け、

ふと涙がこぼれそうになるのを手で押さえる。


「やっぱり、私たちは同じ世界にはいないんだ……」

そう呟くと、リリアーナは深呼吸をひとつ。

棚に戻した本を整えながら、静かに自分に言い聞かせる。

“それでも、今日この一瞬に会えただけで、十分。”


春風が髪を揺らし、図書館の静けさに混じって、

遠くで馬車の車輪が石畳を転がる音が聞こえる。

レオニスはそのまま去っていった。

リリアーナは心の中で、そっと手を振る。

届かないことを分かっていても、

今日、この視線の交わりを忘れることはない。


窓越しに見送る背中。

胸に残る切なさと、わずかな温かさを抱え、

リリアーナはまた、日常へと足を踏み出すのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ