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26 成長報告①

 

 クレス歴九百五十六年。

 オフェリアはルシアス学園がある街ダレッタに足を運んでいた。

 学園は新学期の準備に向けて一か月の休校期間に入る。そのうちの一週間が、愛弟子ユーグと再会を約束した時間。

 オフェリアは待ち合わせした学園近くのカフェのオープンテラスで、再会のときを待っていた。



「ここはあまり変わらないわね」



 大陸を旅していると、数年訪れていなかっただけで風景が変わってしまう街に驚くことが多い。

 しかしダレッタは、オフェリアが学生時代だった百年前の面影がまだ残っていた。

 統率された石造りの街並みが美しいままなのは、景観が損なわれないよう法律が決まっているのかもしれない。


 オフェリアは整った街並みを堪能しながら、お店おすすめのブレンドコーヒーを味わう。

 すると眺めていた景色が、人影に遮られてしまった。その人影はオフェリアの前でピタリと足を止めたと思うと、すっと彼女の隣へと距離を詰めた。



「美しい人、俺に少しだけあなたの時間をいただいても?」



 声をかけてきたのは、見知らぬ若い男性だった。少し癖のある金髪の前髪をさらっとかきあげ、オレンジ色の片眼でウィンクを送ってくる。自分の容姿に自信がある、いかにも軟派なタイプ。



(横っ面ひっぱたきたくなるような顔ね)



 心の中で思うだけに留め、オフェリアは無表情のまま冷たい視線だけを返す。

 男性は軽く目を見張って、肩をすくめた。



「おっと、急に失礼しました。道を教えてほしいんだ。ローブを着ているということは、この街に馴染みのある魔術師なのだろう? 黒百合の館という店に行きたいのだけど」



 黒百合の館は、人気の高級ローブ専門店だ。オフェリアの学生時代からある老舗で、ルシアス学園の指定ローブも取り扱っている。

 百年前から移転していなければ場所は分かるが……このカフェからだと行き方が複雑だ。口で教えたところで、辿り着けるかどうか怪しい。

 だからこの男性も『道案内』と言っており、同行相手にひとりで暇をつぶしていそうなオフェリアに声をかけたのだと推察できる。


 しかし席をはずしてユーグとすれ違うようなことは避けたい。オフェリアと離れたくないと泣いた可愛い弟子には、自分の都合で寂しい思いをさせているのだ。

 約束の場所にオフェリアがいないと知ったら、再び「見捨てられた」と勘違いさせ、ユーグのトラウマを刺激しかねない。

 男性には悪いが他を当たってもらおうと口を開こうとしたとき――



「黒百合の館までの地図を僕が書いてあげましょう」



 オフェリアと男性を割って入る人物が現れた。

 サラリと整えられた黒髪に、金色の瞳を持つにこやかな青年の容姿は、オフェリアの記憶より少し大人びている。一方で声はぐっと低くなり、すっかりあどけなさが消えてしまっていた。

 割って入ってきたのは、十六歳になったオフェリアの愛弟子ユーグだった。

 彼はポケットから手帳を取り出し、さっと道順を書いていく。紙をビリっと手帳から破いて、やや唖然としていた男性に差し出した。



「どうぞ」

「あ、いや……でも俺、地図があっても迷子になるような方向音痴だからさ」



 そういって男性はオフェリアをちらりと見たが、ユーグはメモを下げない。



「印をつけた場所の店に聞きながら向かえば、黒百合の館に迷わず着けるはずです。それにこの方の時間は、今から僕のものなのであなたにはあげられません。邪魔しないでいただけると嬉しいのですが」



 ユーグがぐっと笑みを深めれば、その圧に耐えかねた男性は顔を引き攣らせメモを手に取った。「あ、ありがとうよ」と言って慌てたようにカフェを離れていく。黒百合の館とはまったく逆方向に向かって、足取りは真っすぐに。



(あら、迷子じゃなくてただのナンパだったようね。やっぱり見た目も言葉遣いもチャラチャラした男は嫌だわ。それに比べて――)



 オフェリアは一年ぶりに顔を合わせたユーグを見上げた。



「ふふ、久しぶり。格好良くなったわね」



 そう言われた弟子の顔は、あっという間に真っ赤になった。



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弟子の重すぎる師匠愛(?)に翻弄される
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