29 成長報告④
真面目な弟子は、相変わらず学年首位をキープしているようだ。
いくら優秀な魔術師でも苦手分野は必ず出てくるのに、今のところオールラウンダーらしい。筆記も実技も軒並み満点に近い。
成績表を見て、オフェリアは感心のため息をつく。
ちなみにオフェリアは魔法の計算学があまり得意ではない。計算学で導き出された結果を魔法で再現するのはできるが、結果を求める計算が高度だとお手上げだ。
しかしユーグはその難解な計算学を用いる魔法陣の研究も、クラークから変わらず学んでいるとのこと。しかも、楽しいと弟子は言う。
末恐ろしいとは、ユーグのような魔術師の卵を指すのだろう。
その証拠に、ユーグは新しい魔道具をオフェリアにプレゼントした。手のひらサイズの羅針盤には見覚えがあった。
「昨年お渡しした羅針盤の改良版です。連動させた専用の地図と併用すると、方角だけではなくだいたいの居場所までわかる設計なんです。羅針盤内部の魔法陣を二重構造にして、針の先に発光する石を着けて魔力を流すと――ほら」
ユーグは広げた大陸の地図の上に羅針盤を置いて、ゆっくりと針が示す方角へと動かした。するとルシアス学園のあるこの街ダレッタあたりの上に羅針盤が載った瞬間、石が小さく光って点滅した。
「ね? 僕の位置が正確に出るでしょう? ちなみに僕の羅針盤はお師匠様の位置を示すようにしてあります」
「凄いわね。どうしてこんなに正確に分かるのかしら?」
方角やおおよその距離が分かる羅針盤はこれまでも見たことがあったが、ピタリと当てる魔道具は初めて見る。
「互いの羅針盤に、最新の共鳴の魔法陣を仕込んであるのです。これで何か緊急事態が起きても、お師匠様がどこにいても再会できるはずです。僕が演習の授業で街から離れていても、急用ができたお師匠様もすぐに僕を見つけられると思います」
「確かに、何もないよりは安心ね」
連絡手段は緊急信号の魔法陣を施したチャームしか持っておらず、問題が起きたことが分かっても場所まで知ることはできない。
旅で移動し続けているオフェリアに、ユーグから接触できない状態だった。
ルシアス学園内は優秀で真面目な先生がいるから大丈夫だと思っていたが、何か不安なところがあるのだろう。オフェリアはしっかり受け取り、昨年もらった羅針盤と一緒にポーチに入れた。
そしてオフェリアは、お土産のあとに旅の最中で手に入れた解呪のヒントをまとめたノートをユーグに渡す。
「少しだけ収穫があったわ。ユーグは勉強に集中すべきなのは分かっているけれど、一応情報は共有しようと思って渡しておくわね。読むのは手が空いたときで良いから」
「ありがとうございます。嬉しいです」
ユーグはノートを手に取ると、愛おしそうに表紙を撫でた。
学園の授業とクラークの個人授業で忙しいユーグの負担になっても、喜ばれると思っていなかったオフェリアはパチパチと瞬きをした。
しかも師匠を気遣い喜んでいる演技ではなく、素で嬉しそうにしている様子だ。
「お師匠様?」
「どうして、そんなに嬉しそうなのか不思議で」
「お師匠様が僕に用意してくれた物は、どんなものでも嬉しいんです。特にこのノートはお師匠様の手書きだから、その……余計に嬉しいです」
ユーグが手作りした羅針盤と比べたらお粗末な物なのに、彼は宝物を扱うような手つきでノートだけを鞄に入れた。お土産は、買ってきたときのままの袋に入った状態。手作りか否かで、扱いの差が凄い。
ノートを大切そうにしてくれるのは、オフェリアとしても嬉しいが……
(各国で買ってきたお土産よりも、解呪のノートの方が嬉しいの!? 手書き……手作り物が恋しいってことかしら。料理は無理だから、次会うときは何か雑貨でも作ってみようかな)
ノートだけで喜んでくれるのだ。きちんとした手作りの贈り物をしたら、どれだけの反応を示してくれるか、想像してみると今から楽しみになってしまう。
滞在の一週間、オフェリアはユーグが好みそうなものを探りながらダレッタに滞在したのだった。





